渓谷の底で
新章スタート!
「いくら落ちても何とかなるとはいえ、気を付けろよ」
「分かってるさ」
巨大な渓谷、長く底の見えない場所を、フィオンが進みながら作り出す階段を少しずつ降りていく。
足を踏み外せば奈落の底まで真っ逆さまだ。何とかなるとはいえ、そんな経験はしたくない。
このような空間にも霧は例外なく存在している。何故霧のない地域があるのか、その謎は未だに解明されていない。
ミストライフの拠点もその一つだが、特に他の場所と違いがあるようには思えない。一体どういった要因で霧が入ってこないのだろうか・・・・・・
「ラクリィ、まだ底は見えないか?」
「ああ、もうしばらくはかかりそうだ」
下に向けて進みだしてから三十分近く経っている。普通に歩くよりも格段に進むのが遅いとはいえ、未だに底が見えないとなると、かなり深い谷のようだ。
幸いなのは、空を飛んだり壁を歩けるような霧魔獣に遭遇していないことだろう。流石にこの足場の悪さでは戦闘をしたくはない。
それからもしばらく壁伝いに降りていく。
先程の会話からさらに十分が経った頃だろうか、遂に変化が訪れた。
「少し止まってくれ」
「何か感じたのか?」
広範囲に広げている探知の端の方、そこで微かにだが今までになかった別の感覚を感じた。
それを確かめるために一度止まって、集中する。
探知は近くなればなるほど見えるようになる。しかし遠ければ感じると言った程度だ。
それでもこうして集中すれば感覚から、その正体を探ることもできる。
俺の意識した先、何があるのかを確かめてみると、それは意外なものだった。
「・・・・・・霧が途切れてる」
捉えたのは、ある一定の場所から先には霧がないということだった。
まるで違う世界への境目なのではないかという程に、綺麗にくっきりと分かれている。正直違和感しかなかった。
「霧が途切れているというのは、そのままの意味か?」
「そうだ。きっと他の場所もこんな感じで分かれてるんだろうが、ここまではっきりと探知で捉えたのは初めてだ」
「他には何かありそうか?」
「今のところは分からない。探知で捉えているのもギリギリのところだからな」
「ならば、行けるところまでは行ってみるか」
俺達は再び底へ向けて進みだす。
ある程度行くと目視で霧の境目を見ることが出来る場所まで来た。そこから更に下っていく。
霧による視界の悪さは無くなったが、自然の光源が全くないので暗いことは変わらない。明かりといえばフィオンの持つ松明のみだ。
俺達の足音だけが耳に聞こえる、視界が悪い為聴覚が敏感に働いており、微かな音も聞き逃さない。
その耳が遥か下の方で鳴った微かな音を掴んだ。
「何の音だ?」
「探知には何も映っていない。もっと深い所だ」
聞こえたのは金属を叩くような音。俺の探知外からとなると、かなり大きい音だったのではないだろうか?
いずれにせよ、何かがあるのは間違いない。
ここで引き返すという選択肢は勿論ない。俺とフィオンは更に下っていく。
底に近づいていくにつれて、俺の探知にはあるものが映り出した。ここまでくればわざわざ言わなくともフィオンも目視出来ている。
「フィオン、これは・・・・・・」
「間違いないだろうな」
ようやく谷の底に辿り着いて、地面に降り立ちながらそれを見上げる。
そこにあったのは、大きな建物。かなり風化していることから、現在人が住んでいるということはなさそうだ。
外には見慣れない装置がある。フィオンも同様に見たことがないようで、興味有り気に見つめていた。
調べなくても間違いないだろう。ここが俺達の探していた霧魔花を作り出した場所。
「どうするフィオン、一度戻るか?」
「内部に何か危険はありそうか?」
「それが探知でこの建物の中を捉えることが出来ないんだ・・・・・・」
「未知数というわけか・・・・・・ラクリィ、気を引き締めておけ」
「分かった」
つまりはこのまま行くということだ。
入り口らしきものがあるので、そこから中に入っていく。探知が使えなかったので、もしかしたらと思っていたが、予め展開しておいた霧の理も強制的に解除されてしまった。
理由は分からないが、この中で霧魔の民の能力は一切使えなくなるらしい。
「サギリ、大丈夫か?」
「はい、ボクは大丈夫です。ラクリィは?」
「俺も今のところ何ともないな」
もしかしたら何か影響を受けているかもとサギリに話しかけてみたが、サギリも大丈夫のようだ。
中に入ってすぐに、さらに扉のようなものがある。
恐る恐る通ってみると、その瞬間明かりが点いた。
「なんだ!?」
驚きの声を上げながら剣を構えるフィオン。俺も同じように警戒はしている。
そのまま何が起こっても対処できるように構えていたが、結局何も起こらない。ただ明かりが点いただけのようだ。
「どういう仕掛けか分かるか?」
「・・・・・・分からないな。私もかなり多くの物を作り出してきたがこういうのは初めて見たし、聞いたこともない。推測だが、私達に反応して明かりが点いたのだろう。どうやって検知したのかも、自動で明かりが点いたのかも、長い年月でその装置が朽ちていない理由も、何も分からないがな」
フィオンが一切知らないとなれば、間違いなく霧が世界を包む以前の技術。それを理解出来た今、胸の中には期待が溢れていた。
VRくん「新章始まって早々物語動きすぎだろ!」
VRちゃん「布石は散々打ってたからね、そろそろこっちの方面も進めないと」
VRくん「前回の話で章終わりだからラクリィとフィオンの調査は何の成果もなく次行くと思ってたわ」
VRちゃん「甘いわね、作者の匙加減で変わるのよ。 さて次回! 『前時代の研究所』 お楽しみに~」