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ミストライフ  作者: VRクロエ
前時代の痕跡編
172/226

託されたもの

 目の前で起こった惨状を未だに受け止めくれないミストライフの面々。

 アロマと仲が良かったミシェは泣き崩れており、トアンはそんなミシェとアロマの遺体を交互に見ては奥歯を噛み締め悔しそうにする。イルミアは普段表情に感情が現れないのにも関わらず、今は悲痛な表情を浮かべており、フィオンはただ立ち尽くしていた。


 むろんラクリィとハクラによる、理解のし難いまでの戦闘が起こっているのは分かっている。しかしながら、現在ラクリィが置かれている状況も、ハクラが押されているという事実も、はっきりと認識できるほどの精神的な余裕が無い。


「私が、もっとしっかりしていれば・・・・・・・」


 アロマの遺体を見つめたまま、懺悔するようにフィオンは呟く。

 生きていた頃に比べれば弱くなっていたとはいえ、シャクストとシャクラは気の抜けるような相手ではなかった。

 そこまで広く周囲に気を配るほどの余裕はなく、それに加えてラクリィもハクラ相手には意味がないと探知を切っていたことが重なり、忍び寄ってきていたシェダに気が付くことが出来なかったのだ。

 シェダ自身の隠密性もかなりのもので、さらには数手先まで見えているような完璧なタイミングで、アロマがモメントジャンプで距離をとった瞬間を狙われたのだ。


 フィオンの責任では決してない。しかしながらラクリィ同様に壊れかけの心にかつてのトラウマが過り卑屈にさせていた。


 そんなことをしている間にハクラは撤退していく。

 戦える状態にないにせよ、ここでこのまま立ち止まっていては全滅することは時間の問題だった。


 周囲に展開されつつある恐ろしい効果を持った霧。それが徐々にだが、木や岩などを分解し始めていた。

 ラクリィをどうにかにかしなければ、フィオン達ですら分解されかねない状況の中、未だにフィオンは動くことが出来ていない。


「ラクリィ! 正気を取り戻してください! ラクリィ!!」


 サギリが必死になって呼びかけているが、ラクリィは元に戻る様子は無い。

 焦るようなサギリの声もフィオン達には届かないので周囲はミシェの泣き声だけが響いている。

 人型にサギリがなろうとしても、ラクリィの霧に干渉できないでいた。


「思えば私はアロマから奪ってばかりだったな」


 王女の立場、平穏、そしてラクリィ。本来ならばアロマが持っていたであろうものだ。

 そんなフィオンに対してもアロマは何一切攻めることはなかった。本当は言いたいこともたくさんあっただろう。しかしいつでも仲間という風に接し続けて来てくれた。


 そんな優しいアロマを失ったのだ。


 最後までアロマは笑顔を見せていた。きっと部屋で泣いていたであろうに・・・・・・

 どこまでもラクリィのことを想い行動してきたアロマ、最後の言葉もラクリィを想ってのものだった。


『フィオン、らっくんを・・・・・・お願いね? 絶対に、幸せにしてあげて』


 その言葉を再度頭に浮かべてハッとする。


「何をいつまでも立ち尽くしているんだ私は・・・・・・」


 フィオンは頭を振り顔を上げる。そこに映るのはあまりの悲しみから心に蓋をしてしまったラクリィ。

 このまま自分の弱さに押しつぶされてしまえば、死んだアロマに顔向けすることが出来ない。


 託されたものは重い。万感の意志を込めてアロマが託したのだ、当たり前だろう。

 だが、忘れてはならない。元々ラクリィのことは幸せにすると決めていたのだ。わざわざアロマが口に出してまで託した理由は、フィオンが圧し潰されてしまわないように。ラクリィために、フィオンのために残した最後の願いを踏みにじってはならない。


「ラクリィ・・・・・・」


 目の焦点はあっておらず、何もかもを投げ捨ててしまったかのようにも見えるラクリィを強い眼差しでフィオンは見つめる。

 霧の影響だろうか、肌がひりつくような感覚がある。敵味方の区別などついてないのだろう。


 この場においてラクリィの心に被さる蓋を開け、正気に戻すことが出来る可能性があるのはフィオンだけだ。


「ありがとうアロマ・・・・・・私は大切なことを忘れそうになっていた。何が何でもラクリィを救わなくてはな」


 フィオンはアロマの傍らに置いてあるグラムを拾い上げる。すると力を貸すよとでも言いたげにしている、グラムの意志を感じ取った。

 そんなグラムを強く握る。しかしラクリィ切っ先を向けることはしない。

 楽にしてやることが目的ではない、あくまでも救ってやることが、幸せにしてやることが目的なのだ。


 一歩、また一歩と踏み出してラクリィに近づいていく。

 荒れ狂う霧の本流は、まるで可視化されたかまいたちのようになっておりフィオンの頬を浅く斬り裂く。

 だがその程度問題無いとグラムが即座に傷を癒し血は止まった。


 近づくにつれて勢いを増す嵐の中を、フィオンはお構いなしに進んでいった。


 ラクリィまで後少し。服は裂け、グラムが直しているといっても進行形で切り傷も増やしながらも、フィオンはラクリィの心を癒すべくさらに踏み込んでいった。



VRくん「頼むフィオン! ラクリィを正気に戻してくれ!」

VRちゃん「このまま何かも終わりじゃ悲しすぎるわ」

VRくん「こんなとこで終わらないでくれ!」

VRちゃん「フィオンしかラクリィを戻せる可能性はないの! お願い…… さて次回! 『アロマが望んだこと』 お楽しみに~」

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