奇襲 sideフィオン
今日の調査を終え、後はラクリィの帰りを待つだけだ。
五芒星の戦力を削る役割をラクリィ1人に任せているのは心苦しかった。
能力的に見ても一番適任なのはラクリィで間違いないが、本当であれば変わってやりたいくらいだ。
今回のことが終わったら目一杯労ってやろう。
それでラクリィの心が軽くなるかは分からないが、私が出来ることはしようと思った。
ラクリィは毎回殆ど同じ時間に戻ってくる。それはラクリィの優秀さを裏付けることであり、私達にも安心感をもたらした。
だが今日はまだ帰ってきていない。いつもならば既に休んでいてもおかしくない時間なのにだ。
「らっくん遅いね・・・・・・」
不安そうにアロマが呟く。私も同じ気持ちだった。
もしや何かあったのではないかと考えてしまう。様子を見に行った方がいいだろうか。
そんなことを考えていると、近くに人の気配を感じた。
「ラクリ・・・・・・」
ようやく帰ってきたかと声を掛けようとしたが、感じた気配は1人だけではなかった。
「誰だ!」
近づいて来るにつれてはっきりと気配を捉えることが出来た。その人数は7人、ラクリィの気配は無い。
私の警戒した声で仲間達も全員臨戦態勢に入る。
気配のした方に目を向けていると、茂みから武装した男女7人が姿を現した。
その中には知っている顔もあれば知らない顔もある。だが、知っている奴の顔だけですぐに判断出来た、五芒星の奴らだと。
「狩の時間だ」
現れた奴らの1人がそう告げると、他の奴らは楽し気な笑みを浮かべる。
戦闘になるのは避けられないだろう。だが、おかしな点があった。
まず、構成メンバーの中にフュストルの下についている奴と、シャクストの下についている奴がいる。
こう考えるに、フュストルは私達を始末するにあたって、シャクストに助力を願い出たようだ。
そしてもう一つ、私達5人を相手にするには明らかに戦力が足りていない。
本人達はそう思っていないようだが、私達の実力を知っているシャクストに助力を願ったのならば、戦力分析を誤るはずがない。
というよりも、シャクストならば自身が出てくる場面のはずだ。
これらを鑑みると、シャクストはシノレフには来ていないか、何か別の目的がありそちらに行っているかだ。
可能性として高いのは後者だろう。
ここでの奇襲、さらにはラクリィが帰ってきていないとなると、シャクストはそっちか。
「素早く片付けてラクリィの元に急ぐぞ!」
ラクリィは最悪の場合1人で王を2人同時に相手にしていることになる。ここは手早く切り抜けて援護に行かないとラクリィが危ない。
幸いなことに、今の私達であればこの程度の奴らにそこまでの時間は取られない。時間稼ぎとして送り込まれたのだろうが、申し訳ないがとっとと行かせてもらう。
「各自相手の撃破を最優先! 連携は考えなくてもいい!」
不意は突かれたが、これ以上相手に流れは渡さない。
私は素早く手前にいた2人の懐に潜り込んで、その首を掻っ切る。
まずは数的不利を無くした。1対1ならば誰も負けることは無いだろう。
首から血飛沫を上げながら倒れる2人の後ろから魔法が飛んでくる。それを片手間に消し去り、お返しとばかりに魔法を放った。
魔法を放った奴は驚きながらも私の魔法を避けたが、避け先には最近使いだした直剣を振り下ろすイルミアがいる。
カバーで入ってきた女の剣士がガードしようと剣を構えたが、そんなものは何の意味もなさずに、イルミアの振るった圧倒的なパワーの斬り下ろしにより2人まとめて叩き潰される。
これで後3人。そちらに目を向けると既に血を流して倒れているのが見えた。
アロマ、ミシェ、トアンの3人がそれぞれ1人ずつを秒で倒したようだ。
奇襲からの戦闘終了まで五分も経っていない。全員、本当に強くなった。
だが、一息ついている暇は無い。
「まだ気を抜くな、今から王都内で戦闘になっているであろうラクリィと合流する! 予想ではフュストルと、さらにはシャクストもいる可能性がある。ここからが本番だ!」
王の名前が二つ出たこともあり、全員の意識がさらに引き締まる。
当初の予定では王が2人現れた時点で撤退だったが、仲間を置いていく選択肢は無い。こうなれば戦うまでだ。
予測ではラクリィの戦闘が始まってから既に三十分は経過しているだろう。厳しい状況だが、ラクリィならば持ちこたえてくれていると信じるしかない。
先頭を走りながら、ラクリィがいるであろう場所を予測する。
選択肢でいえば今日の標的である奴の家か、いくつかあるそこまでの道だ。
進むべき場所を間違えれば致命的な遅れになる。頭をフル回転させラクリィの能力、相手の思考、戦闘を起こす条件に見合った場所を算出する。
答えはすぐに出た。
自身の中の答えを疑わずに真っ直ぐにそちらに向けて走る。
その場所が近づくにつれて、微かにだが戦闘音が聞こえてきた。
戦闘音が聞こえるということは何とか間に合ったみたいだ。
「待ってろラクリィ、すぐに着く」
そちらの方角に小さく呟いて、私はマフラーを握った。
VRくん「どうなるかと思ったけど、完全に無双してんじゃん……」
VRちゃん「やっぱりどのくらい強くなったのか分かりやすくする為には無双よね」
VRくん「そもそもフィオンは異能すら使ってないしな」
VRちゃん「まあ基礎力も上がったということで。 さて次回! 『3人の王』 お楽しみに~」