ファーニーの特訓
見た目に反して情けないまでに弱いファーニーは、地面に蹲っている。その様子をルコとミールが心配そうに見ているが、実際のダメージ自体は殆どないだろうから、単純に痛みに慣れてなくてこうなっているのだろう。
「痛かったか?」
「グァ・・・・・・」
小さく呻き声を上げてファーニーは返事をする。
「もっと強くなりたいか?」
「・・・・・・」
「今のままだとお前は誰にも勝てない。敵が来たらお前は真っ先にやられて、この子達も多分殺されるぞ? 守ってやりたくないか?」
俺の言葉を聞いてファーニーは首を上げてルコとミールの方を向く。
生活班の中で最も俺と接点がある2人は、必然的にファーニーと会う機会も多かった。純粋で可愛らしい2人にはファーニーもよく懐いている。
仮にこの2人に危険が迫ればファーニーは真っ先に戦ってくれるだろう。日頃から敵対する奴には容赦するなと言い聞かせてあるので、まず間違いない。
だが、今のままでは敵を倒すどころか、時間稼ぎも出来はしないだろう。
「お前が戦うのを好まないのは分かってる。育った環境もあるだろうからそもそも苦手なことも。でもさ、力があるなら自分を大切にしてくれる子達くらい守れるようになりたくないか?」
いざとなればマキアさんなども戦うだろうが、あの人は剣を長く握っていない。五芒星相手にどこまでやれるか、不安要素は残る。
だからこそ、最低限は戦えるようになってほしかった。
俺の言葉を聞きながらルコとミールを眺めていたファーニーがこちらに視線を戻す。そこには、先程の頼りない瞳ではなく、力強さのある瞳があった。
「ガァ! グァガァァ!」
言葉は理解出来ないが、ファーニーが何を言ったのかは何となく伝わってきた。
強くしてくれ! このままじゃ嫌だ! とそう伝えてきたのだ。
「よし! なら今日から一緒に特訓するか!」
「グァ!」
ファーニーのやる気に満ち溢れたような鳴き声で話が終わったことを察して、アロマ達もこちらまでやってきた。
「終わった?」
「ああ。ファーニーもやる気を出したみたいだからアロマも手伝ってくれ」
「それは勿論いいけど、さっきみたいに模擬戦みたいにすればいいの?」
「それで頼む。俺はアロマみたいに魔法を使うことが出来ないから、魔法を使ってくる相手を想定した特訓は出来ないからな」
「あー、なるほどねー。分かった! そういうことなら任せて!」
「トアンとミシェとイルミアにも対人戦闘に付き合ってくれ」
「いいぞ、俺達の訓練にもなるしな」
「キマイラの時は苦戦したからね~、大型霧魔獣との訓練はためになりそう!」
「フィオンの手伝いがないときなら」
イルミアに関しては、物を運ぶ時などに異能がとても便利なので、ちょくちょくフィオンに呼ばれて手伝いをしていた。
来れそうな時は来てくれるみたいだが、優先順位はしっかりと間違えていないようだ。
「あの・・・・・・これからもファーニーちゃんと戦うんですか?」
「あんまり痛くするのは可哀そうだよ・・・・・・」
ルコとミールはやはりファーニーが戦うのには反対気味だった。
「グァァ・・・・・・」
不安そうな2人にファーニーは大丈夫だよと言いたげに鳴く。2人は何となくそれを察したみたいだが、まだ不安そうな表情は消えない。
「ファーニーは2人を守れるくらいには強くなりたいみたいだ。2人には特に懐いているからな」
「そうなんですか?」
「ファーニーちゃんが守ってくれるの?」
「グァッ!」
2人がファーニーに聞くと、そうだよと元気に鳴く。
「心配させるようなことは言いたくないけど、ここだって絶対に安全って訳じゃないからね。いざという時の為に頑張りたいんだよ」
アロマが諭すように言うと、2人は不安そうな表情を引っ込めて、嬉しそうな表情になった。
「そっか! じゃあ私達を守ってねファーニーちゃん!」
「でも怪我だけはしないでね?」
2人が駆け寄って撫でると、ファーニーは嬉しそうにしていた。
こうして見ていると、本当に子供達と遊んでいるペットにしか見えない。
「さて、じゃあ早速続きをするか。2人も見ていくか?」
「うん!」
「はい!」
そこからはローテーションでファーニーと模擬戦をする。
体力はかなりあるようなので、かなりの時間特訓していても疲れる様子はなく、結局夕食の時間までひたすら模擬戦を行っていた。
数日もすると、戦いへの慣れも出てきて動きがかなり良くなっている。
駆け引きなども学んできたようで、フェイントを交えた攻撃もしてくるようになり、こちらも一筋縄ではいかなくなっていた。
元々頑丈なからだを持っているのに加えて、痛みにも慣れてきたようなので、並の攻撃ではビクともしない。
頼もしいという言葉が似あうようになってきていた。
近場で霧魔獣相手の狩などもさせてみたが、はっきり言って相手になっていなかった。
ファーニーのことを見た瞬間逃げ出す霧魔獣がいた程だ。
これならば五芒星のメンバー相手にもそこそこ戦えるだろう。
活躍する場面が来ないのが一番いいのだが、いざという時には任せられる立派なペットとなってくれたのだった。
VRくん「元のポテンシャルが高いといいなぁ」
VRちゃん「それとラクリィ達が鍛えたってのもあるから、その辺の奴には負けないと思うわよ」
VRくん「活躍はいつになるんだろうか?」
VRちゃん「最後にも言ってたけど、活躍の機会なんてこないほうがいいんだけどね」
VRくん「まあ、確かにな。活躍するってことは拠点が危なくなるってことだもんな」
VRちゃん「ルコやミールには危険な目にはあってほしくないわ。 さて次回! 『メリユースVSレホラ1』 お楽しみに~」