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悪役令嬢はダークヒーローを救いたい  作者: 橘田ぽんず
第二章 魔導師ギルド【白の黄昏】
15/18

15 初仕事ですわ




 魔導師ギルド【白の黄昏 (ホワイト・ダスク)】は、歴史のある魔導師ギルドだ。

 創立は今から百五十年前。三代賢者の一人であった『緑の賢者』ジルコニアの弟子だったというシアン・グリーンダレスによって設立されるた【白の黄昏】は、魔法族という存在に重きを置いて、魔法族の血に誇りを持ち、その血を尊ぶという思考を持った魔術師が集まるギルドである。そのため、魔法族の血を重んじている魔法貴族が集まりやすいギルドとして名を馳せていた。

 『白き光が如く気高くあれ』がギルドのモットー。そしてのその教訓の通り、気高く誇り高い魔導師が多い。まあ、良く言えばってことで、悪く言えばプライドが高くて偏屈な魔導師の集まりとも言えるんだけれど。

 それでも、二大ギルドの一角を担っているだけあって実力の高さは折り紙付きだ。質の高い魔導師が多く集まっていることもあって難しい仕事もたくさん舞い込んでくる。レベルの高いギルドだ。

 そこでやっていくからには、当然ながら魔導師にだって高いレベルが求められる。

 ああ、やってやる。

 やってやるわ。わたしの目標はあのギルドでやっていくなんてことじゃないんだから。もっともっと大事な目的のために、最大限に利用させてもらうわ、【白の黄昏】。




「おはようございます、マリアお嬢様」


聞きなれた声がゆっくりと微睡んでいた意識を浮上させていく。窓の外に広がる青い空。真新しい寝台に真新しいシーツは少しだけ違和感があったけれど、いつのまにかぐっすりと眠ることができたみたいだ。


「ふぁ……っ、おはようセキ」

「おはようございます。朝食のご用意が出来ております」

「ありがとう。……あら、いい匂い。エッグベネディクトかしら?」

「はい。アーリーモーニングティーには何をご用意しましょうか」

「そうね、ホットのダージリンをお願い」

「かしこまりました」


実家を出て、ハウスメイドのセキがいるとは言っても名目上の一人暮らしをすることになり、エメラレルダのマンションで迎える初めての朝。いつものように起こしに来るセキを見ていると、ここがロージィ家の屋敷じゃないことを忘れそうになってしまう。髪を梳いてもらい、着替えを済ませてからリビングへと向かった。今日は仕事を受けるということもあっていつものドレスではなくパンツスタイルを選んだ。カーキのパンツは淡い色の髪によく映える。


……それにしても、間取り図で見ていたとは言ってもとんでもない広さの部屋ね。


リビングに寝室までは良いとして、そこにわたしの書斎とセキの部屋のついた3LDK。一体エルマーパパはこの部屋に何人家族を住まわせるつもりなんだとツッコミを入れたくなったけれど、彼にとってこれが最小限の『娘の一人暮らしの部屋』なのだろう。実家にあるわたしの部屋も、前世一人暮らし時代の部屋の総面積の数倍は広かった。部屋には、ニコラスに付き合ってもらって買い込んだ家具などが既に用意されていたけれど、まだまだ物を置く余裕はありそうだ。むしろあまり物が少ないと部屋ががらんとして見えてしまってもの悲しい。


「お嬢様、今日のご予定は?」

「早速だけれどギルドに行って仕事を受けてみるつもりよ。初めてだから日帰りで出来る仕事があればいいんだけど……無理そうなら数日ここを開けることになるわ。その間はここを任せることになるから、お願いね」

「承知致しました。ご無事にお戻りになるまで、このセキがマリア様のお家をお守りいたします」

「ふふ、ありがとう。セキが家にいてくれるのなら心強いわ」


住み始めたばかりの部屋を空けてしまうのも何だかもったいない気がしてくる。というかギルドの魔導師なんて日をまたいで仕事をすることだって多いのだから、それこそ寝る部屋さえあれば良かったのではないかと思うのだけれど……。エルマーパパがそんなこと許すわけがないだろう。


