最強の男
VRくん「一難去ってまた一難。別に去った訳じゃないけど」
VRちゃん「出て来たわね。ハクラの実力はまだ未知数よ」
VRくん「でもフィオン達を1人で圧倒してたみたいだし、王よりも強そうだな」
VRちゃん「次回ラクリィが戦うみたいだけど、どうなるかしらね。 さて次回! 『完敗』 お楽しみに~」
意識が戻った時にまず感じたのは、鼻につく血の匂い。
鉄のようなその匂いは、頭が冷めきっていないながらも、俺にきつい不快感を与えてくる。
「――リィ! ラクリィ!」
次にサギリの声が聞こえてきた。
戦闘は終わっているというのに、焦ったような声色だ。気絶していただけなのだが、そんなに心配してくれていたのか。
仲間達にも心配を掛けたかもしれない。いつまでも寝ていないでさっさと起きよう。
そう思い、起き上がって目を開いた俺の視界に映ったのは、信じられないような光景だった。
「・・・・・・え?」
俺達が先程まで戦っていた場所。そこにはシャクストとシャクラの死体が転がっている。
そんな中、俺の仲間達までもが、地面に倒れていた。
「な、なにが・・・・・・おい! 何があった!」
「あー、やっと目を覚ましたんだね」
俺の背後から聞きなれない声が響く。
咄嗟に振り返り剣を構えると、そこには中世的な顔つきをした、白髪の男が立っていた。
「やあラクリィ、会いたかったよ」
「これは、お前がやったのか・・・・・・?」
「そう、私がやった。安心して、全員ちゃんと生きてるから」
どうやら誰も死んではないみたいだ。確認するとしっかりと息はしている。
だが、トアンとミシャは傷がそれなりに深い。イルミアとアロマは気絶しているだけのようだ。
フィオンだけは、俺が意識を取り戻した時に同じく意識が回復したようで、フラフラと立ち上がった。
「やって・・・・・・くれたな・・・・・・。一体、何者だ・・・・・・」
「わぉ! まさかこんなに早く起き上がってくるなんて。流石は噂に聞くフィオン・レイネスト、王に引けを取らない強者だ」
「何者かと聞いている!!!」
「やれやれ、全くせっかちだ。私の正体に薄々は気が付いているんだろう? まあいいけど」
男にしては長い髪をかき上げて男は俺の方を向く。
「私はハクラ。五芒星の一角にして霧魔の民でもある。ここに来た目的は・・・・・・強いて言えばラクリィ、君に会いに来た」
「俺に・・・・・・?」
「そうさ。霧魔最強だったあの男の息子。それを自分の目で見てみたかったのさ」
白い髪という他にない特徴からもしかしたらとは思ったが、やはりこの男がハクラだったようだ。
俺が気絶している間に何があったのかは正確には分からないが、そいつは1人で俺以外の5人を倒したのだろう。
それを考えると、五芒星にいながらも、王よりも確実に強い可能性が高い。
現状、王と戦っても相手が1人であればまず負けることは無いというのは、先程の戦闘で分かっている。いくら多少の消耗があったとはいえ、俺が気絶している短時間で5人を倒したのだ。
ハクラに特に怪我をした様子は見られない。完全に無傷と言って良い。
状況は非常に悪かった。今ここで戦えば、確実に負ける。
「俺を見に来たといったな。本当にそれだけか?」
「うん、今回はそれ以外どうでもいいよ」
「・・・・・・分かった。俺が相手になる。その代わりこれ以上仲間に手は出すな。俺が目的なんだろ?」
「いいよ。もう一度言うけど今回は君だけが目的だからね。あ! 安心していいよ! 別に殺そうと思ってる訳じゃないから。手負いの君を殺してもなんの面白味もないからね。手合わせ程度だと考えてくれ」
「そういうことだフィオン、皆を頼む」
「ダメだラクリィ! そいつの言うことが本当だとも限らない!」
「ん? 私のことを疑っているのかい? でもそれは的外れな思考だ。別に今回に限らずラクリィ以外は本当に興味がない。来るなら殺すけど、そうじゃないなら別に殺しはしないよ?」
「フィオン頼む、ここは退いてくれ。勝てないことくらいお前なら分かってるだろ!」
「それは・・・・・・いや、分かった。くれぐれも無茶はするなよ」
俺が強めの口調で窘めると、フィオンは冷静になったのか大人しく退いてくれた。
戦闘になる為、皆を安全な場所まで移動させてくれる。これで最悪のことにはならないだろう。
「それじゃあやろうか。最強の男の血を引くその力、存分に見せてくれよ?」
「期待に応えられるかは、分からないがな」
この傷でどこまでやれるか。勝つことは無理だとしても、手傷の一つくらいは与えたいものだ。
ハクラから殺気を感じないことから、本当に俺を殺すつもりはないようだ。つまりは俺、俺達を相手に遊ぶ余裕があるということでもある。
王を倒したと思えば、それ以上の怪物が出てくるとは。本当に嫌になる。
なるべく、手数を引き出させるように頑張ろう。
俺は剣を握りしめて深く息を吐く。
単純に解析し、現状世界で最も強いであろう男に向けて地面を蹴った。
王都内で起こった決戦。それが思わぬ形で継続することになった。
戦闘の行方はまだ分からないが、そう時間は掛からずに勝敗は決するだろう。
霧対霧。その戦いは、理解の及ばぬレベルに発展していくこととなった。