リーダーとしての言葉
会議が終わり数日が経過した今日、ミストライフの全メンバーが集められていた。
こうして見ると、その数が減ってしまったことが顕著に表れており、寂しさが押し寄せてくるが、沈んだ顔をしている者は誰もいない。
皆、誰かに生かされてここにいることが出来ていると分かっており、死んでいった仲間の為にも前を向こうと顔を上げているのだ。
やがて、招集をかけた本人であるフィオンがやってきて前に立つ。
「皆、集まってくれてありがとう。慣れない環境の中未だに慌ただしく動き回っているところすまない」
現在の俺達ミストライフはキャロルに、メリユースに世話になっている。100人ほどの人間を支えるには諸々の数もかなりかかる。唯世話になるわけにもいかないと、出来うる限りのことはそれぞれがやっていることだが、メリユースもレホラとの戦争など様々な面倒ごとがあり、さらには安定して間もないところだったので、そこまでの余裕があるわけではない。
拠点に残された数少ない物資も運び込みつつなので、かなり慌ただしい日々を皆が過ごしていた。
そんな中で出された招集。来れない者もいるかと思っていたが、どうにか都合をつけたようで全員が参加できるという結果になった。
「ミストライフの創設メンバーは私だけになってしまった。しかしこうして意思は継ぐことが出来ているのは、ここにいる全員の功績だ。そのことは素直に誇ろうじゃないか」
ミストライフの創設メンバーはフィオンにリレンザ、コナットさんと数名の研究員達だ。
「霧を消し去るという目的から始まり、しばらくはその為だけに活動してきた。変わったのはマキアが入ってからだな・・・・・・過酷な境遇にある者達に手を差し伸べ共存する。そうしてミストライフは大きくなった」
メンバーの大半はフィオンが今言った過酷な境遇にあった者達。俺が知る中ではミールが代表的だろう。
最終的なミストライフの形に最も大きく関わったマキアさんは、誰に対しても心優しい人だった。最後まで身を挺して皆を守ったのだ、その心は本物だったと誰も疑うことはない。
マキアさんに世話になった人は多く、生活班の殆どは当てはまるだろう。
そして最もマキアさんの近くにいた人物であるルコは、涙を流しながらも力強い瞳をしながらフィオンの話を聞いている。
「ミストライフ・・・・・・霧の命という意味を関する組織である私達の命はとても諸いものだった。全てを敵に回し、いつ霧のように霧散してしまうともしれない命。しかし死んでいった仲間の命は霧に例えられないほど大きいものだ。故に私達は止まってはならない! 全てをかけて戦う!」
フィオンはどこまでも力強く言葉を紡ぐ。
「私達の戦いとは敵をなぎ倒すことだけではない! 仲間が残したものはなんだ? ミストライフの意志は? 戦闘に参加できなくてもいい! 弱き者を助けろ! 強者に淘汰されるな! いつだって平和を目指せ!」
『平和』それこそを目指すのがミストライフの本質。霧を消し去るという目的から始まり、形となっていったミストライフという組織。俺が、命を懸けて戦おうと思えたリーダーのいる組織だ。
「私達調査班は行く! 決戦の地へと! そして・・・・・・始めて見せよう、新しい世界を」
終わりではない、始まりなのだ。何にも穢されていない世界で、窮屈な思いなどせず、無意味な争いなど起きない世界の始まりへの戦い。
「新たな世界でもミストライフの意志は絶やしてはならない、忘れてはならない、置いてきてはならないものも今の世界にはある。皆! 私の仲間達よ! これからもミストライフたれ!」
フィオンはそこまで言って、顔に優しい微笑みを浮かべる。
「ミストライフのリーダーとして、私が仲間達に残す最後の言葉だ。『平和な世界でまた会おう』」
フィオンはそう言うと、後には何も言わずに退室した。
残ったメンバー達の反応はまちまちだ。
涙を流す者、未来を見て気合を入れる者、死んだ仲間を思い出している者。
しかし心にはフィオンの言葉が確かに響いていた。長くリーダーとして自分たちを支えてきたフィオンの言葉が。
本当にいい仲間達だ。だからこそ、俺の中には罪悪感も大きい。
「平和な世界でまた会おう、か・・・・・・」
皆がそれを望んでいる中、俺は来る結末を知っているため、この仲間達と平和な世界で会えないことは分かっている。それが、心苦しい。
だけど悲観したりはしない。フィオンは言った、意志を絶やしてはならないと。
フィオンならば、この仲間達ならば、俺が死んだ後もその意思を継いでくれると確信しているから。だから俺は結果で残す、霧を消すという結果で。
「ははっ・・・・・・」
短い笑いが出る。最高の気分だった、未来に希望を持てるというのは。
「愛したのがお前で、本当に良かったよ」
ここにはいないフィオンに向かって、俺は小さく呟いたのだった。
VRくん「かっけーリーダーだな」
VRちゃん「皆がついてきたのも頷けるわね」
VRくん「にしてもフィオンは何でラクリィのことを知っているのにまた会おうなんて言ったんだ?」
VRちゃん「まあ皆に向けての言葉だからじゃない?」
VRくん「そんなもんか」
VRちゃん「そんなもんよ。 さて次回! 『親の意志』 お楽しみに~」