3対1の攻防
剣を失ったダイエンとナタがこちらを睨みつけてくる。
武器を失った以上、ここからは異能をフル活用して戦ってくるだろう。まだまだ気の抜けない状況だ。
「やるのうラクリィ。今のは霧分解か? 情報では使えないと聞いていたが・・・・・・」
ダイエンとナタとは違い、聞いていなかったといってもフュストルは驚いた表情は見せない。
もしかしたらこれも予想はしていたのかもしれない。何を考えているか分かりにくい奴だ。
「剣を消したからと調子に乗るなよ!」
「ここからが本番だ」
フュストルとは対照的にこの2人は非情に分かりやすい。だからといってまだ侮れる段階ではないが。
いずれにせよ流れをこのまま掴んでいるためには、このまま攻め手を握る必要がある。俺は動きに緩急を付けつつ再び斬りこんだ。
剣無しでどう対処するのか。俺は警戒を含めて、いつでもボディーミストを使えるように準備した。
先に俺の切っ先が伸びたのはダイエンだ。軌道はダイエンの胴を斜めに両断するように捉えている。
俺の剣が触れる瞬間。ダイエンはそれを防ぐように背の平を翳した。
無論素手で止めれるようなものじゃない。が、剣はダイエンの手に触れたと思うと、俺の意図していない軌道を描いてダイエンから逸れた。
「なんだ・・・・・・何が起こった・・・・・・」
「逸らしたのさ! 俺の異能はあらゆるものを逸らすことが出来る」
自慢げに言いながらダイエンは俺にボディーブローを放ってくる。
想定外のことが起きたとはいえ、見えているので避けることは出来た。
「僕がいることを忘れてもらっては困るな!」
俺が避けたのと同時にナタがいつの間にか俺のすぐそばまで接近してきており、完全に不意を突かれた俺は蹴りをモロに食らった。
脇腹に響く痛みを、歯を食いしばって何とか抑え込み、ボディーミストを使って距離を取った。
フュストルに動きを補足されているはずだが、相変わらず何もしようとしない。
実体化した俺に、ナタは歯を見せながら笑みを浮かべていた。
「僕の異能は気配を消す! いくらお前の反射神経が優れていようとも完全なる不意打ちには対応出来なかったようだな!」
ご丁寧にナタも異能のネタバレをしてくれた。
厄介な異能を持っているようだが、自信の表れからか、ダイエンもナタも手の内を明かしてくれたので対処することは出来そうだ。
俺は乾いた笑みを零す。
「なにが可笑しい!!」
俺の相手を小馬鹿にしたような表情が癪だったのか、ダイエンが怒鳴り声を上げる。
「いや、お前ら2人だけならどうとでもなりそうだと思っただけだ」
「なんだと・・・・・・?」
2人とも目に見えてキレている。これならば勝つことは難しくなさそうだ。
問題はフュストルがどのタイミングで動くかだ。それを気にしながら戦わなければいけないのは、かなり面倒くさかった。
「サギリ、探知と霧の理を同時に使う。探知はそれの方でやるから霧の理の補助を頼む」
「分かりました」
俺はまず探知を発動させる。これで不意を突かれることは無い。
「霧の理、その道に剣あれ」
「復唱。霧の理、その道に剣あれ」
サギリが復唱した言霊と共に、俺が生み出した三本の剣に力が宿る。
それを確認したと同時に俺は何の代り映えもせずに正面から突っ込んだ。
探知で把握出来ている以上ナタは一旦放置でいい。攻めるべきはダイエンだ。
先程の剣を逸らした異能。あれは恐らく逸らす対象に手を翳す必要がある。それを考慮すると、一度に逸らせる攻撃は最大二つ。ならば霧の理で操る剣だけでもおつりがくるほどだ。
生み出した剣の操作はサギリに任せてある。俺は自身での攻撃と、探知に意識を向けておけばいい。
俺の単調な攻撃をダイエンは簡単に逸らす。そこに三本の剣による追撃。
サギリは俺の動きに完璧に合わせてくれているので、一方的な攻めが成立していた。
ダイエンは両手で逸らしては体勢を巧みに変えて次を捌きとかなり頑張っているが、それだけで精いっぱいだ。その頑張りも、そのうち崩れるだろう。
そんなダイエンを見かねてかナタだ気配を消して踏み込んできたが、残念なことに丸わかりだ。
俺は接近してきたナタの方に振り返り剣を振り下ろす。
傍から見れば何の脈絡もなかっただろう俺の攻撃にナタは反応が追い付かず、右肩から先が宙に舞った。
「がぁっ!!」
「ナタ!」
ダイエンが声を上げるが、三本の剣を振り切ることは出来ず、カバーにはこれない。
俺は痛みから身体が一瞬硬直したナタに止めを刺すべく剣を振り上げた。
「・・・・・・これ以上はやらせられんのう」
「っ!?」
冷たいフュストルの声が聞こえたと思った瞬間、俺に向けて大量の魔法が飛んできた。
多種多様に及ぶ魔法が眼下に迫ってきては回避せざる負えない。いくらなんでもこの量を即座に霧分解で消すのは無理だ。
ボディーミストによる回避で事なきを得た俺の目には、ナタ避けるように広がった地獄のような景色があった。
燃え盛っていると思えば凍り付いている場所があり。地面は町中とは思えない凸凹としたものに変わっている。
これが人類で最も魔法に優れた人物の攻撃。
「さて、ここからはワシも参戦じゃ」
何処か楽しそうにも聞こえる声を発しながら、フュストルが遂に動き出した。
VRくん「異能持ちでも王レベルじゃないとラクリィの敵じゃなさそうだな」
VRちゃん「ここまでは圧倒的に優勢ね。ここからどうなるか」
VRくん「フュストルも遂に戦いに参加してきそうだし、きついのはこっからだろ」
VRちゃん「フィオン達の方も気になるわね。どうなってるのかしら?」
VRくん「もしかしたら向こうでも戦闘になってるかもな」
VRちゃん「まあでもフィオン達なら大抵の相手は問題なさそうよね。 さて次回! 『奇襲 sideフィオン』 お楽しみに~」