決定打
状況にあまり変化はないまま、かなりの時間戦闘は継続していた。変化があまりないといっても、一瞬でも気を抜けば状況が傾く。そんな極限状態が続いている。
体力の消耗は、移動距離の少ないあちら側に分があったが、前衛であるシャクストはかなりの量の血を流しているので肌の色はかなり悪くなっている。
一方のこちらは大きなダメージがあるのは俺だけ。正直少し身体を動かす度に悲鳴を上げたくなるような痛みが走るが、ここは死ぬ気でこらえて踏ん張らなくてはならない。
先に状況を動かすのはどちらか。決定打がなければどんどん泥沼化していくのみ。
フィオンに何か策はあるのだろうか? いつも目的地をある程度設定して動くフィオンならば、何か考えていそうなものだが、今のところその真意は測れない。
「どうするんだフィオン」
俺は激しい戦闘の中、どうにか立ち位置を入れ替えてフィオンの近くまでやってくる。
「まずはシャクストを崩さなければどうしようもない」
「シャクストさえどうにか出来ればいいのか?」
「ああ。後の2人は何とかなるだろう」
「分かった。信じてるぞ」
「どうする気だ?」
「俺がシャクストを抑える。そこまで長くはもたないから早めに頼むぞ」
「無茶だ・・・・・・お前の怪我はタイマンで戦える程浅くはない」
「このまま長引けば同じことさ。なら、俺はフィオンを信じてもうひと踏ん張りするよ」
「全く・・・・・・お前という奴は・・・・・・分かった、信じよう」
フィオンのことは心の底から信じている。だからこそ、俺は命を懸けて戦えるんだ。
「トアン、交代だ」
「は? 何を言って・・・・・・」
「大丈夫だトアン、ラクリィを信じよう。私達が遅れるだけラクリィの負担が増える」
「・・・・・・死ぬなよ」
「分かってるさ。そっちこそ、頼んだぞ」
俺は前衛のトアンと入れ替わるように前に出る。
「サギリ、探知の全力展開。シャクストがどこに移動しても対処できるようにする」
「分かりました。霧の理の制御はボクに任せてください」
「頼んだ」
サギリとの短いやり取りを終え、俺はシャクストに向けて一直線に突撃する。
シャクストさえ抑えればフィオン達がどうにかしてくれるのだ。ならば俺に出来ることは搦め手ではなく、俺の最大の武器を利用して全力戦闘するだけだ。
「やっと前に出てきやがったか!」
「どうしたシャクスト、息が上がってるじゃないか」
「てめぇこそ今にもぶっ倒れそうだなぁ!! 怪我人同士仲良くやろうぜ!」
シャクストはやはり俺との真正面からのぶつかり合いに乗ってきた。あれ程の執着を見せていたんだ、当然といえば当然だ。
正面から斬りかかる俺に対してシャクストは横にステップを踏む。するとそのステップからはあり得ない移動の仕方を見せて真後ろに近い角度から拳を放ってきた。
王達はかなりの連携が取れている。シャクラがシャクストの動きにここまで的確に合わせられるのは、正直に凄いと言えた。
真後ろから迫る拳に対して、ガードすることなく振り返り剣を横に薙ぐ。
俺は今も1人で戦っている訳ではない。この手に握るのは、長年寄り添ってきた相棒なのだ。その相棒が任せてといったのならば何も心配することはない。
シャクストの拳は横から正確に割って入ってきた霧の剣によって防がれる。だがシャクストも一筋縄ではいかない。横一直線にシャクストを斬り裂くはずだった剣は空を斬った。
シャクストは俺の攻撃を避けたのと同時に、俺が向いている方とは真逆、つまりはまた背後に場所を移った。
それでも俺に攻撃が届くことはない。探知のより正確に捉えたシャクストの位置を、俺を伝ってサギリが読み取り霧の剣でガードしてくれる。
今度は俺の反撃が許されない程の連打。目で捉えることはほぼ不可能だが、それでもなお俺には届かない。
俺自身も攻撃出来ないせいで決着が付くことはないが、それでいい。
拳が剣を殴っているのにも関わらず、音が出ない戦闘をしばらくしていると、ついにチャンスが訪れた。
シャクストの小さなステップ。しかし今回は、本当に小さく移動しただけ。
限界が近い中激しい戦闘をしていなかった為シャクストは気が付かなかったのだ。シャクラにシャクストを援護する余裕がなくなっていることに。
俺はその隙を見逃さなかった。
「サギリ!!!」
「分かってます!」
俺はサギリを思い切り握りしめ斬りこんだ。
想定と違う結果になったシャクストには確かな隙が生まれた。それはこの戦況で決定打になりえるもの。
小細は無し、今の俺が出来る最高の速度を以てして剣を振るう。
それは真っ直ぐにシャクストの身体に吸い込まれていき、その大きな身体を斬り裂いた。
そこへこれでもかとサギリが操る霧の剣が襲い掛かった。
「がはっ・・・・・・」
シャクストは口と身体から大量の血を噴き出して倒れる。
血の海に沈んだシャクストに起き上がる様子は無い。もしかしたらまだ息はあるかもしれないが、確かめずとも勝手に絶命するだろう。
長く激しい戦闘の中、遂に王の一角が崩れたのだった。
VRくん「ついに……ついに!!」
VRちゃん「ついに王の一角が落ちた!」
VRくん「ここぞという時に決めてくれる! 流石主人公!」
VRちゃん「でもフィオン達の方では何があったのかしら?」
VRくん「案外人数で押したのかもな」
VRちゃん「それもあるかもしれないけど、それだけかしら? あのフィオンよ?」
VRくん「確かに、搦め手は普通に使ってそうだよな」
VRちゃん「まあいずれにせよ残るは後4人! このまま頑張ってほしいわ。 さて次回! 『不意の不意 sideアロマ』 お楽しみに~」