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ミストライフ  作者: VRクロエ
崩壊編
177/226

拠点での惨状

 もはや人としての形を留めているかどうかも怪しいコナットさんの前でフィオンは立ち尽くす。何を思っているか、そんなことは考えなくても伝わってきた。

 あまりにも痛々しい様子にかける言葉が見つからない。それでも、そのままにしておいてはいけないことだけは確かなので、並ぶように横に立った。

 俺自身何も思わない訳ではない。それどころか、優しくも探求心に溢れたコナットさんのことを思い出すだけで、こんなことをした奴らに憎しみが湧き出てくる。

 しかし、また正気を失って暴れるわけにはいかないので、どうにかして抑えてはいるが、その分だけ心がすり減っていくのを感じた。


「行こう。まだ誰か生き残っている者がいるかもしれない」


 しばらく黙ってコナットさんを見つめていたフィオンが震える声で言う。

 発した言葉はいつも通りのフィオンなのだが、そこに込められた力強さはない。

 何かの希望に縋るような気持ちと、今にでも光を失いそうな瞳は悲しみを増長させた。


「イルミア達には悪いが、研究員達を頼む」


 仲間の残骸がこのまま放置されているのはあまりにも忍びないと、フィオンはこの場の処理を任せて先に進んでいった。


「ラクリィ、フィオンを・・・・・・」

「ああ」


 フィオンの様子を見かねたイルミアが俺に行くように促す。

 1人にさせるのは危険だと同じように思っていたので、俺はフィオンに追い付くように走った。


 先にあるのは生活班の区画だ。その殆どが子供達で構成された生活班が襲撃にあえば、抵抗することは難しい。

 コナットさん達は身を挺して時間稼ぎをしていたのだろう。コナットさんの近くには一度だけ効果を発揮できるようにミールが付与した短剣がいくつか転がっていた。戦う力がないコナットさんは決死の思いだったに違いない。


 生活班の区画にやってくると、研究室のような死体の山が出来上がっているということはなかった。

 だが、安心はできない。生活班の区画は拠点内でも最も大きくなっており、今見えているこの場所で何もなかったというだけかもしれない。


 畑を抜け、さらに奥に進んでいく。

 残すところは、いくつかある出入り口の一つに直接繋がっている広間だけ。そこに向かって走った。


 通路を抜けて広間に出ると、希望を裏切るようにいくつかの死体が転がっていた。その中に――――――


「リレンザ! マキア!」


 片腕が無く、身体にも無数の傷を作って壁にもたれかかるようになっているマキアさん。隣には三本の剣が身体に突き刺さったリレンザが横たわっていた。


 フィオンは声を上げて駆け寄っていく。その辺に転がる死体は見覚えのない顔をしていることから、襲撃してきた奴らだと分かった。

 生きている者は1人もいない。これで全員かは分からないが、マキアさんとリレンザがこの十人もの相手を倒したのだろう。


「マキア! リレンザ! 起きろ! 一体何があったんだ!」


 フィオンは必死になって話しかける。すると、倒れていたリレンザが薄っすらと目を開けた。


「年寄りを、叩き起こすんじゃない、よ」

「リレンザ!?」


 弱々しいながらもリレンザは軽口を放つ。とてもそんな余裕があるようには見えない。


「待ってろ! 今助けてやる!」

「無理だよ。助か、らないさ」

「なにを言って・・・・・・」

「マキ、アは?」


 リレンザは隣にいるマキアを気にしている様子だった。


「マキアさん・・・・・・」


 確認してみるが、起きることはなかった。俺は涙が頬を流れ落ちるのを感じる。


「逝ったか・・・・・・最後まで、母親らしいやつ、だったね」

「もういい! 喋るな!」

「泣くんじゃないよフィオン。可愛い顔が、台無しだ」


 振るえる手を持ち上げてリレンザはフィオンの頬に触れると小さく笑う。


「本当に、手間のかかる子だ」


 母親のようにリレンザはフィオンを見ている。

 しかしその目に僅かに残っていた光も徐々に弱まっていった。


「やれ、ることはやった。後は若者に、まか、せると、しよう――――――」

「リレンザ? おい! 返事をしろ!」


 フィオンの頬に触れていた手が地面に落ちる。それと同時にリレンザの瞳からは光が完全に消え去った。

 何度も呼びかけるが、先程のように目を覚ますことはもうない。完全に命が尽きたのだ。


 片腕のマキアは満足そうな顔で眠っている。リレンザも子供達を心配する様子もなかった。

 つまり2人は防ぎ切ったのだ、子供達が犠牲になるという最悪の結末を。


 しかしそれを喜べることはない。頬に流れる涙と、起きないリレンザを揺すり、声を掛け続けるフィオンが何もかもを物語っていた。


 ああ、折れた。自覚しているのかいないのか、俺の心は完全に折れた。

 暴走など起こさない。憎悪も、悔しさも悲しみも、まとめて折れたのだから。


 フィオンも同じくして瞳から光が消え、俺達2人はそのまま終わるかのように意識を失った。


VRくん「ほんとにもう……」

VRちゃん「前回の章の終わりから何一つ良いことが起こらないわね」

VRくん「これこのままバッドエンドで終わりそうな勢いすらあるんだが」

VRちゃん「ハクラも霧魔花のところに行ってるだろうし、どうするのかしらね? さて次回! 『失ったもの』 お楽しみに~」

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