「いただきます。……んんっ、おいしい」

「ありがとうございます」

「セキの料理はおいしいわね。料理長の料理はもちろん美味しかったけど、セキも料理上手なのね」

「もったいないお言葉です。マリアお嬢様」


セキお手製のエッグベネディクトに舌鼓を打ったあとで、ゆっくりと紅茶の時間を楽しんでから、時計の針が九時を過ぎる頃に家を出た。


今日は快晴だ。空が澄んでいて夏の風が心地いい。マンションからギルドまでは歩いて十五分ほど。朝の散歩がてらギルドまで歩いていくにはちょうどいい距離だ。ギルドに到着すると、既に到着していた魔導師たちに会釈をしながら、まっすぐにクエストボードへと向かった。

 さて、今のわたしに丁度いい仕事は来ているだろうか。


「うーん……」


それにしても……流石は国が誇る二大ギルドの一柱ね。相場は知らないけれど、クエストボードに並んだ仕事の平均価格はかなり高額であるように感じられた。

さぁ、どうしようかしら。魔物の退治、闇ギルドの討伐。セキには初めは日帰り出来る仕事があればなんて言ったけれど、この調子じゃそれは厳しそうだ。ううん、出来ればビギナー向けのクエストから難易度を上げていきたかった気持ちはあるんだけど……。うう……ううん……。


「……まあ、良いわ」


無いなら無いで、腹を括るしかない。


「どうせ通る道ならいつ通っても同じだもの」


では意を決して。初めてのクエストはこの『魔獣カルバン退治』と行きましょうか。

いざ……ッ!!


意気揚々と依頼書に手を掛けた、その時のこと。


……がちゃり。


「“おう、ちょうど良い所に。ちょうど良いのがいるじゃねぇか”」

「……お、はようございます。アナスタシアさん」


カウンター脇の扉から奥へと続く来客室から、アナスタシアさんが顔を覗かせてきた。


「“おう、オッサン。昨日入った姉ちゃんが来てんぜ”」

「あらマリアちゃんが? 本当にちょうど良かったわ」


 アナスタシアさんに続いて、マスターも奥の扉から顔を覗かせる。


「おはようございますマスター・セレナ」

「おはようマリアちゃん。その様子じゃあ、お仕事を探しに来たのかしら?」

「はい。それで、この……」

「良いから良いから。ちょっとこっちへいらっしゃい」

「……?」


……おっと、どうやらこれはわたしに拒否権はなさそうだ。


マスター・セレナに招かれて、奥の来客室へと足を踏み入れる。仕事の依頼に来た来客等に対応する部屋だ。部屋に入ると一人の少女が奥のソファに腰掛けていている姿が目に入った。栗色の髪に、頬を彩るそばかすがなんとも愛らしい少女である。

 彼女が着ているものは、貴族の女性が着るドレスのような優雅さよりも動きやすさが優先されたものに見えるが、身なりはキチンと整えられているような印象を受けた。細かな傷がついた靴からは長旅の香りがするけれど、泥などは綺麗に拭われて手入れがされている。冒険者というには貧弱そうで、町娘と言うにはたくましい。平民というには身綺麗で、貴族というには服が安すぎる。


「もしかして……商人さんかしら」

「えっ、よく分かりましたね」

「服装から何となく、そんな気がして」


商人であるその少女はポラリス・ローレンと名乗った。

 彼女はこの街に仕事で買い付けをするためにエメラルダまでやって来たのだという。しかしここに来るその道中で賊に襲われる被害を受けたのだそうだ。行きは積荷もなかったため、空の荷台を切り捨てて命からがらここまで来ることが出来たのだそうが、次に襲われたら一溜りもないとギルドに依頼をしてきたそうだ。


「という訳でマリアちゃん。アナタの初仕事よ」

「クエストボードの前にいたことが選定理由でしょうか?」

「それもあるけれど、ひとつはこのクエストの難易度よ。彼女を襲った賊は魔法族ではなくセリアン」


つまりこの仕事の難易度は、対魔法族のものと比べれば比較的低いと言える。


「そしてもうひとつが彼女の村までの立地」


ポラリスが暮らしているのは川沿いを真っ直ぐに進んでいった所にあるアズタージャという街だそうだ。川沿いということは、水の魔導師であるマリアにとっては自身が発生させることが出来る水以外に、自然の水さえも利用することが出来る好立地。さらにアズタージャはここから片道、馬車で半日ほどのところにある。夜までには向こうに着くことができるし、帰りは魔法石ですぐにここまで帰ってこれる。

