終わらせに
情報という面での下準備は既に整ったと言って良い。
「すぐにでも行くのか?」
「それなんだが・・・・・・二週間程後にしようと思っている」
「その理由は?」
意外だった。フィオンなら、即座に準備を済ませて出発すると言うと思っていたのだが、何やら考えがあるらしく、遅らせるみたいだ。
「世界に確変が起きるんだ、その為にやっておくこともあるだろう。私達も霧魔の村に行って報告しないといけないしな」
「ああ、なるほど」
確かに霧魔の村に行きヒエン達にも報告しなければ。
それ以外にも、キャロル達もやっておくことなどあるだろう。霧がなくなった後は国のトップとしてやることは尽きないだろうから、それに向けた準備は必要なはずだ。
「キャロルはすぐに戻るのか?」
「いえ・・・・・・少々用事があるのでもう少しいますよ」
「? そうか。ともかく今日は一旦ここまでだ、他に気になることや聞きたいことがあれば私かコナットに聞いてくれ」
フィオンも流石に疲れているのか、早めに休みたいという色が強く見えた。
資料の解析に相当頭を使っていたので仕方がない。フィオンも普段は憮然としているが他の人達とは変わらないのだ。
――――――――――
その日の夜、自分の部屋で色々と考えながら横になっていると扉がノックされた。
アロマだろうか? この時間に俺の部屋にやってくる人物はアロマの他にはいない。
終わりが近づいて不安になったのだと思い、いつものように扉を開けると、そこにいたのはアロマではなくフィオンだった。
「フィオン? どうしたこんな時間に」
「すまんな。少し、話しておきたくて・・・・・・」
アロマではなくやってきたのはフィオンだったが、その顔には若干の弱々しさがあった。
フィオンも不安なのかと思い、とりあえず部屋に入れる。
「それで、話しておきたいことって? それも俺だけに」
わざわざ部屋にきて話をするということは、俺個人に話すことか、もしくは他の皆には聞かせられないことか・・・・・・
もし後者だとするのなら珍しいことだった。フィオンは基本的に仲間に隠し事はあまりしない。聞かれていないから話していないことはあるだろうが、明確に隠し事をするのはこれまでも殆ど無かった。
クーデターの時ですら、言葉は濁したものの明確についてきてくれと意志を見せていたもので、秘密にしようとしていたわけではない。
言葉を待っていると、フィオンは恐る恐るといった感じで口を開いた。
「このまま、本当に霧を消してしまって良いと思うか?」
「・・・・・・急にどうしたんだ? 霧を消す為に今まで頑張ってきたんだろ?」
「そうなんだがな・・・・・・」
本当にどうしたのだろうか? そんなことで迷うなんてフィオンらしくもない。
一体何に迷っているのだろうか・・・・・・悲願を達成できるところまで来ているのに、それに迷っていては仕方がないだろうに。
「何に迷ってるんだ? 教えてくれ」
「・・・・・・」
フィオンが世界を変えることに迷っているとは思えなかった。もっと別の理由があるような気がしてならない。
「・・・・・・怖いんだ」
「霧がなくなった後を考えるとか?」
「そう、そも言えるかな・・・・・・」
「要領を得ないな」
何を言いたいのだろうか? イマイチフィオンの言いたいことが分からない。
確かに言葉通り恐怖を抱いてることは表情から伝わってくるが、それが何に対してなのか、そこがはっきりしないことには俺にもどうしようもない。
そもそも何故そのことを俺個人に言いに来たのか。頼りにされているのだとしたら嬉しいが、皆もきっと支えになってくれるはずだ。それが分かっていないフィオンではないだろう。
「ラクリィは怖くはないのか?」
「怖いか・・・・・・霧を消し去ることに関して言っているのなら、別に恐怖は感じてないな」
「そうか・・・・・・強いなラクリィは・・・・・・私は怖くてしょうがないよ。ラクリィを失うことは怖い」
「・・・・・・知ってたのか?」
俺を失うということ、それはヒエンが俺に話したことを言っているのだろう。
霧を消し去れば、霧魔の民も同じく消えてしまう。どういう原理かは良く分からないが、霧と密接に関わっている霧魔の民は、霧がなくなると同じく消えてしまうみたいだ。
「偶然だが、ラクリィとヒエンが話しているのを聞いてな。全てが終わった時にラクリィは消えてしまうんだろ?」
「そうだな。俺は霧がなくなった後の世界は見れないだろうな」
「死ぬことが怖くはないのか?」
「例え消えてしまうのだとしても、怖くはないな。ミストライフに来た時点で、俺の命は世界の為に、フィオンの為に使うと決めたんだ」
「どうして私にそこまで・・・・・・」
「どうして、と言われても分からないな。でもフィオンの為なら命は惜しくないとは思えるよ。だから俺は終わらせに行く」
フィオンに抱いている感情がどういったものなのか分からない。アロマから以前に言われていたように、フィオンという人物に惹かれているのかもしれない。
そのフィオンの為であれば、俺の命は惜しくないと思えた。
「ラクリィにそこまで想ってもらえるのは嬉しいが、私はまだ割り切れそうにない。少し、色々と考えさせてくれ」
納得はいってない様子のフィオンはそう言って部屋を出ていった。
VRくん「あの時聞いてたのはフィオンだったのか」
VRちゃん「まあメインヒロインだし妥当なところよね」
VRくん「フィオンはラクリィを失いたくないんだな」
VRちゃん「それはそうよ、仲間だもの。 さて次回! 『突然の告白』 お楽しみに~」