シェダの行方
戦闘が開始したなか、サポートを任された3人は動くことのなくその行く末を見つめていた。
決してサボっている訳ではなく、だからといってやることもない。
「これ、私達は必要あったのか?」
そう呟いたのはレイラだった。
厳しい戦いになるかと思っており、気を引き締めていたのだが、加勢に来た2人の余りの強さに絶句するほかなかった。
「正直私も驚いています。レホラであった時の2人にここまでの実力はありませんでした。特にラクリィさんに関してはどこまで強くなったのか見当もつきません」
完璧とも言える戦闘の進め方、理解の及ばない能力、そして息の合った2人のコンビに介入できる余地などなく、いつの間にか剣を握りしめていた手も緩んでいた。
「本当に強くなりましたね・・・・・・」
感慨深くサレンは言葉を吐き、戦場だというのにその顔には笑みすら浮かんでいた。
――――――――――
吹き飛ばされたヤガンとルーイは何が起こったのか理解出来なかったが、あまり長く思考を向けている訳にはいかない。追撃とばかりに霧の剣が襲い掛かり、足を止めることは許されなかった。
フィオンとこうして前で組むのは久々だったが、戦いだというのにどうしても楽しいという感情が脳裏を過る。それ程までに楽であり、自分のやりたいことを存分に出来る戦いは高揚感があった。
「ハクラが使っていた技、もう使えるようになったのか!」
「まだ全部じゃないけどな。このくらい単純なものだったらもうできる」
距離の空いたヤガンとルーイに詰め寄りながらフィオンが話しかけてきたので、俺もそれに答える。
口調から、なんとなくフィオンも楽しそうだというのが伝わってきた。
「ラクリィ、ジャンプだ」
「はいよっと!」
急にくるフィオンの指示にも間入れず反応して行動する。
俺がジャンプするのと同時に地面が俺を押すように盛り上がり、俺の身体は高くに上がった。
上からヤガンとルーイと目が合った。高くからの攻撃に備えて俺に視線を送ったのだ。
するとどうなるか、地上にいるフィオンから一瞬視線が外れる。素早く前に出たフィオンの剣が2人の胴体を捉えて突き刺さった。
かなりの痛みが襲っているだろうが、ヤガンとルーイは2人でフィオンにカウンターを放ち、一度フィオンを引かせる。
全てはフィオンの手の平だ。
フィオンが引いたことにより、視線を上に戻した2人に霧の剣が襲い掛かる。辛うじてそれも凌いだようだが、如何せん意識することが多すぎたのだ。俺が既にボディーミストにより、重力を無視した速度で地上に戻っていることには気が付かない。
「悪いな・・・・・・まずはお前だ」
攻撃範囲が広く面倒臭いルーイから俺は仕留めに行く。
ルーイが俺に視線を向けたときにはもう遅い。俺がサギリを振り切ると、時間差のようにルーイの首がズレて地面に落ちた。
噴き出す血の雨をヤガンは浴びて思わず目を瞑る。そこに俺の数歩後に付いてきていたフィオンにより、さらに胴体に穴を二つ増やした。
「がはっ・・・・・・」
血を吐き、そのままヤガンは地面に倒れる。
倒れた身体が痙攣して地面を打った後、ピクリとも動かなくなった。
「思っていた以上に余裕だったな」
「そうだな・・・・・・俺もフィオンも王達の領域に足を踏み入れてるし、こうなってもおかしくはないんじゃないか?」
「違いないな」
王族2人を相手にした戦闘は完全勝利。サレンさん達の出番はなかった。
俺は直ぐに探知により周囲を確認したが、これ以上は誰もいないようだった。
「シェダは逃げたのか?」
「探知に何も映らないか・・・・・・あまりにも行動が早いな、まるでこうなることを予期していたように・・・・・・」
「俺達が来ることは分かっていたってことか?」
「可能性の話だがな。シェダの異能が未来予知であるならば不思議ではない。腑に落ちない部分はどうしてもあるがな」
シェダが未来予知をしているとして、ならば何故五芒星のメンバーをもっと集めて迎撃しなかったかなどといった疑問は残る。
前々からそうだが、シェダの動きはあまりのも予測できない。
「まあ今考えても仕方ないか。今回はありがとうラクリィ、助かったよ」
「別にいいさ。結果的に無傷で済んだし、それにサレンさんとレイラ中佐にも久々に会えたしな」
俺とフィオンが話していると、戦闘が終わってのを見てサレンさん達がこちらにやってきた。
「見事だった。まさかここまでとは思ってもみなかったよ」
「結私達はいてもいなくても変わらなかったですね」
「やめろサレン、それ以上は言うな・・・・・・」
冗談交じりのサレンさんの言葉で笑いが起きる。
「何はともあれクーデターは成功です。シェダの行方だけは気になりますが、王が姿を消したのならば国を動かすのも簡単でしょう」
「その辺はキャロル様に任せても?」
「ええ、ミストライフの力になれるよう持っていきます。勿論レイラとサレンにも協力してもらいますよ?」
「それは勿論」
「私達に出来ることでしたら何でもしますよ」
「というわけですフィオン。今後はメリユースという国があなた達を支援しますので存分にやってください」
「それは助かるが・・・・・・そう上手くいくか?」
「私を誰だと思ってるんですか? 必ず、そうします」
「そうか・・・・・・ならば落ち着いた頃にまた顔を出しにくる。頼んだぞ?」
「任せてください」
クーデターは成功。その戦果として国を手に入れた。
ミストライフを支援する方向に持ってくというキャロルの手回しが終われば、かなり動きやすくなるだろう。
といっても居場所が常に割れている状態になるので長期滞在は出来ないだろうが、拠点以外にも安心していられる場所が増えるのはありがたい。
俺とフィオンは早く報告するために、事後処理を見届ける前に拠点に戻るのだった。
VRくん「あっさり~」
VRちゃん「思えば確かにラクリィとフィオンが前で2人で組むのって大分久しぶりよね」
VRくん「この2人はお互いを高め合う感じのことが多かったからな。同じラインで戦ったのはレホラに行った時のシャクスト戦以来か?」
VRちゃん「そこが最後ね。この間のシノレフ王都での戦いもそういった場面はなかったし」
VRくん「でもやっぱりいいよなこの2人」
VRちゃん「主人公とメインヒロインってのもあるけど、信頼関係が絵になるわね。 さて次回! 『緑流亭』 お楽しみに~」