 これからいざ魔物対峙と腹を括って意気込んでいたところで、出鼻を挫かれたような気がしなくはないが、当初の予定通り日帰りで仕事ができるのならばありがたい。


「そして最大のポイント。依頼者の希望は、同行するには女性の魔導師が良いとのことよ」

「なるほど。納得が行きましたわ。この依頼、お受けいたします」


それなら女性の多いギルドに依頼に行けばよかったのではと思わなくもないが、依頼者はセリアンだ。魔導師についても指して詳しくはないのだろう。【白の黄昏 (ホワイト・ダスク)】は貴族が多いというその特性上、女性の魔導師が少数派なのだけれど、そんな魔法族の内輪の事情などセリアンが知るはずもない。


「改めまして、ポラリス・ローレン。無事に貴方が街に帰るまで、このマリア・ロージィが護衛の任を全うしてみせましょう」

「よろしくお願いします。マリアさん」

「決まったわね。じゃあマリア、早速契約よ」


 依頼書は既に作成されているため、そこにわたしがサインを入れれば契約の締結が完了だ。彼女を無事に町まで送り届ければ、それで契約は完了となり、ギルドのわたしの口座へ自動的に依頼金が振り込まれることになっている。

 道中に必要な食事などを買い足して、そのまますぐにポラリスの所有する馬車に乗り込む。早速クエスト開始だ。盗賊が出たというポイントまではそれなりに距離があるため、しばらくは何も考えずに荷馬車に揺られていられるだろう。


「そう言えばマリアさんはおいくつなんですか」

「この間十五になったばかりです」

「そうだったんですね! マリアさんすごく大人っぽいからもっと上なのかと思ってました」


 確かに中身はずっと年上ですけれどね。


「と言うことは、ギルドに入ったのも最近ですか?」

「ええ。お恥ずかしながら昨日登録を終えたばかりです。ああ、でもご心配なさらないでくださいね。実戦経験はありますから盗賊くらいに遅れを取るつもりはありません」

「それは頼もしい限りです」


 実戦経験なんて言ってもあの時は火消しと治療しかやってないけどね。一応ニコラスからギルドでやっていけるだけの実力はついているとゴーサインも出ているし、今日は魔導師が相手じゃないセリアンの盗賊相手だし、大丈夫だろう。


「ポラリスさんはおいくつなんですか?」

「十八ですよ。もう三年、商人をやっています」

「三年……すごいですわね。わたしには三年後の自分の姿など想像がつきませんわ」

 三年後か……原作が始まって一年ってことはちょうど『対抗戦編』あたりか、その前くらいになるのかな。あの作品の中で時間がどんな風に進んでいくのか分かんないけど、確か最終決戦が終わるまでに二年くらいかかってたはずだからそのくらいの気がする。

「……なんかマリアさん。すごくお上品な喋り方しますよね。所作も綺麗で、お嬢様って感じ」

「そうでしょうか。一応、貴族の出なのでそのせいかもしれません」


 本来のわたしなら所作が綺麗だとか喋り方が上品だなんて言われたこともない。これはこの十五年あの家で育って身についたものだろう。あの家は立ち姿にさえ、所作を求められるから。記憶が戻ったばかりの頃は堅苦しくて嫌になったこともあるけど、今となってはさほど意識しなくてもそれらしい立ち振る舞いが出来るようになっていた。


「き、貴族……! そんな大変なご無礼を……!」


 そう言ってポラリスさんは顔を青くさせる。


「そんなお気遣いは不要ですよ。貴族とは言っても所詮は、『魔法貴族』ですから」


 馬車に揺られるながらポラリスさんとは他愛ない話をしていた。彼女にも弟がいるらしく、同じ商業ギルドに所属をしているそうだ。彼女はその弟のことが心配でならないようで身内のことになると口ぶりは饒舌になっていた。彼女がセリアンだからだろうか。下手な色眼鏡を掛けられずに話をしてもらえることが新鮮で、仕事中であるのにもかかわらずとても楽しい時間を送ることができた。




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