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少年

作者: ちゃばしら





時刻は午後の六時半.

そう、ちょうど晩御飯の時間.今夜はすき焼き.


僕は家のダイニングで、鍋のお肉をつっつく.


醤油にすこし甘味を足した匂いの煙は、いい匂いだけど若干僕の鼻をさしてくる.

休日は親がふたりで料理をつくる.僕はそれを手伝っている最中.




しばらくの間 それらを堪能していると

二階から重めの足音が響いてきた.上にいるのは兄だ.


「まーたあの子は ランニングマシーンで走ってるんか」

皿を運びながら天井を見上げて、母が言う.


父は微笑を顔に浮かべながら

「勉強が嫌なんやろ」

と 答えた.


僕はというと

その答えを聞いて、すこしハッとした.

急かされるような、すこしの焦りを覚えた.


それでも

居てもたってもいられなくなった僕は、箸をおいてつい口にしてしまった.

「ちょっと、外いってきていい?」


折角今手伝っていただろうにという

母の「え?」に、父のキョとんとした顔に、

すこし後悔を覚えたが

結局何も聞かずに、父は箸をとってくれた.


母もそれを見て

「んーべつにいいけど、今からご飯なんだから(笑)。早めに帰ってくるんよ」

と言ってくれた.


踏み切ったあとの、ちょっと心地いい緊張感を

感じながら.パーカーを着てゾウリをはいて


日曜日の黄昏時の

外にでた.




もうすぐ夏なのに日暮れはまだ肌寒かった.

いつもは開けておく前のチャックを閉めて(※パーカーのね)僕は歩きだした.

同じように他の家々も晩御飯の用意の最中のようだ.

漂ういい匂いを嗅ぎながら


ふと、ひとつの家の窓に目がつく.


二階の部屋.とうぜん見上げるかたちだからよくは見えないが

多分、僕と同じような年頃の「少年の部屋」なのだろう.


彼の部屋は珍しくない、かくいう僕にもある

変哲のない普通の部屋なのだろうが


その部屋にはきっと僕の思うものとは違う

一部の人生の模様が 飾られているはずなのだ.


違う間取りに違う机、本棚.僕は敷き布団だけど、向こうはベッドかも.窓から見える景色はきっと僕にとってはとても新鮮で.


好みによって、人によってそういう模様は全然ちがう.


僕には知らない ひとつの世界が広がっている.


そうなのだ.その通りだ.


今度は地面に目を落として

考えにふける.


僕は世間知らずなんだ.唐突にさっき そう思った.


僕は体を動かすことをあまりしない.体よりあたまを使うほうが好きな、変わった人間だから.それでも良いと思ってた.


でも兄は、勉強に疲れたら 体を動かすのだ.

勉強より運動が好きで、兄は僕よりずっと単純な人だ.


僕と兄は正反対だけど、たまに 僕をサッカーに誘ってくれて少なくとも嫌いな人ではない.

ただ思えば、僕と兄が

一緒に勉強をするようなことはなかったけど.


僕には運動をする楽しさが分からない.勉強を差し置いて、体を動かす気持ちが分からない.


それってすごく悲しいことじゃないか?

たとえば言うなれば、僕には肩から上にしか価値がないのだ.


想像してみれば、たしかにイライラする.僕より遥かに、体を動かす術を知っている人のことを.僕のそれと、比べてみると.

その人は 僕よりずっと自由なのだ.


運動だけの話じゃない.僕の得意な勉強でも同じだ.

僕は理屈っぽい、論理的な思考は 得意で出来る.でも国語のような、想像力を試すような 文章は嫌いだ.


それができる人のそれと僕のそれとは比べるものではないかもしれないが.

僕は憧れてしまうのだ.


少なく着飾って多いに感動させたい.

僕にはどうも難しい気がする.それはきっと文学的な いわゆるセンスが必要だろう.



自分にはない魅力をもつ人は人に自分とはちがう表情を向けられる.

さっきの父の、あの 呆れにも似た微笑.


すこしうらやましかった.

ああいう人との繋がりは、すごく美しくみえてしまう.





いつの間にやら僕の足は、歩きからはや歩きに変わっていた.

近所にある溜池まできたようだ.近くまで来たのははじめてだった.幼いころから見ていたのでとても新鮮な気分になった.


辺りはほんのり まだ明るかったので、行く途中は水面がとても綺麗にみえたのだが



近くでみれば池はとても汚れていた.



すこし疲れたのか どうか

水面と、いつのまにか曇りはじめた空を

いっぺんに眺めていたら


ため息がでた.


さっきはなかった、水滴を 垂らしていただけの感情が

徐々に零れはじめた.




世間知らずというのはやはり愚かで醜い.


知らないということも 知らないのだから.

あってはだめな程のことだと思うのだ.



僕は不登校で 学校にあまり行っていない.いじめがあったのだ.

でも、いじめた方が悪いのではない.やはり 僕が世間知らずなのが悪かったのだ.


僕は少し前までとても醜かった.何も分かっていなかったのだ.

あまりにも知らなさすぎた.他人も自分も.


醜い 醜い 醜い

今でもきっと残ってる.



長い間外にもでなかったが久々に教室に行ったその日、何より辛かったのが 自分が遅れをとっているという現実.


僕の時間は停滞してしまっていたのだ.何もしらない無知なまま.

皆が何かを 僕には見えない何かを掴んでいる間.自分は部屋で踞っていたか あるいは寝ていた.


それは勉強だけの話じゃない.

周りはもっと、すっかり大人びていた.見えない世界を見ている気がした.


空っぽなのだ.僕は.




またもや唐突に、その現実を思い出してしまった僕は 膝を崩してしまった.


本来ならここで 何かを手にいれるために走るべきなのだろう.

見えない世界をまだ見ぬ世界と言うべきなのだろう.


でももう、どうやら無理だ.僕にはここまで、溜池まで来るのが

精一杯のようだ.このまま、走るのは無理だ.

そのために家をでたのに.



なんだろうな、さっきは違ったのに.またこれだ.

やるせない、やるせない

まだ何もしていないのにとても疲れている.


あれもこれも僕が醜いからだ.

またため息がでる.



普通の人間の 頑張る人間の 気持ちが分からない.


働くなんて自分には無理な気がする.世にでるなんてもっと想像もつかないことだ.

両親のような、立派に生き方ができるだろうか.遅れをとった僕が

少なくとも今、社会に適合できなかった僕が.


生き方なんて 見つかるだろうかーー







それも

あれも

これもすべて全部!


分からないのだ.世間知らずというのは!


それがとても

しんどい.


僕はまた、来た道を帰らなければならない.たいして長くはない、普通なら苦のないこの道を

行きしとは違う


亀のような遅い歩みで.

























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






さて 読んで頂きありがとうございます。唐突ですが、ここで終わりです。


この少年はいろいろ、考えることはできるけども

何度も考えたことを また考え始めてしまっている。ぐるぐると、迷ってしまっているのです。

なぜなら彼には、新しい事がないから。


新しい世界を、見に行くべきなのですね。発見をしに行動を起こすべきなのです。


経験というのは、だから大切なのですね。彼は頭は良いが、考え方をまだ知らないのです。

外に出ても未だ、閉じ籠ったままなのですね。

そういう、若い、世間知らずで

とても単純な

「少年」というものをこの作品では、描いてみました。


思うところがあれば、是非感想をおよせください。。


































































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