重荷に触れて
ランニングから戻ると、俺達の為に用意された建物の入り口にミシェが立っていた。
「早いねラクリィ」
「そっちこそ、どうしたんだ?」
「なんか目が覚めちゃってね、ラクリィが出ていくのが見えたから待ってたんだ。この子も渡したかったし」
ミシェは腰に下げていたグラムを差し出してきた。
暴走した時はフィオンが持っていたが、今はフィオンも剣を持ってられる精神状態ではないため、ミシェが代わりに持っていてくれたようだ。
「ありがとうミシェ」
「いいよ。それよりも、大事にしてあげてね?」
「ああ」
グラムもアロマから託されたものの一つだ。
俺がグラムを握ると、心配しているかのような感覚が伝わってくる。こいつにも随分と心配を掛けていたみたいだ。
もう大丈夫だという意志を伝えるとグラムは安心したかのように静かになった。
以前聞いていたが、グラムは心配性な性格らしいので、今後は心配をかけることがないようにしたい。
そんなことを考えていると、俺の真横でサギリが人型になって出てきた。
「ボクも心配しました・・・・・・暴走時は意志が届かなくなっていましたし、こうして人型にもなれずに」
「サギリ・・・・・・悪い、お前にも心配をかけたな」
「戻ってきてくれて良かったです。ボクのことももっと頼ってください」
「ありがとう。これからもよろしく頼むよ」
俺の言葉でサギリは小さく笑って本体に戻っていった。
その後起きてきた皆と食事を取りながら近状報告をしつつ、今後のことについても少し話し合ってから部屋に戻ってくる。
その際フィオンの食事を持ってきたので、まずはそれを食べ終わるのを待っていた。
作業のように食事をするフィオンを見ていると心が痛くなってくる。
食べ終えたフィオンはそのまま何をするでもなく、ただ窓の外を見つめるだけだった。
任せてくれとは言ったものの、どういう言葉を掛ければいいか、俺の中ではまだその答えを出せていない。
同じ状況にあったとはいえ、内容はかなり違いがある。俺にはフィオンが背負っていた重荷を簡単に語ることはできない。
ならまずは聞いて、その胸の内を知ることから始めよう。
「フィオン、お前が抱えていたこと、話してくれないか? 本当ならもっと早くに寄り添うべきだったのは今更の後悔だ。だけど、何も知らないまま、何もできないままお前に寄り添ってやれないのは、苦しいんだ・・・・・・」
「・・・・・・」
「ミストライフのリーダーとして、多くの仲間達の命を背負ってきたお前は、どれだけの物を抱えていたんだ? 俺が支えることはできなかったのか? そんなに、俺は頼りなかったのか・・・・・・?」
「・・・・・・」
フィオンは何も言わない。聞こえているのかすら怪しいところではあるが、今出来るのはこうして呼びかけるだけだ。
何度も何度も呼びかける。返事が無くて苦しくとも、最も苦しんでいるフィオンを想えば、俺の今感じている苦しみなど軽いものだ。
「もう・・・・・・立てないのならば、全部を俺に任せてくれてもいい。だけど、お前の苦しみを何も理解してやれないままなのは嫌なんだ! だからせめて・・・・・・話だけでもしてくれないか? お前の背負っているものを知り、これからは頼ってくれるなら、俺は1人でも世界を変えてみせる!」
「・・・・・・私は」
必死の叫びの中フィオンがぼそりと呟いた。
ハッとして顔を上げるとフィオンは窓の外を見たままだが、小さく、独り言のように話し出す。
「私は多くの人を、苦しめた。リレンザは私に縛られこんなところまできて、マキアは子との別れを。アロマからはラクリィの心を奪い、ラクリィからは・・・・・・アロマを奪った・・・・・・」
「それは・・・・・・!」
「間違ってはないさ。ミストライフの子供達ももっと楽な生活をさせる方法があったかもしれない。研究員達は国に仕えていればなに不自由なかっただろう。私は自分の為に多くを巻き込んで、結果この様だ」
「・・・・・・」
「もっと上手くやれたはずだ。もっと上手くやらなくてはならなかった。人の上に立つというのはそういうことだ。多くの責任が付き纏い、常に考え続けなくてはならない。私は失敗したんだ、それも最悪の形で。愛する人の大切な人まで失って・・・・・・救いようなど、あるわけがない」
今までに聞いたことがない程どこまでも卑屈なその言葉。そうなるまでに抱えていた果てしない重荷を感じ取り、何も言えなくなってしまう。
「私はたぶん、お前達のことを信頼しているように見せかけて、どこか底の方では本気で信用出来ていなかったんだろうな・・・・・・だから1人で抱えてしまった。助けてと言えば助けてくれただろうに、その簡単な言葉一つ言うことが出来なかった」
「フィオン・・・・・・」
「なあラクリィ、私は・・・・・・どうすれば良かったんだろう」
こちらに顔を向けたフィオンは、瞳に光を宿さないまま涙を流していた。
見ていられないその様子に俺はフィオンに駆け寄ってその身体をきつく抱きしめる。
「俺に、お前の全てをくれ! 必ず助けてやる!」
VRくん「話せるようにはなったみたいけど、どうなんだ?」
VRちゃん「まだ何とも言えないわね。立ち直れてる訳ではなさそう」
VRくん「出てくる言葉は卑屈なものばかりだな……見てるこっちまで辛くなってくる」
VRちゃん「ラクリィはここからどうするのかしら? さて次回! 『支え合うということ』 お楽しみに~」