アロマの新戦術
アロマとイルミアの模擬戦を見ていた。2人とも基礎能力がかなり上がっているようで、未だ異能を使っていないものの、見応えのある模擬戦となっている。
アロマならではの手札と選択肢に対してイルミアは持ち前の速度で対応していた。
ここまで大きな動きがないのは、2人の相性によるものだろう。
イルミアのウェイトチェンジは、相手に触れてさえしまえば即座に決着がつくことも大いにあり得る。その為、アロマは出来るだけ距離を取って戦いたいのだろう。
イルミアの速度をもってすればこのくらいの距離であれば詰めることが出来るだろうが、攻撃を掻い潜りながらようやくたどり着いてもアロマはモメントジャンプで逃げることが出来る。外した後の隙を突かれては堪ったものではない。
既にそれなりに長い時間戦っているが、激しい戦闘になっている訳ではないので2人に疲労は見えない。
そんな中先に動くに変化があったのはアロマだった。
得意のフラッシュレイを広範囲に拡散するように放ち、イルミアの移動先を誘導する。
アロマが使える魔力量はフィオンと大差がない程多いので、避け先にさらに大量のフラッシュピアスが襲う。
この魔法で押し切っていくような戦術はこれまでアロマはしてこなかった。
これも俺が知らない内に身に着けたことなのだろう。アロマはソラと何かやっているようなので、それも関係しているのかもしれない。
自身はその場から動かずにひたすら魔法を放つ。イルミアから魔法が飛んでくればモメントジャンプで最小限の回避を行ってまた魔法を放つ。
これではアロマに近づくことはまず無理だ。俺や他の霧魔の民のように特殊な移動手段があれば可能だろうが、そんな術を持っている方が珍しい。
アロマに足りなかった火力を補いつつ、戦闘の流れを掴むこの戦法は確かに理に適っていた。
「無理、降参」
イルミアに対処する術はなく、やがて降参の声を上げた。
「どうだったらっくん?」
「いい戦法だと思うぞ。相手が相手なら完封できるレベルのものじゃないか?」
「ありがと! でもね、これ以外にもいくつか考えてることはあるんだ。これだけじゃ前に戦ったシャクストとか五芒星にいるっている霧魔の民、わたし達がまだ知らない異能者には対策されちゃうだろうから」
「他にはどういうのがあるんだ?」
立ったまま話すのもアレなので、俺とアロマ、それにイルミアはとりあえず一度仮屋に戻ってお茶を飲みながらまったりと話す。
他のメンバーは現在アロマとイルミアと入れ替わって模擬戦を行っているためここにはいない。
アロマはソラと話し合ったり実際に戦ってみて編み出した戦術を説明してくれる。
俺は見た訳ではないので、霧魔の民相手にどの程度通用するのかは分からないが、ソラが共にいたならば通用しないということはないのだろう。
聞いた限りだと、戦術というよりかは切り札的な使い方のものだ多いみたいで、状況を見つつ選択するようだ。
「アロマ、本当に強くなった」
「みたいだな」
「今の私じゃ何回やっても勝てない。もっと強くなんないと」
「イルミアも強くなってたと思うぞ」
「うん、強くはなった。でも王達と比べると差が少し縮まったくらい。まだまだこれから」
「それよりもらっくんとフィオンだよ! 2人とも強くなりすぎ!」
「確かにそう。私達よりも明らかに成長率がおかしい。今の2人が私達他のメンバー全員と戦っても普通に勝てると思う」
「そんなことは・・・・・・いや、あるかもしれないが」
俺ははっきり言って、ここに来るまでとは別格の強さを手に入れた。フィオンにしてもその俺に迫る強さがある。
仮にフィオンと組んで皆と戦うことになっても、正直負ける気はしない。
今の俺達が王相手にどこまで戦えるかは分からないが、勝つことも十分可能だろう。
前回戦ったシャクストが他に力を隠していない前提だが。
「トアンとミシェはどんな感じなんだ?」
「あの2人は付与してもらった武器をかなり使いこなせるようになってたよ!」
「手強い」
「そうか・・・・・・」
ミールに付与をしてもらい、その使用難易度がさらに上がったそれぞれの武器を使うことに苦労していた記憶がある。
それをこの数か月間でここまで言われるほど使いこなせるようになったのならば、2人も相当なセンスの持ち主だ。
今後、それぞれの修行の成果を共有し、それを含めた戦いの作戦などを立てていくことになるだろう。
出来るようになった役割もそれなりに変わっている。能力面で言えばフィオンの変わりも俺が出来なくはない。
その辺はフィオンとも要相談になる。
話も一区切りついたところで、俺達はフィオン達が模擬戦をしている場所に戻ることにした。
VRくん「アロマもしっかり強くなってたんだな」
VRちゃん「ここに来るまで、アロマとイルミアは互角くらいだったみたい」
VRくん「今となってはラクリィ、フィオンに次いでアロマが強そうだな」
VRちゃん「イルミアも相手次第ね。異能の汎用性がそこまで高くないからあまり目立ってないけど」
VRくん「実際どんなもんなんだ?」
VRちゃん「レイラとサレンの2人と同時に戦っても圧勝出来るくらいかしら? その辺の異能者よりは強いわね」
VRくん「なるほど……あんまりピンとこないな」
VRちゃん「今後活躍する機会もあるだろうから、その時に分かるわよ。 さて次回! 『半年を終えて』 お楽しみに~」