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悪役令嬢はダークヒーローを救いたい  作者: 橘田ぽんず
第1章 転生しまして、ごきげんよう
4/18

4 恋をしましたわ




   ◯◯◯




『ロベルトの剣』の世界において、魔法は個々人の魔力の属性に応じて使用できる種類が変わる属性魔法と、魔力の属性を問わずに使用することができる無属性魔法の二つが存在している。どちらの魔法であってもやることは基本的にやることは変わらない。術式を組んでそこに魔力を流す。それだけだ。

 口で説明するとシンプルなんだけど、これが結構面倒くさいのだ。魔法ってもっと感覚でできるものだと思っていたんだけど、実際に使ってみるとなかなか頭でっかちと言うか、頭を使わされるというか。炎の魔力を持っていたとしても、頭の中で炎が燃えるイメージを浮かべればそれが実現する、という単純な話ではないのだ。厄介なことに。

 魔法の発動には必ず術式の展開が必要になるんだけど、これが感覚としてはすごく数学に近い。問題文を適切に読み砕き、必要な公式を持ってきて、適切な処理を行なって解を出す。基本的にやってることはあんな感じ。

 もちろん数学と言ってもその都度、紙だの地面だのに術式を書いて展開するなんて手間は必要ない。術式自体は頭の中で組めば自然と空中に展開されていくものなのだが、必要な術式を思いうかべ、状況に応じて複数のものを組み合わせるというのはなかなか難易度が高いものだった。出力や発動させる方向性をいじるのにも、術式の組み方を逐一変えなくてはならず、それを頭の中で組んでいかなくちゃならない。魔導師っていうのは脳筋系かと思ったら、やってることはゴリゴリの理系だった。


 無属性魔法は魔力の質を問わずに誰でも使用できるものであるため、術式そのものがある程度確立されている。だから本に書いている通りに行えば発動させることができるのだが、属性魔法はそうもいかない。例えば同じように魔力の壁を張るにしたって、炎の魔力と氷の魔力を持つものが同じ術式を組んでも上手くいかないのだ。魔力の質は人それぞれ、個々人にあった術式の組み方をしなくては魔法は発現させられない。これは地力で数式を考えろって言っているようなものだ。正直、なかなか無理がある。

 魔術を地力で一から考えるのは難しい。だから本来ならば魔法というものは親から子へと受け継がれていく。基本的に子どもの魔力の属性は両親のどちらかと一緒になるため、それが可能となるんだ。

 うちのお父様の魔力は『氷』、そしてお母様は『水』だ。そしてサディアスは『氷』で、わたしが『水』。

 本来ならばお母様から水の魔法を習うことができればいいんだけど、残念ながら彼女は筋金入りの貴族のお嬢様だ。そのせいでわたしは属性魔法の習得ができずにいた、というわけだ。

 もっとも、うちのような貴族の家であれば今回のように家庭教師を雇えば事足りるんだけど。世の中結局金だなとか思ってないから。




「魔法を扱う上で最も大切なことは何か、分かるかね?」


 家庭教師をお願いするようになった初日に、ニコラスからそう問いかけられた。


「えっと、魔力の高さでしょうか」

「魔力の高さは確かにスタミナに直結する。魔導師同士の先頭になった時、スタミナの優劣は確かに事を左右することになりかねない。だが、それも術式の組み方一つでどうとてもなってしまうため必ずしもそうとは限らない」


 ではなんだろうか。見当もつかず、うーんと首を傾げていると彼は静かに教えてくれた。


「冷静でいることだ。焦りは魔導師にとって天敵。焦りは視野を狭くさせ、思考を鈍らせる」

「思考を……」

「どれだけ追い詰められた状況下であっても、追い詰められた時にこそ心にゆとりを持て。それが最も魔導師にとって必要な資質だ」

「それって結構難しいことですよね」

「場数を踏むのも一つの手だ」

「なるほど……」


 それでも、やっぱり難しいことを言われているような気がする。現代人のチキンハートを鍛えることから始めないといけないのかもしれない。


「それにしても驚きましたな。この年で主要な無属性魔法をあらかた習得しているとは……」


 顎に手を当ててニコラスがこちらを見下ろして来る。褒められたことが嬉しくて思わず口角が持ち上がってしまった。


「えへっ」

「あまり調子に乗られても困りますぞ」

「あう」


 釘を刺されてしまった。素っ気なさも素敵です。


「ありがとうございます。でもやっぱりどうしても属性魔法になるとつまづいてしまって。とりあえず水は出せるようになったのですがそれ以上はどうにも。コントロールがきかなく」

「まあ、独学で属性魔法を身につけようとしてたらそんなものだろうな。中でも水の魔法のような不定形の属性は扱いが難しい」

「そうなんですか。では、そんな水の魔法を医術に活用させることができる先生は、本当に凄腕の魔導師なのですね」


 ニコラスは水の属性を持つ魔導師だが、原作の中ではテンプレートな水の魔導師としては出てこない。魔導医師である彼の真骨頂は緻密な水の魔法による医療魔術だ。人間の体の多くを占める水分をニコラスは自在に操ることができるのだ。


