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悪役令嬢はダークヒーローを救いたい  作者: 橘田ぽんず
第1章 転生しまして、ごきげんよう
5/18

5 一択ですわ




「はぁ!」


 振りかざした剣は軽々と魔法によって発生させられた氷でいなされる。しかし相手の技量を考えればこれも想定の範囲内。手早く剣の向きを変えて、再度斬りかかる。刃と氷塊がぶつかり合う音が幾度となく庭に響き渡った。数度に渡る打ち合いの末に、わたしの手から剣が弾き飛ばされてしまった。


「しま……ッ」

「もらった!」


 相手が勝利を確信して口角を上げる。


「……なんてね」


 剣を弾かれて空になった両手をギュッと握り込む。それと同時に頭の中で素早く術式を構築させていった。両手首の周りに魔法陣が展開されると、そのまま体と両手を捻り魔力を瞬発的に解放させることで、魔法を発動させる。


 ……水の魔法。

「水楼瀑布!」


 多量の水を発生させ、相手の体をまるごと水の中に閉じ込める。魔力によって発生させられたこの水は、通常のものより各段に重たいはずだ。更には水圧さえも自在に操ることができるため簡単には脱出できないし、その気になれば、このまま命を奪うことだって可能だろう。最も今回の相手はサディアスだ。可愛い弟を自分の魔法で溺死させたりなんてするはずがないので、数秒で魔法を解除する。


「てッ!」


 どちゃりと地面に落下し、尻餅をついた弟の首筋にすかさず剣を当てる。


「油断しましたわね、サディ」

「く……負けました」

「ふふふ」


 今日は先生がいない日なので、こうやってサディアスと実戦方式の訓練をしているのだ。サディアスがお父様から稽古をつけてもらうようになってから、こうして二人で何度も組手を繰り返してきた。


「ああ、もう! また負けた!」

「そう簡単に勝ち越されてしまっては姉の威厳に関わりますわ」

「姉さんは女だろう。オレだってそう何度も負けていては男の威厳に関わるんだ!」

「あらあら、男女差別はよろしくなくてよ。ではあなたが前に進んだだけわたしも精進しなくてはならないわね」

「それではオレがいつまで経っても勝てないじゃないか」

「ふふふ、そう簡単には何度も負けませんわよ。なんと言ったってわたしはあなたの姉ですからね」


 ……て、余裕かまして笑ってるんだけど。実は内心ヒヤヒヤしてるんですよね、お姉ちゃん。サディアスに負けちゃうだとか、姉としての威厳がとか。そういうことを言ってるんじゃない。


「次は負けません。その次も勝って、勝ち越してみせますよ。姉さん」

 そう言い放つ弟の笑顔は、贔屓目抜きにしても清涼感溢れる爽やかなものだろう。

 ただサディアスくん。初期の君そんなキャラじゃなくなかったですか?

 初期のサディアスはどっちかと言えば才能を鼻にかけたタイプだったはず。家柄も良くて魔術の才能にも溢れ、挫折らしい挫折も知らずにギルドに入った嫌味なおぼっちゃまキャラだった。なんせ初登場時のセリフが……。


『これはこれは愚民共がお揃いで』

『君たちのような下劣な輩が魔導師を名乗らないでほしいね。本物の魔導師というものは、オレたち【白の黄昏 (ホワイト・ダスク)】のような崇高な精神を持つもののことをいうのだよ』

 なんだから。


 しかしロベルトとの出会いと大敗によってプライドをへし折られ、以降は血のにじむ努力で主人公のライバルポジに相応しい実力者にまで上り詰めるわけなんだけど……。今のサディアスは(如何せん幼少期から時間をかけて魔力のトレーニングをしてきたせいで年季が違う)実力が上の姉を相手に、何度も何度も挑んでは黒星と白星を重ねてきてしまっている。原作でそこまで詳しくサディアスの幼少期の描写はないけれど、ぬくぬくした環境で自尊心ばかりを肥大化させてしまっただろう原作のシチュエーションとはかけ離れているに違いない。確かにわたしの望みは原作改変だけど、そのためには来るべき時まで来るべき原作ルートを歩んでもらわなくちゃならないのだ。だけど……。この変化は如何なものなのだろうか。お姉ちゃんとしては嬉しいんだけど、原作改変を目論む異世界転移者としては微妙なところである。

 まあ、原作初手の初手でサディアスのプライドはへし折られる予定だからその後のストーリーにはさして影響ないのかもしれないけど……。こればっかりは主要キャラの身内に生まれた以上避けられないことだし。


「……」

「……どうしたんだよ姉さん。難しい顔をして」

「そんな顔をしていたかしら?」

「もしかしてギルドのことが気がかり? 姉さんはもうすぐ十五歳になるもんね」

「そうよね、そうなのよね……」


 この『ロベ剣』の世界、特に魔法属の間では十五歳になると成人として扱われる。これは大人として認められるようになるというよりも、ギルドに加入できる年齢を成人として定めているような印象だった。

