ハクラの目指す場所
三度吹き飛ばされたが、大きなダメージは一つもなかった。
初めに言っていた通り、ハクラに俺達を殺すつもりは、今は無いというのは嘘ではなかったようだ。
戦いの終わりを告げたハクラは、完全に気を抜いて立っている。
今ならば一撃くらいは入りそうだが、それは完全に悪手な気がした。
ここは大人しく帰ることにしよう。
こちらの様子を確認したフィオンが、心配するような表情で駆けてくる。
「大丈夫かラクリィ?」
「ああ、大した怪我はしてない。強いて言えば頬を少し切ったくらいだ」
この頬の怪我も、ハクラは狙おうと思えば致命傷になりかねない場所を攻撃出来たはずだ。
完全に手加減されて負けた。ここ一年で飛躍的に強くなり、自信が付いていたために心にくるものがあるが、今はそれを飲み込んで帰ることを優先しよう。
「帰ろうフィオン。今回はもう十分だろ?」
「十分どころか出来すぎなくらいだよ・・・・・・本当に良くやってくれた」
フィオンからの労いの言葉。それを貰えただけでも頑張った甲斐はあった。
「気を付けて帰るんだよー」
ハクラは暢気にこちらのことを気遣ったようなことを言う。
次に会う時には本気の殺し合いになるであろう相手なのにこの緩い感じは、余裕からくるのか、元の性格からくるのか。
俺達が戦っている間に皆も目を覚ましていたようで、いつでも帰ることが出来る状態だ。
が、帰る前に少し、ハクラに聞いておくことにしよう。
「ハクラ、お前が五芒星に入った目的はなんだ?」
ハクラは霧魔の民以外を基本気に見下しているとヒエンは言っていた。それは王であっても同じこと、結局王ですらハクラの強さには遠く届いていない。
そんなハクラが何故五芒星にいるのか。別に霧魔の村を出たからといって、無理に五芒星に入る必要はなかったはずだ。
やはり何か目的があって動いているように思える。その辺はヒエンも疑っていたところだ。
こうして向こうに敵意がない状態で会えたのだ。答えてくれるかは分からないが、聞くだけならタダなので、聞いておこう。
「なんでそれを知りたいの?」
「気になったからだ。お前は王達のように人の頂点に立って好き放題したい訳じゃないんだろ? 何か別の目的がある気がする。それが気になっただけだ」
「なるほどね・・・・・・一つ訂正しておくけど、私にも支配欲はある。実際大本を辿れば私の思想は限りなく王に近いと言えるね」
「そうなのか? それは意外だな」
「別に驚くことじゃないよ。力で弱いものを淘汰したいという感情は生物ならば必ず持っている欲求だからね。その大小はあるだろうけど」
それはまあ、分からなくもない。五芒星のような振り切ったようなものではなくとも、確かに誰でも持ち合わせている感情ではあると思う。
「そしてラクリィ、君の予想は確かに的外れなものだ。私は人の頂点に立ちたい訳じゃない」
「話が見えないな。ならさっきの前提はどうなる?」
「王とは酷く小さい、人を支配するだけで優越感に浸り満足している。やはり私とは相容れない。私はね? ラクリィ。私が目指している場所は神。この世界の神になることさ!」
手を広げ、子供が無邪気に夢を語るようにハクラは言う。
「この霧魔の民が統べるべき世界で! 私達が特別な存在であるこの世界で! 私はその全ての頂点に君臨する神になる! 王などと矮小な存在ではない、人のみを統べる小さき箱にはの世界ではない! 世界という大きく壮大な大地の神に私はなる!」
狂気的とも言えるその思想。神とはまた不定形なものをどうやって目指すというのか。
「五芒星に入ったのは霧魔花の群生地を見つけ出す為。君達ミストライフは知らないだろうけど、五芒星も霧魔花の群生地は躍起になって探してるよ」
「・・・・・・それを見つけて、お前になんの得がある?」
「単純さ、霧魔花の群生地でより自身の存在を霧に近づけるのさ。濃密な霧は霧魔の民をさらに変質させる。霧魔の民は元々それに近い手順で生まれたからね。ちなみに五芒星が霧魔花の群生地を探している理由だけど、いわば保険だね。君達よりも先に見つけないと対処がどうしようもないから」
ハクラが神になる条件は霧魔花の群生地を見つけること。つまりは見つけていないうちは、ハクラもその目的を達成できない。
神というのがどういうものか、神になって何が変わるのかは正直全く分からないが、直感的にハクラをそこに至らせてはいけないことだけは分かる。
「最後の一つだけ教えろ。何故俺に固執した? 親父とどんな関係だ?」
「それ二つだよね・・・・・・まあいいけど。まずは君のお父さんとの関係だけど、はっきり言って接点は殆ど無い。話に聞いているだけさ」
「なら何故――――――」
「そう焦らない。君に固執するのは、君のお父さんが霧魔の民最強の男だったから。それを超えないと私は神に至れない。でももう直接戦うことは出来ないから、血を引いている君ってわけさ」
俺の親父はとことん敵が多かったようだ。
「ま、そういう訳だから覚悟はしておいてね? 次に会う時は本気を出せることを期待してるよ! それじゃ、またね!」
そこで話は終わりだと言うようにハクラは踵を返して去って行った。
残された俺達は、理解の及ばないその話を飲み込むので精一杯だった。
VRくん「また話が急にでかくなったな」
VRちゃん「世界でも一番強いって言われてる王達と差別化するためには神とかくらいしかなかったんじゃないかしら」
VRくん「いきなりメタっぽいこと言うなよ。作者が冷や汗流すぞ」
VRちゃん「まあ、これを書いてるの作者だし」
VRくん「だからっ!!」
VRちゃん「冗談よ、気にしたら負け。 さて次回! 『報告』 お楽しみに~」