調査班
訓練場まで移動してくる。
訓練場と言っても、色々なものがあったりするわけではなく、ただ洞窟の中を大きくくり抜いたようになってるだけだ。
ここ最近はランニングくらいしか出来なかったので、ここに来たのは1度見に来た時だけだ。
先程フィオンから武器を持ってくるように言われたので、恐らくは今日使う機会があるのだろう。
「ん? 誰かいるな」
訓練場の前まで来ると中から剣を打ち合うような音が聞こえてきた。確証はないが恐らく調査班のメンバ―だろう。
調査班は、実際に外に出て霧魔花の群生地を探したり、4国に潜入して動向を探ったりするという。
勿論戦いになることも多いので、メンバーは全員かなり強いらしい。
ただ、そういった理由から人数が少ないらしく、俺も今まで調査班のメンバーには出会えたことが無い。
中を覗くと俺と同じくらいの背丈で角刈りの男と、アロマほどの髪の長さのそこそこスタイルのいい女が模擬戦だろうか? 剣を打ち合っていた。
邪魔するのも悪いと思い少しその様子を眺めることにした。
しばらくして終わりなのか2人とも剣を下す。
遠目から見てただけだが、2人ともかなりの実力があるように思えた。
角刈りの男の方は、剣を2本持ちそれを巧みに使って戦っていた。武器を2本持つのは確かに理論上は強い。隙も生まれづらく手数も多いが、扱いが非常に難しいためそんなことをしてる奴はほとんど見たことが無い。あのレベルまで達するのには相当な苦労があっただろう。
女の方は軽そうな剣を持っているが、相手の攻撃を受け流すことに長けているようだ。相手の攻撃を受け流しつつ、自分に影響がないほどの小さな魔法をうまく使い相手の隙を作って攻撃している。
率直な感想を抱いていると2人がこちらを向いた。
「おい! そこにいる奴、お前がラクリィだな?」
「ああ、ラクリィは俺だが・・・・・・あんたは調査班のメンバーか?」
声を掛けられたので返事をしつつ俺も訓練場の中心に行く。
「俺は調査班のトアン・ジレオ。トアンでいい」
「私はミシェリア・アスワクだよ。長いからミシェでいいよー」
「知ってるみたいだが俺はラクリィだ。俺も調査班に入ることになったからよろしく」
2人と握手する。ミシャは普通に歓迎してくれてるようで安心した。トアンはあまり感情を出さないタイプなのかどう思ってるか分かりにくいが、歓迎されてないということはないと思う。
「とりあえずイルミアを抜いたら後はフィオンだけか」
「聞いてた通り調査班は人数が少ないんだな。それで、イルミアってのは?」
「イルミアは調査班のメンバーの1人なんだよ。とっても可愛い女の子!」
「やっと女だらけで肩身の狭い思いをしなくて済む・・・・・・」
トアンは苦笑気味だ。そんな様子を見てミシェはゲラゲラ笑いながらトアンの背中を叩いている。
とても仲が良さそうだ。
「それでそのイルミアはまだ来ないのか?」
「イルミアは今丁度外に出てるんだよ。だから後はフィオンだけ」
「そうなのか」
「全く。何でフィオンはこんな時に招集をかけたんだ・・・・・・後数日もすれば帰ってくるだろうに」
「悪かったな間が悪くて」
「あー! フィオンやっと来た!」
どうやら話しているうちにフィオンがやってきていたらしい。
フィオンは悪態をつくトアンに軽く蹴りを入れようとするが、トアンは体を少し捻り避けていた。
「ふん、まあいいさ・・・・・・。さて待たせて悪かったな。今日集まってもらったのは、新しい調査班のメンバーを紹介するためだったんだが――――――どうやら自己紹介くらいは終わったみたいだな」
「誰かさんが遅かったからな」
「いつまで言ってんのよ」
ミシェが呆れていた。
フィオンとトアンはお互い悪態をついているが、別に仲が悪いというわけではないんだろう。
「それで、今から何をするんだ? 武器を持ってくるように言ったんだから俺は何かしなくちゃいけないんだろ?」
俺の言葉でフィオンはトアンとのくだらないやり取りを辞めて小さく息を吐いた。
「ラクリィは今から私達に実力を見せてもらう」
なんだか前にも同じようなやり取りをしたな。
「仲間になるんだ、お前の実力を把握しておきたい。そうじゃないと俺もこいつらも背中を預けるのは怖いからな」
トアンの言い分はもっともだ。フィオンは多少俺のことも知っているようだったが、俺のことを、もっと言えば実力を知らない奴に背中は俺だって預けたいとは思わない。
俺もまだ調査班のメンバーの実力を把握しきれてないが、それはまあ後ででもいいだろう。
「ラクリィには今から私と模擬戦をしてもらう」
「フィオンがか・・・・・・まあ調査班にいるから戦えるだろうとは思ったが」
「なぁに安心しろ。手加減はちゃんとしてやるから」
「ふーん・・・・・・」
思わず乾いた笑いが出てしまった。
自分よりかなり対格差のある女にそんなことを言われれば黙ってやられるわけにはいかないな。
方向性は置いといて、とりあえずやる気は出た。
「そう言われたら勝たないわけにはいかないな。怪我するなよ?」
「ふっ、言ってろ」
俺達はバチバチに視線を交わしながらお互い準備に取り掛かった。