表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミストライフ  作者: VRクロエ
霧の世界編
198/226

シェダの目的

 腹を貫かれながらも苦しそうな表情は一切見せないシェダ。これ以上は足掻く様子もないことから、俺はサギリを引き抜き血を払ってから鞘に納める。


「これがお前の望んだ結末か?」


 戦いの終わりまで見えていたというのならば、自分が負けることも分かっていたということになる。それなのに何故戦うことを選んだのか、終わってみてもその真意はやはり読み取ることが出来ない。

 腹に開いた穴からは夥しい量の血が流れ出ており、いずれ死ぬだろう。どんな目的があろうとも生かしておくつもりはないが、すぐに息の根を止めるのではなく、話くらいは聞いても良いだろうとは思う。


「俺の目的は・・・・・・ハクラを殺すことだ」

「なに?」

「あの男が世界を握れば全てが終わる。それだけはあってはならない」


 シェダの言葉は予想もしていないことだった。

 これまでの行動を見るにシェダはハクラに協力しているようにしか見えない。それがどうなればハクラを殺すことに繋がるのだろうか?


「俺の異能フューチャーシーは未来を見る力だ。だが訪れる未来を見るのではなく、望む未来に辿り着くための過程を見せる。それも万能ではない、全てが望んだ形ではなく、何かを切り捨てでもその未来に辿り着こうとするのだ。俺が望んだのはハクラが最後に敗れる未来、これまでのはあくまでもその未来に必要な行動だ」

「だったら・・・・・・アロマをお前が殺すことも必要だったって言うのか!!!」

「そうだ。アロマの、我が子の死によって引き起こされる貴様の暴走は必要過程だった。それだけだ」


 なんでもないことのように言うシェダに途方もない怒りが湧いてくる。


「アロマが・・・・・・死なないでもいい未来もあったはずだぞ!!!」

「否定はしない、あった可能性もあるからな。だが、俺にはそれを模索する選択肢はなかった。俺の異能が見せる最善択を選び続けることが、目的を達成するのには確実だからだ」

「理解できないな・・・・・・」

「できないか? 俺は自身すら目的のために捨てることを厭わなかった。貴様はどうだ? 世界から霧を消し去る時自分の死ぬというのに、俺と何が違う」

「それは・・・・・・だが、俺は大切なものを切り捨てる選択肢は取らない」

「そもそも切り捨てるという表現が適切ではないのだ。目的のためには命すらかけるのが貴様らの組織だったのではないのか? 覚悟の問題だろう」

「それは違う」

「フィオン・・・・・・」

「覚悟は持っていたさ。だがな、それは本人の心の持ちようの話であり、仲間の命を踏み台にして目的を遂行するという覚悟ではない。仲間の命を軽視するような覚悟に、一片の価値など存在しない」


 ミストライフのメンバーはいつだって覚悟を持っていた。生活班の子供達のような例外は別かもしれないが、世界の在り方と対立して生きると決めた以上、その為なら命を懸けるという覚悟が。

 その覚悟は自身の命であって、仲間の命を指している訳ではない。シェダの言うような、誰かの命の上に成り立つようなものではダメなのだ。


「いつだって仲間の命を使う選択肢は私は取らない。傲慢に、全てを願うだけだ」

「その結果で望む結果に辿り着けなくてもか?」

「そもそもの考え方が違うな。結果しか見ていないお前と私の違いだ」

「結果は見ていないと?」

「過程があり、結果があるのだ。結果だけを見据えていては大切なものを溢す、私はそれを望まない」

「傲慢だな」

「だからそう言ったではないか」


 フィオンの物言いに最初こそ顔を顰めていたシェダだが、徐々に可笑しいと笑い出す。


「そうか、それが俺と貴様らの違いか」

「理解したか?」

「ああ」


 いっそ清々しいような表情にまでなり、シェダは使っていた黒い剣をフィオンに差し出した。


「貴様らの覚悟、見せてもらった。フィオン、貴様にはこれをやろう、ハクラと戦うなら有効に働くはずだ」

「この剣は?」

「我が友から譲り受けた霧を無力化する剣だ」

「俺の父親から?」

「そうだ。どうやって作ったか、何が素材なのかは俺も知らない。効果は確かだがな」


 確かにこれがあればハクラ戦での切り札にもなりえる。確実に通用する攻撃手段が無かったフィオンにとってはありがたいものだ。


「ハクラは強大だ、今もなおその力を増している。心して挑むことだ」

「そうなる前にお前が倒せばよかったんじゃないか?」

「無理だな、俺では奴には勝てん。だからこそ、最も勝率の高い未来を目指したのだからな。だが忘れるな、未来は変わる。貴様らが奴に必ず勝てるという保証はどこにもない」

「安心しろ、直ぐにあの世で再会させてやるさ」

「ふっ、頼もしいことだ」


 シェダはそこで目を閉じた。元々生きている方が可笑しいくらい血が流れている、普通に話していたのは執念の成せる技か。


 こうして一つの戦いが終わる。復讐と目的が絡み合った歪な戦いは、達成感も後退く恨みも全てを無に帰して。


VRくん「味方にもなれたかもしれない奴だったな」

VRちゃん「そうね。でもアロマを殺した時点で不可能よ」

VRくん「確かに許そうとは思えないな」

VRちゃん「結局は目指す方向性の違いね。 さて次回! 『島内把握』 お楽しみに~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