素直な気持ち
キャロルに急に子供を作ろうと言われて、流石に驚いた。
必要なことは分かる。キャロルはそういう立場にあるのだから。
それに俺を選んでくれたことも光栄だとは思っている。キャロルという人物は確かに魅力的で、本来ならば喜んで応じるところなのだろう。
だが、フィオンがあの場に現れた瞬間からは、そういった感情は消えた。
あそこでフィオンが否定せずにキャロルの意見を肯定していたら、俺はへこんでいた気がする。
アロマもあの場にいたというのにも関わらずだ。
これはもう迷う余地もないだろう。
「俺は・・・・・・フィオンのことが好きなのか。1人の女性として、愛しているのか・・・・・・」
アロマに抱く感情とはまた違う。こうして比べてみるとはっきりと分かることだ。
きっと、随分と前からこの感情を抱いていたのだろうが、今まではそれを自覚出来ずにいたのだろう。
もしかしたら、アロマがミストライフに来た時から抱いていたのかもしれない。実際にアロマからはそのようなことを言われていた。
顔が熱くなってくる。フィオンの顔を明日から見れるか・・・・・・
何せ初めてのことなので、どのように整理をつければいいのかが、俺には分からないのだ。
しかし、そうなると昨晩フィオンが部屋にやってきた時の会話を思い出す。
このまま霧を消し去ってもいいのかとフィオンは迷っていた。その原因は、俺との別れにある。
死ぬことが怖くないとフィオンには言ったが、それは嘘だ。死ぬことが怖くないわけがない。
それでも、その先で大切な人達が、戦いのない幸せな世界で暮らせるようになると考えれば、別にいいかと割り切ることは出来た。
今もそれは変わらない。むしろ、フィオンを好きだと自覚して、その気持ちは強くなった。
愛する人が幸せになってくれるならばと・・・・・・
俺との別れをフィオンが惜しんでくれているのは素直に嬉しい。悩んでいるフィオンには申し訳ないが、俺の気持ちは現金なものだ。
だが、この気持ちは伝えるべきではない。
仮に、万が一フィオンも同じ気持ちを抱いていてくれて、受けれ入れてくれたのだとしたら、俺はフィオンにさらに苦しい別れを突き付けることになる。
死ぬことが決まった人間が、後の世界に生きる人間に何かを残すものではない。
唯でさえフィオンは一度苦しい別れを経験しているのだ。
「サギリ、お前は霧がなくなったらどうなるんだ?」
「どうでしょう? 見当が付きませんね」
「だよな・・・・・・もし、お前が残ったとしたら、フィオンのことを頼めるか? 話せなくても意志は残るんだろ?」
「断らせていただきます」
「どうして?」
「ボクは・・・・・・ラクリィにも幸せになってもらいたいからです」
「分かってるんだろ? それはフィオンに酷なことだ」
「それでもです。時間が残されていないからこそ、今幸せになってほしいというボクの意見は聞き入れてもらえませんか?」
「俺の幸せって言ってもなぁ・・・・・・それがフィオンの幸せとは限らないだろ?」
「だからこそ、まずははっきりさせるところから始めることをボクは推奨します」
サギリは俺の考えには否定的なようだ。
仕方がないので、アロマにでも任せようかとも思うが、それはアロマにとって酷な話だ。
そもそも仲間達にもこの気持ちを話すことはないだろう。きっと皆も俺の意見を否定して背中を押してくるはずだ。
「難しいもんだな・・・・・・」
「考えすぎなんですよ。何かを残して酷にするという考えではなく、愛する人の為に何かを残すという考えを持つべきですね」
「厳しいな」
「忘れないでください。ボクもラクリィのことは大切に想っているのです。だからこそ、幸せになってほしいというものですよ」
いつまで経っても平行線だ。
いっそフィオンが世界の為に犠牲になってくれとでも言ってくれれば楽なのだが、それを言えずに俺を仲間として大切に想ってくれるフィオンだからこそ俺は惹かれたのだ。
サギリはそれ以降何も喋らなくなってしまった。
考えるべきことは多い。
フィオンの迷いを断ち切ること。俺の気持ちの行方。アロマのことも考えなくてはならないだろう。
身体を動かして解決できることならばどれ程楽なことか・・・・・・
どれだけ悩んでも答えが出ることはない。
眠れない俺は、気分転換に外に出ることにした。
夜の暗さと霧による視界の悪さで、視覚を奪われたことによって聴覚が冴え、頭もスッキリしてくる。
最後のその時、俺はフィオンに対して何を言うのだろうか? 今はまだ想像もできない。
何もかもが上手くいく未来が訪れない以上、なるべくを掴みとれる未来にしたいものだ。
VRくん「こっちも気が付いたか」
VRちゃん「でも想いは伝えなさそうな感じがしてるわね」
VRくん「ラクリィの考えも分かるが、是非ともくっ付いてほしいもんだ」
VRちゃん「残酷な未来が待ってるけど少しでいいから幸せを感じてほしいわ。 さて次回! 『霧魔花の島』 お楽しみに~」