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ミストライフ  作者: VRクロエ
前時代の痕跡編
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幸せならば

 明日からはこの島の探索だ。何があるか分からないので皆で一緒に動くとのこと。

 霧魔花さえ見つかれば全てが終わる。前にらっくんと話した争いのない世界になる。


 こうして霧のない場所があったおかげで心を落ち着かせることが出来る。もしこの場所がなかったら死に物狂いで探すことになっていたはず。らっくんの両親には感謝しないと。


 ファーニーには申し訳ないけど、ここまでの移動は窮屈なものだった。疲れも溜まっているので、早めに寝よう。


 わたしは目を瞑り意識を落としていく。

 そのタイミングで、誰かが扉をノックした。


「だれ?」

「私だ、フィオンだ」

「フィオン? どうかしたの?」

「大事な話がある。入ってもいいか?」

「いいよ」


 こんな遅くにフィオンが何の用事だろう? 

 そう思いながら身体を起こし扉を見つめていたわたしは、入ってきたフィオンを見て驚いた。


「え? 何があったの・・・・・・?」


 恐らく泣いたのだろう、目を赤くしたフィオンがそこにいた。

 今までフィオンが泣いたところなど見たことがない。何か、それだけのことがあったのだ。


「何かとは?」

「だってその目・・・・・・」

「あ、ああ。すまない、見苦しいところを見せたな」

「そんなこと思ってないから! いいから話して!」


 放っておいてはいけないフィオンの様子におもわず声が大きくなる。

 あのフィオンが泣くなど、相当なことがあったのだろう。


「まずはラクリィがお前達に話していないであろうことを伝えておく」


 らっくんがわたしたちに話していないこととはなんだろ?

 真剣な表情のフィオンを見るに何かとても重たいことなのは間違いない。


 息を飲み、フィオンの言葉を待つ。

 やがて語られた真実に、わたしの頬には涙が伝っていた。


「そんな・・・・・・」


 霧を消すと、らっくんの死ぬ。その真実をすぐに受け止められるほどわたしの心は強くはなかった。

 フィオンはそれをわたしに話してどうしたいのだろう? 止めるのだろうか?

 出来ることならわたしは止めたい。らっくんを失うなんて耐えきれない。


「アロマ、私は・・・・・・ラクリィが好きだ。愛している」

「っ!?」


 分かってはいた、フィオンもらっくんに惹かれていくのは感じていたから。

 らっくんの方は元々フィオンに惹かれている節があったので、いつかは、霧がなくなれば恐らく2人は結ばれるだろうと思っていた。


「お前はどうなんだ?」

「わたしは・・・・・・わたしも、らっくんが好き!」

「私はこの気持ちをラクリィに伝える。ラクリィを、幸せにするために! お前はどうするんだ?」

「それは・・・・・・霧を無くすことを辞めてもらうため?」

「違う。残された時間の中でラクリィに幸せを感じてもらうためだ」

「そっか・・・・・・強いね、フィオンは」


 わたしにはそんな考え方出来ないよ。どうしても失いたくないって、思っちゃう。

 でも、そうやって考えられるからそこ2人は惹かれ合うんだろうな・・・・・・


「ねぇフィオン・・・・・・らっくんを、お願いできる?」

「お前はそれでいいのか?」

「うん。わたしはらっくんが幸せならそれでいい。らっくんが求めてるのは、フィオンだから」

「いい女だなアロマは」


 フィオンは自傷気味に笑って部屋から出ていった。

 きっとらっくんの部屋に向かったのだろう。明日には2人は結ばれているはずだ。


「らっくん・・・・・・」


 我慢していたものが溢れてくる。こんな姿、誰にも見せたくはなかった。

 きっと酷い顔をしていることだろう。目は涙のせいで腫れて、口元も震えている。


 本当はフィオンに渡したくはない。今からでもらっくんの元へ行って、もう一度気持ちを伝えたい。

 でもそれは出来ない。らっくんの幸せを願ったわたしが自分から邪魔しては意味がない。

 わたしがやるべきなのは2人を祝福してあげること。


「分かってたのに・・・・・・苦しいよ・・・・・・」


 忘れてはいけないのは、最終的に行きつく先にらっくんの死があるということだ。

 きっとらっくんの意志は固い。仮にフィオンは止めたのだとしても押し切ってしまう。

 だからこそフィオンは残された時間で出来うる限りの幸せを与えるという選択肢を取ることにしたのだ。


 どうしてそんな決断ができたのだろう・・・・・・大切な人が死ぬのであれば、何としてでも止めたくなるのはわたしだけじゃないはずだ。

 今更何を考えても意味はないけど。


「ほんっとに、酷い世界・・・・・・」


 戦って、戦って戦って。その先にらっくんが見れない世界なんて嫌気が差してくる。

 しかしどうしようもない。全てに抗える程の力をわたしは持っていないから。


 もう眠気なんか何処かへいってしまった。

 どれだけ考えても、最終的にはらっくんが幸せならばと、そう思ってしまった。

VRくん「アロマは報われないのか……」

VRちゃん「可哀そうだけどしょうがないわね」

VRくん「せめて何かしらいいことがあってほしいな」

VRちゃん「そうね……報われなくとも幸せにはなってほしいわね。 さて次回! 『告げる想い』 お楽しみに~」

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