タキシム王都内
霧魔の村でやれるだけのことを終えた俺達は、帰る前に現在王が不在となっているタキシムの王都に潜入した。
目的は大したことではない、王都内が現在どのような動きを見せているか調べに来ただけである。
最も注意して見るべきは、次なる王となる人物についてだ。
これまで、今回のように突発的に王が死亡する事例はなかったために、その辺りの動きについては読みにくい所があるとフィオンは言っていた。
王は基本的に退位する時に直接指名される。とは言っても、結局は王族の中から決まるので、事前に決まっている場合が多いらしい。
未だにタキシムの新たな王が決まらないのは、シャクラがまだ若く、次代の王を決めるという段階に全くなかったためだ。
更にはシャクラには子もいなく、王族と言えるのは現在シャクラの兄弟に当たる人物しかおらず、それがまた決めかねている原因でもあった。
シャクラの兄弟に当たる王族ということは、当時選ばれなかった人物。つまり、実力が重視される王という存在の特性上、実力でシャクラに及ばず選ばれなかった人物を王にしていいのか、という問題が発生する。
王族とは、異能持ちという部分が血の上で確定してるだけであって、必ずしも王族ではない異能者などよりも強いというわけではない。
事実、今いるタキシムの王族よりも強い人物はいる。そんな状態で王族の中から新たな王を作り出しては、王という名に傷が付くという意見が多かった。
王不在の現在タキシムの実質的な指揮は、クード・トラクニスという、シャクラの側近に当たる人物が行っていた。
クードも紛れもない五芒星のメンバーである。
クードがどのような判断をするのか、それを確かめるのが今回の一番の目的だったが、二日ほど滞在した限りでは、しばらくは今の状態を維持するらしい。
そうなると民衆から戦争についての懸念などが零れるが、五芒星のメンバーであるクードからすれば、特段気にするようなことでもないので、適当な言葉であしらっているようだ。
五芒星にとって戦争など所詮は狭い世界で人口が増え過ぎないようにするための処置であり、勝ち負けなどそもそもないのだ。
王都内を散策しているとそこらから戦争に対する懸念が聞こえてくるが、裏のことを知っている俺から見れば、いつもと変わらないというのが状況的な意見だった。
王都に潜入して三日目には、もうこれ以上の情報は必要なくなり、帰ることとなった。
現在シャクラの下に付いていた五芒星のメンバーが王都内に集まってきていることから、危険度から見ても早々に出ていくのが賢い選択だろう。
最悪それだけならばまだいいのだが、神出鬼没のハクラにでも遭遇してしまった日には目も当てられない。今の戦力では勝てないと結論が出てる以上合わないのが最善だ。
帰りにフィオンにレホラの情報を聞いてみる。
レホラの調査に関しては最も土地勘のあるフィオンが行っており、同時にキャロルの捜索も行っていた。
「レホラはヤカサスが王位を継ぐみたいだな。あの男にシャクスト程の実力があると思っている奴は微塵にもいないみたいだが、あの国は五芒星のメンバーが少ないこともあり、真っ当な奴らが今残っている王族であるヤカサスを推したみたいだ。キャロルに関してだが、見つかっていない。かなり念入りに探してみたが、それでも見つからなかったから、もしかしたらレホラにはいないのかもしれないな」
「そうか・・・・・・見つかるといいな」
「見つかるさ、その内顔を出すだろう」
俺もフィオンも、キャロルが殺された可能性については話さない。
その可能性が一番高いことは理解している、勿論フィオンもだ。それでもキャロルならばというフィオンに、確定していないことについて話すのは野暮というものだろう。
他の国に関しても、大きな動きはなさそうだった。
トアンとミシェの話では、シノレフの兵士達は今にでもレホラかタキシムに攻め込もうと士気を上げていたらしいが、フュストルからすればなんの得もないので、王命により抑え、いつもと変わらぬ国の雰囲気になっているらしい。
メリユースは、まるで情報を掴んでいないのではないかと思う程静かだったとアロマとイルミアは言っていた。
軍の様子は変わらず、シェダにも特に動いた様子は無い。
サレンさんとレイラ中佐に関しても、特にこれといった情報はなかった。
俺達の行動により、世界はまだ変わっていないが国単位では変化があったはずだ。
それなのにもこの静けさ。不気味さすら感じる凪のような状況は違和感しか覚えない。
王や、それに近しい者達の手腕だと言われればそれまでだが、何かが起こる前触れのような予感すらした。
今後何が起こるのか。ミストライフと五芒星の戦いに関しては新たなステップに進んだと言っていいだろう。
その時の流れを読み間違えれば大きなものを失う。その駆け引きで最初に勝ちを上げたのはミストライフだったが、五芒星がこのまま終わるわけがない。
何処からかくる震えを感じながら、俺は最後のその時のことを想像するのだった。
VRくん「レホラはヤカサスが王になったのか」
VRちゃん「大丈夫かしら? 前に出てきた時の小物感が脳裏を過るわ」
VRくん「今までの王達と比べると流石に見劣り感が凄いな」
VRちゃん「アロマとイルミアに完膚なきまでに負けたしね……」
VRくん「一応強そうな異能を持ってるんだけどな」
VRちゃん「使い手があれじゃあね、フィオン辺りならもっと上手く使いそうだけど。 さて次回! 『クーデター』 お楽しみに~」