「……それも、例の夢かね」

「あ……」


 興奮してまた口を滑らせてしまった。笑って誤魔化しても、鼻で笑われてしまう。


「魔術は一日にしてならず。基本的なところから習得していくとしよう。思うがままの出力で、方向で、自在に水を出せるようになったら、そこから如何様にも発展させられる」

「はい」

「では……ひとまず現状の実力を確認したいので、自由に水を出してみろ」

「はい、先生」



 原作でのニコラスは優秀な医師としての『先生』だったけど、教師の『先生』としても優秀だった。週二回、彼にレッスンをしてもらうようになってからというものの、わたしの魔法の技術はメキメキと上達していった。


「集中力を切らすな!!」

「でも先生……ッ!」

「言い訳は不要!」

「は、はい!!」


 ……まあ、かなりのスパルタ鬼教師ではあったんだけど。一瞬、あれだけ好きだったはずのニコラス相手に嫌気がさしそうになった。


 ニコラスが屋敷に来れない日には彼から習ったことの復習と、新しい技の開発に勤しんだ。もちろん、お父様との約束通りお茶会への参加も忘れずに。

 様々なシチュエーションで自在に魔法を操るために、そして戦いの中でしっかりと魔法を使った攻撃が出来るようになるために、技として自分の魔法の形を確立していくことが今のわたしの課題だった。


「在り来りなことにはなるが、技を考えるのならイメージをしっかり持つことだ」

「イメージですか」

「己が何を望むのか。どうありたいのか。魔法は自由だ。術式の組み方次第でどんな形にもなる。マリア、君は何を望む。なんのために魔法を習得する」

「わたしが、何を望むのか……」


 そんなの決まってる。ひとつしかない。わたしの望みは『原作改変』。

 そして貴方が笑って生きていられる未来。

 貴方が笑っていられる未来が欲しい。満足気な顔をして死を受け入れるなんてことしてほしくない。これはわたしのエゴでしかないけど、あれしか道がなかったなんて言わせないために。そのためにわたしは魔導師になる。


「先生」

「なんだね」

「わたしは、未来を守れる魔導師になりたいです。そのための魔法を習得したいんです」

「……そうかね」


 ギルドに入ってこれから先、来るべき戦いに身を投じるのだ。ニコラスからは色んなことを教えてもらった。魔法の使い方はもちろん、彼の十八番である水の魔術を応用した治癒魔法も伝授してもらうことができた。


「いいんですか? わたしにこれ、教えてしまって」

「別に隠しているようなものでもない。それに、守れる魔導師になりたいんだろう?」

「……はいっ!」


 初めて出会った時はまだ九つだったわたしも、ニコラスと同じ時間を共有していくうちに次第に背が伸びていった。顔立ちは有難いことにどんどんお父様に似ていって。顔面偏差値の高さは折り紙付きだけど、ほくそ笑んだ時の表情なんかは完全に悪役のそれである。まあ、お父様がそもそもヴィランサイドの人間だから仕方がないんでしょうけど。


 次第に近づいていく目線がこそばゆくて、嬉しくて。


「おはようございます先生。今日は何をやりましょうか?」

「では、実戦形式の組手と参りましょうか。剣を持って」

「先生は?」

「君の相手など、まだまだ素手で十分」

「怪我をしても知りませんよ。まあ、その時はちゃんと責任持ってあたしが治してあげますけど」


 長い時間を共有していくうちに、あたしの中で『ニコラス・ウェインライト』は漫画の中の登場人物ではなくなっていった。もちろん初めは最推しキャラだからって目で追っていた。漫画やアニメの『ロベルトの剣』があったからこそ、ニコラスのことを好きになった。


 だけどふとした時に触れた掌のあったかさを知ってしまったら。

 貴方の香りを覚えてしまったら。

 ニキビのあととか、毛先の枝毛なんかを見つけてしまったら。

 ニコラスのことをただの漫画のキャラクターだって目では見れなくなってしまったんだ。


「ぐぁッ」

「おやおや、ミス・ロージィ。この私に手当をしてくださるのではなかったですかな? まずは怪我を負わせないことには、手当ができませんが」


 そうやって不敵に笑う姿は、原作じゃ見られなかった。

 ギルドの人間として魔導医師であるニコラスと接してきたロベルトたちは知らない。彼の弟子であるわたしだけが知っている表情。漫画の読者でいるだけじゃ、絶対に知ることができなかった表情。


「く……ッ、その笑顔、すぐに崩してさしあげますわ!」

「面白い。やってみろ」


 何度地面に転がされて泥だらけになったとしても、それでも剣を握り向かっていけば彼は嬉しそうに笑うのだ。

 最初に出会った貴方は紙の中の人だった。そこで貴方の生き様だったり決意だったり。そういうものを知って愛おしく思った。

 だけどこの世界に生まれ落ちて、同じ時間を共有することができた。

 読者として一番遠い世界からあなたのことをながめているだけだったあの頃とは一変して。


 わたしはこの世界で、『先生』に、人生でいちばん最初の恋をした。




ここから先は基本土曜日夕方五時の週1確定更新、余力があったら他のタイミングでも更新ってことにしたいと思います。

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