分かたれた場所
資料に書かれた内容は、最後のその時まであの研究所で記録を残し続けた誰かが残したものだろう。
何を思ってそれを残したのか、その意図は今となってはもう分からないが、もしかしたらいつか誰かのためになると、そう思って残したのではないだろうか・・・・・・
「結局霧魔花はどうなったの?」
問題はそこだ。自分達すら滅ぼしかねない霧魔花をそのまま放置した理由が分からない。生み出すことに一度でも成功したのならば、一度処理して対策を講じても良かったはずだ。
しかし現在もこうして霧があるということは、何かしらの理由で放置した。もしくは――――――
「霧魔花を処理することは出来なくなった? と考えるべきでしょうね」
キャロルが言ったその可能性が高い。
作為的にか、結果的にそうなったか。いずれにせよ何か問題が発生したのだ。
「キャロルの言う通り、処理できなくなってしまったのだ。魔法の国側で用意していた対応策が不発に終わった以上処理するしかないのだが、霧魔花を繁殖させていた場所で問題が起きた」
「その問題って?」
「霧の特性に気が付いた異能の国にいる実力者の数名が激怒し、その力を本気で振るった大地が割れ、元々地面の下が海だったこともあり、戦闘の余波でそのまま流されていったのだ」
「まさか・・・・・・」
「その流された部分。島程の大きさの陸地の中に霧魔花を繁殖させていた場所があったのだ」
運が悪いとはまさにこのことだろう。大地を割るほどの猛威を振るった異能者達にも驚きだが、魔法の国の運の悪さも筋金入りだ。
「荒れ狂うような力を見せる異能者たちの攻撃による余波で、島はあっという間に流されていき、気が付いた頃には追いかけることが出来なくなってしまった」
「それもそうでしょうね・・・・・・霧があるなか何日も見えなくなった島を追いかけることは出来るはずもありません。霧を弾くという装置を使ったとしても、戦時中では何日も海の上にいる程の物資を用意するのは自殺行為でしかありません」
「キャロルの言う通り、海に出ること自体は出来なくもなかった。実際出るには出たみたいだが、その結果は御覧の通りだ」
「今となっては海自体になんの価値もありませんので誰も足を運ぶことも、海に出ることもありません。それは見つからないわけですね・・・・・・」
俺も海という場所のことは話でしか知らない。実際に見たことがある奴なんでいるのかと疑うレベルだ。
そんな海のさらに先。そんな場所、見つかるわけがない。そもそも海の先に陸地があることを想像しないだろう。
霧魔花の在りかは絞ることが出来た。問題はそこに辿り着くための手段がないこと。霧を弾く装置を探し出して海に出たとしても、辿り着く前に身体がもたないことは既に説明されている。
俺であれば霧の心配は必要ないが、結局問題は解消されていない。
どうしようもないことを理解しているのか、全員が顔を伏せていた。ただ1人フィオンを除いて。
「そう悲観的な顔をするな。私の話はまだ終わってないぞ?」
「フィオンには策があると?」
「私もこの事実を知った時は絶望しそうになったがな。しかし資料の最後の方に挟まっていたこの紙を見つけて希望を得た」
「その紙は?」
「ラクリィの父親が残したものだ」
「!?」
「見てみるか?」
俺はフィオンからその紙を受け取り中身を読む。
『この場所に辿り着いた誰かにこれを残す。
俺とサリアは霧魔花の元でしばらく過ごそうと思う。そこでどうするかはまだ分からないが・・・・・・行くだけならば何とかなるから別に問題はねえ。
息子のラクリィには可哀そうなことをしたが、シェダの野郎なら悪いようにはしねえと思いたい。あいつは悪い王じゃねえからな。
もしこれを読んでいる奴が霧魔花の元へ向かおうってんなら速度を大事にしろ。
あの場所まではありえねえ程距離があるわけじゃない。速度さえあれば霧に侵食される前に辿り着くことが出来る。
場所についてだが、レホラの王都から最短距離で辿り着ける海岸から真っ直ぐだ。
その場所で何をするのか、それはこれを読んでる奴の自由だ。出来ればくそったれた王共には読まれたくねえもんだな。
この世界がどういう方向に進むかは分からん。俺達が変えるかもしれねえ。
出来ることなら、戦いのない平和な世界が訪れることを願うよ』
手紙はここで終了していた。
確かにこれは俺の父親が残したものだった。サリアというのは母親のことだろう。それにシェダとも何か深い関りがありそうだ。
父親が何を思ってこれを残したのか・・・・・・霧魔花のある島へ行けば分かるだろうか・・・・・・
「確信に迫る情報だ。ラクリィの父親が何を思ってこれを残したのかは分からないが、私達にとっては切り札となった」
「そうだな・・・・・・思うことは色々とあるが、フィオンは速度がある移動法に何か心当たりが?」
「なんだ? 父親の手紙を読んだ混乱で忘れてるのか? いるじゃないか私達の仲間に、空を移動出来て速度の速い仲間が」
「あっ!」
「ファーニーならば連れて行ってくれるはずだ! 霧魔花の元へ!」
確かにファーニーならば辿り着くことが出来そうだ。
運が良かったと言うべきか、霧魔花の元へ辿り着くための情報、移動法が全て揃ったことになる。
であれば俺達の悲願はすぐそこだ。ようやく、この世界から霧を無くすことが出来そうだった。
VRくん「もう完璧じゃん」
VRちゃん「ラクリィの母親はサリアっていう名前だったのね。どういう人物なのかしら?」
VRくん「ヒエンの話だとかなり強かったみたいだな」
VRちゃん「ラクリィの両親についてはまだ謎が多いわね。 さて次回! 『終わらせに』 お楽しみに~」