蒼髪の少女
初めて人を殺したのは12歳のときだった。
見習いの兵士として小さな小競り合いが起きていた戦場に駆り出され、訓練を積み重ねた成果を見せてくれとその戦場の指揮官に言われたのを覚えている。
場の雰囲気に駆られ無我夢中で迫りくる敵国の兵士を殺した。
当時から周りに比べて強かった。良き師に教わり。才能というべき剣術と反射神経、さらには異能と呼ばれる力まであった。
だが、人殺しの才能は無かった。
戦場で人を1人殺すたび、俺の中には言いようのない何かが溜まっていった。
仕方がなかった、やらなければやられていた。そう自分に言い聞かせ、また人を殺した。
本当はこんなことしたくなかった。何故、同じ人間同士で争わなければならない。霧魔獣という人類共通の敵がいるのに。
ある日、アロマが自分も兵士になると言い出した。
アロマは王族であるにも関わらず、拾われてきた身元が不確かな俺に優しかった。それどころか身分を気にせず仲良くしてくれと言ってきた。
初めは戸惑ったが、いつしか俺はアロマと普通に喋り、仲良くなっていた。
俺にとってアロマは大切な存在だった。兵士になろうと思ったのもアロマの、国のためになりたいと思ったからだ。
俺には家族がいない。だからだろうか、アロマのことは家族のように思っていた。
あんなに可愛いのに。ふとした時にドキッとするのに恋愛感情にならないのはこれが理由なのだろうか。
そんなアロマが兵士になると言ったのだ。当然俺は反対した。
喧嘩になった。アロマと喧嘩するのは本当に辛かった。だが譲るわけにはいかなかった。
理由は簡単だ。俺と同じ思いをしてほしくなかったからだ。
しばらくしてお互い妥協点が見つかった。
対災害部隊だ。ここなら俺もなんとか納得できた。
アロマも俺同様強かった。所属が違えどアロマの活躍はよく聞いた。
今回初めてアロマと同じ戦場に立った。
アロマは俺のことを守るといった。だがアロマには俺のために危険を冒してほしくない。むしろ危なくなったら逃げてほしいとさえ思っている。
だがアロマは逃げないだろう。なら俺が全力で守る。
最悪の状況で、ついに俺の考えがアロマにばれてしまった。そして気付かされた、アロマの強さに。
こうしてついに俺とアロマは背中を預けあった。
しかし状況はやはり最悪だった。
疲れが出てきてついにアロマが膝をついた。
冷や汗が出た。何とかするために無我夢中で剣を振る。
なんとか切り抜けレイラ中佐とサレンさんに合流できた。
撤退の為俺は殿を務める。身体がきついがやるしかない。アロマは俺が守ると自分に誓ったから。
そして俺は兵士に囲まれアロマの声が聞こえた。その後、どうなったっけ・・・・・・。
アロマは無事に逃げれたかな。俺はどうしたんだっけ。
浮遊感があって――――――それで・・・・・・それで・・・・・・。
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目を開けると見慣れない天井があった。
岩で囲まれているように思う。洞窟の中かなにかだろうか。
だがベットの上で寝ていたようだ。
身体を起こそうとしても激痛で動かすことができない。
頭だけを無理やり動かし状況を確認する。
机に椅子、棚もある。妙に生活感があるな。
逆側に頭を向けると扉に、1人の少女。
「!? 誰だ!」
「やぁ、起きたみたいだね」
13歳くらいだろうか、アロマよりも頭1つ分くらい背は小さい。顔も綺麗というよりは若干幼く可愛い感じだ。
何よりも特徴的なのは腰辺りまで流れる蒼いストレートの髪。それだけで謎の存在感があった。
「ここはどこだ。君がここまで運んでくれたのか?」
「まあまあ落ち着け。順を追って説明してやるから」
少女は髪を左右に揺らし笑みを浮かべた。
「私の名前はフィオン。フィオン・レイネストだ。そしてここは我がミストライフの拠点だ」
少女の名前はフィオンというらしい。そしてここはミストライフの拠点なのだそうだ。
「あー、フィオン? その、ミストライフってのは? それに拠点って・・・・・・」
「なんだ? お前ほどの奴が何も聞かされてないのか。なあラクリィ」
どうやら俺のことを知っているらしい。
それにしても聞かされるってなんだ。聞くのはミストライフってやつのことだろうが、いったい誰から聞くっていうんだ。
それにこんな普通に話しているが果たしてこいつは味方なのか?
あまりうかつなことは言わないほうが良さそうだ。
「ふっ、ラクリィが何を考えているか何となく分かっている。私か敵か味方か、判断しかねているんだろう」
どうやら読まれているみたいだ。決して顔には出していないと思うんだが、フィオンは一体何者なんだ。
「私が敵か味方か、それはラクリィの返答次第だ」
「なんだよ、はっきりしないな。いったい何が聞きたいんだ?」
「なぁに、簡単なことだ。ラクリィ、ミストライフに入れ! 私と共に来い!」
私と共に来いって・・・・・・。まずミストライフってなんなんだよ!