3人の王
フュストルが戦いに参加してきてからはやはり楽ではなかった。
嫌になるほどの物量を誇る魔法を掻い潜りながらでは、思うように動くことは出来ない。
それでもフュストルはまだ本気ではないような気すらするので考えることが多く、余計に披露が溜まっていく。
途中からは堪らず霧の理で操る剣を五本に増やした。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・」
息が絶え絶えな俺の足元には、首から先がない身体と二つの頭が転がっている。
なんとかダイエンとナタを倒すことは出来た。残るはフュストルだけだ。
そんな状況でもフュストルにはまだ余裕があるように見える。本当に勘弁して欲しかった。
俺の傷も少なくはない。剣を早々に消しておいたおかげで切り傷による流血は殆ど無いが、打撃による骨へのダメージで身体は痛み、内臓へのダメージで口の中には血の味が広がっている。それ以外にもフュストルの魔法により火傷がいくつかある。
「随分と辛そうだのう」
「はぁっ・・・・・・誰の、せいだと、はぁっ・・・・・・思ってる・・・・・・」
「そりゃあ言うまでもなかろう。ワシら王と敵対したおぬしが悪い」
飄々とした表情で煽るようにフュストルは返事を返してくる。
「ほんっとに、あんたの相手は嫌になるよ!」
腹いせ交じりに背後から霧の剣で攻撃するが、見向きもせずに回避される。
歳を感じさせないこの軽やかな動きは、流石世界の頂点だけある。
出来れば俺自身でも攻撃を仕掛けたいが、如何せん近寄ることが出来ない。
飛翔してくる魔法の弾幕を全力で移動しながらでは、どう足掻いても近寄れない。フィオン達が来るまではなるべくダメージを食らわないことを優先するしかなかった。
ここまでの戦闘はそこまで長引いていない。フィオン達の方にも五芒星の人間が行っているとすれば、まだしばらくはこれないだろう。
ならば逆にボディーミストで少しずつ引いていき、こちらから合流するのもありだった。
そう考えていると、唐突にフュストルの顔に怪しい笑みが浮かんだ。
「やっとか、待ちくたびれたぞ」
フュストルは俺の背後に向けて言葉を発した。
フィオン達が来たかと思い、後ろを振り返ると、迫っていたのはフィオン達ではなく拳だった。
完全な不意。ダイエンとナタを倒した時に探知は切っていたので気が付かなかった。
来たのは五芒星の増援。しかも最悪の相手だ。
顔面に強い衝撃が来たのと同時に俺は吹き飛び壁に勢いよくぶつかる。
「なん、で・・・・・・?」
「・・・・・・いい感触だ。久しぶりだなぁ、ラクリィ!」
そこにはレホラの王であるシャクストが立っていた。その横には背丈の低い男もいる。
「シャクストの顔面パンチを食らって意識を失わないなんて凄いね君! 聞いていた通りだよ!」
「お前は・・・・・・?」
「失礼、自己紹介がまだだったね。初めまして、僕はタキシムの王シャクラ・リル・タキシムだよ! よろしくラクリィ」
見た目通りの子供っぽい喋り方をした男はタキシムの王シャクラだった。
そして一テンポ遅れて状況を理解する。今、この場には俺に対して王が3人集まっているのだと。
絶望的という表現すら生ぬるく感じてしまうような地獄が目の前にあった。
「勘弁してくれ・・・・・・」
思わず乾いた笑みが出てしまう。笑ってはいるが本当は泣きたいくらいだ。
「あんときは世話になったからなぁ! 借りを返しに来たぜぇ!」
「・・・・・・帰ってくれよ」
「んだぁ? 連れねえこと言うなよ! 俺ァこの日を楽しみにしてたんだ! 存分にやり合おうぜ!」
言わずもがなシャクストはやる気満々だ。それを見ているフュストルとシャクラは呆れたような表情を浮かべている。
どう足掻いても切り抜けることは出来なさそうな状況だが、ここで死ぬわけにはいかない。俺は揺れる視界を無理やり戻して立ち上がった。
「霧の理・・・・・・その意思よ剣であれ」
「霧の理、その意思よ剣であれ」
指示を出さずともサギリはすんなり言霊を復唱してくれる。
俺の周りには十本の剣が力を帯びて生成され、それを合図に戦闘が開始した。
「いくぞぉ!!」
前衛はやはりシャクスト。フュストルとシャクラは下がったまま動かない。
シャクストとの近距離戦闘はこちらが不利だ。まずは霧の剣で牽制する。
先程吹き飛ばされたこともあり、距離的にはそれなりに空いている。フュストルもシャクストの邪魔になるであろうから魔法は放ってきそうにない。
接近してくるシャクストに向け、多方向から霧の剣で攻撃する。
だが、シャクストは回避に動かずとも、それが当たることはなかった。
「わりぃな! 距離は関係ねぇんだ!」
「んな!?」
霧の剣が当たる瞬間シャクストが一歩踏み出すと、何故か離れていたシャクストが目の前に迫っていた。
身体能力で強化された速度とは次元が違う。アロマのモメントジャンプのように瞬間移動してきたとしか思えないような、そんな異次元の速度。
俺は堪らずボディーミストで回避をし、体勢を整えるべく側面に大きく移動する。
「そっちじゃ!」
「あいよ爺さん!」
だがフュストルにはその動きもしっかり捉えられている。
実体化した瞬間に、先程同様シャクストが目の前にいた。
「痛ぇぞ、歯ぁ食いしばれ!!!」
俺に避ける術はなく、顔に二度目の衝撃が襲った。
VRくん「流石ラクリィ、ダイエンとナタには後れを取らなかったみたいだな」
VRちゃん「でも状況は絶望的ね。フィオン達が来るまで耐えられるかしら?」
VRくん「既に瀕死だからな。どうするんだろう?」
VRちゃん「どんなに頑張っても勝ち目はなさそうよね。 さて次回! 『圧倒的な強さ』 お楽しみに~」