異能がなくても
レイラとサレンが対峙するのは2人の男女。
顔つきはよく似ており、服装に至ってはほぼ一緒といってよかった。
キャロルからは、数通りにわたるヤカサスが連れてくるであろう人物の組み合わせを事前に聞いていた。
知らない人物が出てくる可能性もキャロルは十分に警戒していたが、それでも五分の確率でキャロルが知っている人物が出てくると考えていたようなので、説明されていたわけだが・・・・・・
「キャロル様が一番楽だと言っていたパターンだな」
「そうですね。だからこそキャロル様も殆ど何も言わずにヤカサスを追っていったのでしょう」
結果として現れた人物は、キャロルが最も楽だと断言した2人であり、油断しなければ勝てる相手だ。
事前に手の内も聞いているので、不意を突かれることもないだろう。
この2人は兄妹であり、男の方はエス、女の方はイウという名前だ。
エスは自身の脚力を上げる異能、イウは視力を上げる異能を持っている。簡単に言えばシャクストの劣化版だ。
「キャロル様の方は問題ないだろうか・・・・・・」
「あの人なら大丈夫じゃないかしら? 自分と相手の強さを読み間違えたりする方じゃないと思うわよ」
「それもそうだな。では私達もサクッと終わらせるとするか」
キャロルの心配をしていても仕方がないと、レイラはエスとイウの方を向き剣を構える。
「エス、僕たち舐められてるみたいだぞ」
「そうね兄さん。五芒星として格の違いを教えてあげないと」
別に隠すように話していなかったレイラとサレンの会話は2人に筒抜けで、聞いていたエスとイウはキレていた。
エスは剣を構えると、即座に走り出した。
脚力を強化する異能は既に使っているようで、その速度は尋常じゃない。一瞬目で捉えたとおもえば次の瞬間には視界から外れている。
「サレン、準備を」
「分かりました。初撃でいいですね?」
「それでいいぞ。やれなかった時はまた考えよう」
短い打ち合わせえをして、サレンは抜刀風迅閃の構えに入る。
即座に放つのではなく、威力重視で為を長くとる。それなりに溜めれば後方で動いていないイウにも届くだろう。
エスはすぐに斬りかかってくることはない。口ではああ言っていたが、実際にはレイラとサレンは侮ることが出来ない相手として認識していた。
不用意に接近すれば、この速度であっても見切られると考えている。
だからこそ、今かというタイミングを狙っているのだ。
レイラは剣を構えたまま動かない。エスの動きに合わせて視線を動かすことすらしなかった。
まるで何か重要な物がそこにあるかのように、一点を見つめたまま微動だにしない。
勿論何かがあるわけではない。極限状態まで集中しているので瞳を動かすことすら忘れているだけだ。
緊迫する空気の中、抜刀風迅閃の溜めが十分になった瞬間に、剣を握るサレンの手に力が入る。
常人なら見抜けない程の些細な変化だが、視力が強化されたイウにははっきりと見えており、それを一瞬のアイコンタクトでエスに伝えた。
エスとイウが狙っていたのはこのタイミングだ。抜刀風迅閃が発動する直前はレイラも割って入ることが出来ない。仮にそうしたとしてもレイラもろとも死ぬことになるだけだ。
そうなればサレンは即座に発動をキャンセルするだろうから、結果的には隙が生まれる。その状態でエスの攻撃を防ぐことは不可能に近かった。
エスは速度が最も活かされる突きでサレンに迫る。剣を振るという動作がない以上理論的にはエスの最高速の攻撃だ。
だが、ここでサレンはエスとイウが予想していなかった行動を取る。
屈むように前傾姿勢になり、抜刀風迅閃はそのまま発動する構えになっている。
エスはその意図を何となくで読み取り、問題無いとそのまま突撃した。
「そんな悪足掻きで!」
前傾姿勢になったのは、身を屈めることで突きを回避しようとしているのだとエスは考えた。
そんなことをしてもすぐに軌道修正出来るので意味はないと、突撃を続行したのだ。
その読み間違いが、勝敗を決することになる。
エスの突きが前傾姿勢になったサレンの頭部を串刺しにする瞬間、サレンが突きを剣で弾いた。
しかしサレンはお構いなしに抜刀風迅閃を発動させる。
「マジかっ!?」
可能性から否定していたパターン、サレンがレイラごと打ち抜くという選択にエスは驚きを現しつつ、無理やり後ろに跳んだ。
が、それならば何故前傾姿勢に? 浮かんだエスの疑問は次の瞬間に分かることになった。
サレンは下から切り上げるように抜刀する。すると風の刃は縦長く前方に放たれる。
横幅が狭くなったことにより、レイラの剣を折りつつもレイラ自身に当たることはなく、エスとイウに向かって飛んでいった。
エスは回避することが出来ない。跳んだ直後に風の波が来たことによって滞空時間が伸びてしまい、地面を蹴る前には風の刃に引き裂かれることになる。
「兄さまの攻撃を見切ったことは褒めてやる。でもね、この程度の速度なら私の前じゃ無力なんだよ!」
回避できないエスを守るためにイウが割って入ってきた。
剣を構えてガードする姿勢をとるが、認識が甘い。
「その程度で防がれるものを切り札にはしませんよ・・・・・・」
冷たいサレンの呟きと共に、成す術もなくイウと続いてエスの身体が無常に引き千切られていった。
「異能も使いようだな」
「ですね。特別な力でも使いこなせなければこの程度ですか」
異能など無くとも異能者を圧倒して見せた2人は、勝利の余韻に浸ることなくキャロルの元へ向かった。
VRくん「大活躍じゃん! 超かっこよかったな」
VRちゃん「異能を使えないキャラが活躍するとなんか嬉しいわね」
VRくん「サレンの技は異能に匹敵するくらい強力だよな」
VRちゃん「レイラも目立った特徴はないけど、剣だけで上り詰めたって考えると相当よね」
VRくん「なんにせよ戦争は完全勝利って形になりそうだな」
VRちゃん「敵も可哀そうなやられ方だったわね。 さて次回! 『終戦』 お楽しみに~」