ミストライフのメンバー
ミストライフに入って3ヵ月が経った。
今までここまで大きな怪我をしたことが無かったので、治るのにどの位かかるか分からなかったが、もうすっかり良くなって安心している。
普通に歩いてもよくなってからはミストライフの拠点の中を回りながらフィオンに色々と教えてもらっていた。
この場所はメリユース王国の領地内にあるとある洞窟を拡張して作ったらしい。
これは完全に偶然だが、大地の裂け目からはかなり近い位置だそうだ。
大地の裂け目は人がまだ踏み込んだことが無いらしく、隠れるのには丁度いい場所なのだとフィオンは言っていた。
俺が助かった理由については、上からは確認できないが割れ目の間に洞窟から続く橋渡しのようになっている場所がいくつもあって、そこに倒れていたところをフィオンに拾われたようだ。
こうして聞くとつくづく運が良かったものだ。
「おや? ラクリィ君おはようございます」
聞いたことを整理しながら歩いていると後ろから声を掛けられた。
「コナットさん、おはようございます」
俺がコナットと呼んだこの人物は、黒髪で眼鏡をかけた優しそうな表情の人だ。歳は32で軽く髭が生えている。
そしてミストライフ内では研究班のリーダーという立ち位置だ。
「随分と早起きですね。いつもならまだ寝ている時間だと思うんですが……」
「実は徹夜で調べ事をしていたので寝てないんですよ。今は少し気分転換しに軽く研究室から出てきたとこです」
そう言うコナットの目の下には薄くクマが出来ている。
「あまり無理はしないようにしてくださいよ? コナットさんが倒れたらみんな心配しますから」
「心配してくれてありがとうございます。このくらいなら大丈夫だとは思いますが今日は寝ることにします」
コナットは苦笑気味に笑うと去って行った。
さて、俺は朝飯でも食べに行くか。
いい感じにお腹も空いてきたので食堂にやってきた。
まだ朝早いのにも関わらず生活班の人達が色々と作業している。
キッチンからはいい匂いが漂ってくる。
席に座って食事をしてるのは研究班の人達だろう。何やら話しているので俺は邪魔にならないように恥の席に座った。
しばらくすると1人の女性がこちらに歩いて来る。
「おはようございます、マキアさん」
「おはようラクリィ。相変わらず朝早いわね」
「まあ、もう習慣なので」
「フィオンも見習ってほしいわ。朝食、もう少しで出来るから待っててね。――――――ルコー! ラクリィに挨拶しなさーい!」
「はーい! すぐ行きます!」
マキアがキッチンに向かって声を掛けるとすぐに少女がやってきた。
「ラクリィお兄さんおはようございます!」
「おはようルコ」
腰程までの茶髪を伸ばしたこの子は生活班のメンバーのルコだ。
いつだかに生活班の仕事を軽く手伝いながら話したのだが、何故か妙に懐かれてしまった。
というのも、ミストライフのメンバーは大半が何かしらの理由で国から追放されてしまった善人や、厳しい境遇にある子供達が集まっているのだという。
言ってしまえばミストライフにしょうがなく入った者ばかりなのだ。
そんな中で俺の入った理由を聞いて、色々と思うことがあったらしい。
まあ俺としても嫌われたりするより懐かれてくれたほうが嬉しいので結果オーライだ。
「今準備しているので少し待っててくださいね」
「ゆっくりでいいよ」
軽く頭を撫でてあげると嬉しそうにしてキッチンに戻っていった。
「あの子があそこまで懐くのも珍しいわね。あなたとフィオンくらいじゃないかしら? 髪型はフィオンに似せてるみたいだし・・・・・・これからもあの子のことよろしくね」
「はい、もちろんです」
マキアは生活班の子供達にとって母親のような存在みたいだが、本人はとくにルコを可愛がっているように見える。
2人を見てるとまるで本当の親子のようだった。
今も仲が良さそうに話している2人を見ていると自然と笑みがこぼれる。
心のどこかでは、親という存在を一切知らない自分が羨ましいという気持ちを抱いていたが、そのことに気付くことはなかった――――――
――――――――――
食事を終え少し休憩してると食堂にフィオンがやってきた。
「どうした? 珍しく早起きだな」
「なんだか嫌味っぽい言い方だな! 私だってやることがあればちゃんと起きる!」
フィオンは少しむくれた様子で俺の隣に座った。
眠たそうな様子はないので本当に起きる時は起きれるのだろう。
「悪い悪い、少し驚いてな。それで? やることってのは何だ?」
「まあ大したことじゃない。そろそろラクリィに調査班としての初めての活動をしてもらおうと思ってな。この後訓練場にきてくれ。場所はわかるな?」
「ああ、1度行ったこともあるから大丈夫だ」
俺が所属することになったのは調査班なのだが、メンバーにすらあったことがなかった。
ここ最近何もすることが無く落ち着かなかったがようやくミストライフのメンバーとして何か出来そうで内心少し喜んでいる自分がいた。
その後フィオンから自分の武器を持ってくるようにも言われ気を引き締めて訓練場に向かった。