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ミストライフ  作者: VRクロエ
前時代の痕跡編
147/226

ファブニール

 ガラスを隔てた向こう側にいる大型霧魔獣は、ガラスにぶつかると何か悲しんでいるような仕草を見せながら地面に降りてこちらを見ていた。

 正直言って非常に落ち着かないが、資料に目を通してその正体を知ったであろうフィオンの話を聞くことにする。


「で、あれは何なんだ?」

「あれはファブニールという大型霧魔獣のようだ。見たこともない姿をしているのは、様々な動物の遺伝子を混ぜ合わせた結果によるものらしく、ここに書いてあるには、この時代に想像上の生き物として度々話に上がったドラゴンという生物を目指して生み出されたらしい」

「でもこいつが生み出されたのは何百年の前の話だろ? 未だに生きているなんておかしくないか?」

「そこのところはまだ分からない。寿命についての期日は載っていなかったからな。一つだけ確かなのは、こいつが人口で生み出された霧魔獣で、尚且つ原初の霧魔獣だということだ」


 驚くべきことは沢山ある。

 まずはその寿命だ。他の大型がどうかは知らないが、このファブニールという霧魔獣は既に何百年と生き続けていることになる。

 それに人工的に霧魔獣を生み出したということだ。ここでは間違いなく霧の研究がされていたことの裏付けになる。


「どういった遺伝子操作をしたのかは私にも分からない。ここにも載っていないからな。だが間違いないのは、幼体の頃、つまりは後に霧に順応させる実験をした結果ではなく、生まれながらに霧魔獣になるように実験されていたこと。もしかすると霧魔の民が生まれたルーツに深く関係しているかもしれない」


 人と動物、それを霧に順応させるために必要なことが同じかどうかは現時点ではまだはっきりしていないが、確かに関係はしていそうだ。


「それと、こいつはかなり人に懐いているらしい。こうして向かってきたのも襲い掛かる為ではなく、単純に久々に人を見て嬉しくなったのだろうな」

「そんなことがあり得るのか?」

「まああり得ない話ではないんじゃないか? 霧魔獣をペットにした事例は今までにないが、普通の動物ならば一般的なことだ。霧魔獣も根本的には動物だからな」


 確かにそう言われればおかしな話ではないような気がする。

 それにこいつは幼体の頃から人に世話をされていたのだろう。そうならば人に懐いていても不思議ではない。


「あと最も驚いたことだが、こいつには他の霧魔獣と違って異能のようなものがあるらしい。この資料によれば人工的な霧魔獣はこいつだけのようなので、他に比較するとなると現存する霧魔獣になるが、私の知る限りでは異能を使えるような霧魔獣は存在していない」

「霧魔獣が異能か・・・・・・能力は?」

「端的に言えば擬態だな。ただその精度が半端なく高いようで、透明化のようなレベルらしい」

「それはなんて言うか、凄いな・・・・・・」


 見た目からして素の戦闘能力もかなり高いだろうに、それに加えて異能も使えるとなれば、全ての霧魔獣の中でも最強なのではないだろうか?


「他には何かあったか?」

「いや、こんなもんだろう。ここはあくまでもファブニールの実験、観察がメインみたいだからな」


 生き物に対しての実験と聞くとかなり酷いこともやっていたのではないかと考えてしまうが、改めて檻の中のファブニールを見ていると、何だかんだで大事にされていたのではないかと予想出来た。


 ガラスの向こうでは相変わらずファブニールがこちらを見つめてきている。その目はこちらに何かを訴えてきているようにも見え、何か込み上げてくる感情があった。


「なあフィオン? 危険ってあると思うか?」

「そうだなぁ・・・・・・情報通りなら危険はないと思うが・・・・・・」

「そうか。少し、行ってくる」


 俺は檻の脇にある扉に向かって行く。実際の話危険はあるだろうが、フィオンは俺の気持ちも察しているのか止めることはしない。


 何百年と孤独に生きてきたこいつを、このまま放置して他に行くということはしたくなかった。


 中に入った俺に対してファブニールは俺のことを見てはいるが動かない。

 そのまま手の届くところまで歩いて行き、恐る恐る手を伸ばす。

 その俺に対してファブニールは頭を下げて来たので、頭を撫でるように触れた。


 冷たく綺麗な鱗は手触りが良い。俺は夢中になりしばらく撫でていた。


「なあ、俺達と来るか?」


 こいつを見ていると霧魔獣だからといって一括りにするのは違うのではないかと思えてくる。

 それに、このまま置いていくのは忍びなかった。


「もう、ここにいるのも疲れただろ?」

「・・・・・・グァ」

「もうここには誰もいない。お前は自由なんだ」


 俺の言葉を正確には理解してはいないだろう。それでも雰囲気から察してはくれているようだ。


「今日からお前も俺達の仲間だ!」

「ガァァァァ!」


 けたたましい雄叫び。だが、決して威嚇している訳ではなく、喜んでいるのだと近くにいて分かった。

 予定には全くなかったが、意外なタイミングで仲間が増えたのだった。


VRくん「仲間になっちゃったよ……」

VRちゃん「この作品のペット枠ね」

VRくん「いや、ペットってなりじゃないだろ……」

VRちゃん「いいじゃない別に。今時ドラゴンがペットの作品なんて珍しくもないわよ」

VRくん「正確にはドラゴンじゃないんだけどな?」

VRちゃん「細かいことは気にしない! 分かりやすければいいの。 さて次回! 『霧魔花の研究』 お楽しみに~」

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