 マリア・ロージィ。十四歳。わたしは二ヶ月後、十五歳の誕生日を迎える。

 原作が開始するまでにはまだ二年も時間があるけれど、わたしはもうすぐ、一足先にギルドへの加入を認められるのだ。


「良いよなぁ、姉さんはもうギルドに入れて」

「ふふふ、わたしは貴方よりもずいぶん先に生まれましたからね」

「それはそうだよ。姉さんなんだから」


 そう言うとサディアスはぷっと口を尖らせる。ついこの間ようやく十二歳になったばかりのサディアスからしてみればギルドへの加入が待ち遠しいのだろう。どこの世界でも、男の子が冒険に憧れるのは一緒なんだろうな。


「オレだって早くギルドに入りたい。なんで十五になるまで入れないんだ」

「ギルドでは危険な仕事も請け負いますからね。法律上子どものうちに許可させるわけにはいかないのでしょう」

「オレはもう子どもじゃない」

「子どもですよ。わたしも貴方も。法律上は、ですけれどね。……そんなことよりもサディアス、『姉さん』とは?」


 にっこりと微笑みながら問いかけると、彼はぎくっと効果音がつきそうな表情で目を泳がせながら口の端を引きつらせた。


「お、『お姉さま』……」

「よろしい」


 反抗期なのか年頃なのか。このところサディアスはわたしのことを『姉さん』ないし、『姉貴』と呼ぼうとして来る。

 ついこの間まで人の後ろをテチテチついて回って「お姉さま、一緒に本を読みませんか?」なんてエンジェルスマイルと向けてきたというのに。……最も、おぼっちゃまのサディアスの背伸びした『姉さん呼び』も、年頃の男の子らしくて非常に良いんだけど、注意された時の反応がこれまた可愛いから逐一訂正させているだけなので、断じて『姉さん呼び』が嫌なわけではない。反抗期を楽しんでいるだけだ。ごめんサディアス。でもねーちゃん楽しいです。


「ねえさ……お姉さまは、所属ギルドは決めているんですか?」

「そんなもの一つしかないでしょう」


 答えると「そうだよな!」とサディアスの表情が明るくなった。

 正直、所属するギルドについてはかなり悩んだ。

 この世界にはたくさんのギルドがあるけれど、『ロベ剣』の物語の中で出てくる主要なギルドは三つだけだ。


 一つは主人公ロベルトが所属する【紫の夜明け (パープル・オルトゥス)】。物語の核になってくるギルドだ。基本的に物語はこの【紫の夜明け】を中心に進んでいくためここに所属していればストーリーの大半に参加することができる。


 そしてもう一つがライバルキャラであるサディアスが所属することになる【白の黄昏 (ホワイト・ダスク)】。準レギュラー的なポジションでそれなりに登場頻度も高いけれど、序盤の登場頻度は少なめだ。やっぱりメインは話が佳境に入ってからの後半に集中する。


 そして最後は闇のギルド【黒の霧】。うちのお父様も裏では加入しているし、現在ニコラスがスパイをしている。ラスボス所属の正真正銘のヴィランポジションである。……まあ【黒の霧】への加入はありえない。話の中でもちゃんと出てくるの終盤近くになってからだしね。今から内部に入っておくメリットなんて特にない。


 そうなると入るんだとしたら【紫の夜明け】か【白の黄昏】のどっちかになるんだろうけど。困ったことにこの世界では貴族階級の人間が入るのだとしたら、ほぼ【白の夜明け】一択なのである。一部の魔法属、特に貴族の人間に根深く残っている選民思考の問題があって、【白の夜明け】が特にその選民思考の根深いギルドだからってことがあったりなかったりするんだけど。その話はまたおいおい。ちなみにエルマーパパも今は魔導協会の役員だけど、その昔は【白の黄昏】所属の魔導師だったらしい。

 【紫の夜明け】と【白の黄昏】は二大ギルドと呼ばれているのだが、昔から互いをライバル視しているというか。主人公とそのライバルの所属するという話の都合以前に、ずっと昔から互いにバチバチしあっているそうなんだ。そのギルド創設期の話については未読のまま死んでしまったからあたしも良く分かんないんだけど。この世界において魔法属の中で語り継がれる『三大賢者』の話が深く関係してるってことは知っている。そのため多分あたしが【紫の夜明け】に入るとか言い出したら、お母様は泣き崩れるし、下手したらそのまま勘当されかねない。別にそれでも(よくはないんだけど、百歩譲って)いいとしても、わたしとしてはこれからのことを考えると『ロージィ家』の娘ってポジションはまだ手放したくないんだよね。なにかと都合がいいのだ、このお貴族様の肩書は。


 それにわたしは別にお父様と敵対したいわけじゃない。これから先、わたしがしたいことの前にお父様が【黒の霧】のメンバーとして立ちはだかってこようとも、それは変わらなかった。目的のために全てを切り捨てるべきなのかもしれない。ニコラスを助けるために彼以外を切り捨てる覚悟は持つべきなのかもしれないけれど。どうしたってわたしは『父親』として愛を注いでくれるあの人のことを、思想の違いだけで切って捨てる真似はしたくなかった。だからわたしが入ることができるギルドは【白の黄昏】一択なのである。

 そもそも序盤の平和なパートはあまり物語に深く関わって下手な流れを変えるような真似もしたくないし、諸々を考慮てもこの方が都合がいいことに違いはなかった。




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