作られた魔獣
ここでは霧魔花の研究だけでなく、他にも色々な実験を行っていたようだ。
内容はどれも非道法的なものばかりであり、残された資料の所々に研究員達の精神的な苦痛が垣間見える。
それらの資料に目を通して分かったことは、このような研究所が他にもあったわけではなく、ごく一部の人間だけが知る研究所のような感じで、表には出ていなかったようだ。
一階から上のフロアでは霧についての研究が記された資料は無かった。あるのはこの時代の歴史、人体実験や、異能に対抗するための手段の開発などが主だった。
俺とフィオンは居住スペースを軽く掃除して、そこで落ち着いて資料の中身を確認していく。
といっても、専門的な知識を俺が身に着けたところで活用するのは難しいので、俺の役目は有用なことが記された資料を探してきては、部屋で読み漁っているフィオンの元へ運ぶことだ。
ここにきてから既に二日が経過している。設備が生きていることもあり、食料が尽きない限りは生活することが出来る。
流石に、元々ここに常備されていた食材は使い物にならないので、携帯食料だけでは心もとなく、俺が一度地上に戻って食べることのできる霧魔獣を倒して、その肉を必要分持って帰ってくるという感じでまかなっていた。
いつまで滞在するかはフィオン次第だが、情報を頭に入れるだけならそこまで時間は掛からないと言っていた。その情報をどうするかは拠点に戻ってから整理するようなので、早ければ今日中にでも次の段階に行くことが出来そうだ。
俺の方でも、上の階で探すことが出来る場所はあらかた探しつくしたので、これ以上やることが増えることはないだろう。
することもないので、居住スペースにあった前の時代の本を読みふけっていると、ドアが開きフィオンが入ってきた。
「すまない待たせた。とりあえず中身を覚えるのは終わったぞ」
どうやらもう終わったようだ。
「もういいのか?」
「ああ、知りたかったことは大体知ることが出来たし、歴史や人体実験に関してのことはもういいだろう。それで、次は地下に行こうと思うが問題ないか?」
「地下に何があるのかは分かったのか?」
「いや、はっきりとは分からない。だが裏の研究はここ以外ではやっていなかったようだから、ほぼ確実に霧についての研究が地下でされていたのは間違いない」
「いよいよか・・・・・・」
まだ有力な情報があるかは分からないが、それでも期待せずにはいられない。
直ぐに準備を済ませて俺達は地下へと向かった。
地下に着いてすぐ、目に付いたのは二つの部屋だ。
扉が閉まっているので中の様子は分からないが、迷っていても仕方がないので、右の部屋から入ってみることにした。
「これはなんだ?」
入ってみると、ガラスで出来た大きな檻のようなものがあり、その向こう側には森のような光景が広がっていた。
かなり広くなっているようで、今見えているのはほんの一部分だけだろう。
人工的に作り出した森とでも言えばいいだろうか? 少なくも自然にできたものではない。
そして何よりも驚くべきなのが、檻の向こう側には霧が広がっていた。
この研究所とその周辺はどういう訳か、霧が一切入りこまないようになっており、それどころか霧魔の能力まで封じられている。
にも関わらずここにはこうして霧がある。霧に関する研究が行われていたことは間違いない。
俺とフィオンは早速部屋の中を探して、研究結果の記された資料を見つける。
随分と丁寧に保管されており、日付の順に並んでいた。
その中の一番古い資料、その見出しには『動物の人口進化』と書かれていた。
中身をフィオンが速読で読み進めていく。一冊一冊に情報量はそこまで多くはないようで、読み終えては次へと、片っ端から読み進めていった。
その間俺は檻の向こう側に目を向ける。
こうして見ていると、外と変わらない霧の世界。時代を感じさせないも光景だった。
フィオンがページを捲る音を聞きながら眺めていると、不意に奥の方で何かが動いた気がした。
遠くて何かは分からないが、風でも吹いて木の葉が揺れたのだろうと思う。
だがその考えを即座に否定する。檻の中は外と同じ光景だが、外ではない。急に風が吹くことなど普通はあり得ないのだ。
では何か。その答えは直ぐに目の前に現れることになる。
「ラクリィ・・・・・・これは――――――」
資料に目を通していたフィオンが何かを言おうとしたが、それどころではない。
「フィオン!!!」
俺は声を上げてフィオンの視線をこちらに向ける。
焦ったような俺の声を聞いてフィオンは即座に顔を上げると、その顔が驚愕に染まった。
人工的に作られた森の向こうから、大きい翼を傍目かせた巨大なトカゲのような生き物が突進してきていた。
間違いなく大型の霧魔獣だ。俺はサギリを構えて即座に戦闘を行える態勢になる。
それなりに早い速度のままガラスの檻に衝突したが、なんとガラスは割れることなく、少しの衝撃をこちらに伝えてくる程度に収まる。
すっかり忘れていたが、ここに来る時に微かに聞こえた金属音のようなものの正体はきっとこれだろう。
一先ず安心することは出来たので、フィオンの話を聞くことにした。
VRくん「いよいよ霧に近づいてきたな」
VRちゃん「まずはジャブ程度の内容になるつもりだったみたいだけど、結構がっつりストレートになったわね」
VRくん「この霧魔獣はどうなるんだろうな?」
VRちゃん「戦いになるのかしら? その辺はまた次回ね。 さて次回! 『ファブニール』 お楽しみに~」