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悪役令嬢はダークヒーローを救いたい  作者: 橘田ぽんず
第二章 魔導師ギルド【白の黄昏】
12/18

12 十五歳の誕生日ですわ




第二章 白の黄昏、入団




 ロージィの屋敷のあるシュリッシェンにも夏がやって来た。若葉の緑が青々と美しい。

 この国には四季があるのだけれど、日本の夏よりも湿気が少なくて過ごしやすい。行ったことないから想像でしかないけれど、地中海の夏とかがこんな感じなんじゃないだろうかと勝手に思っている。

 転生から、かれこれ十五年。本日はわたくしマリアのお誕生日。


「おめでとうございますマリア様」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます、マクベール夫人。プルート様。今日は是非楽しんでいってくださいませ」


 誕生日くらいは家族団欒……なんてことにはならないのは貴族の定め。この世界では十五歳が成人とされている。昼間は教会で成人の儀を受けさせられ、夜になればなったで我が家ではいつも以上に派手なパーティーが開催されていた。主催ということになっているわたしは永遠と終わりが見えてこない挨拶まわりの真っ最中。これがなかなか苦行なのだ。


 仮面のような笑顔を貼り付けて、腹の探り合いのような上っ面の会話だけを永遠と繰り返していく。ロージィの娘がギルドに入ることは社交界では既知の話題となっている。あの名家の娘が、と色眼鏡を向けてくる者は幾人といた。和やかな言葉の裏に隠された真意を読み取り、こちらもオブラートに包んだ言葉を投げ返す。これが単なる井戸端会議ならばどれだけ楽だったのか。だが実際にやっているのは腹の探り合いと皮肉の投げ合いばかりで、否が応でも精神的に疲弊させられてしまうため、この場に彼がいてくれたら言葉が交わせなくても目の保養になるのになと思わずにはいられなかった。

 でもあの人、わたしの家庭教師とは言っても貴族じゃないから社交の場には出てこないのよね……残念なことに。はあ、正装のニコラス拝みたい……。




「はぁ……」

「珍しくお疲れだね、姉さ……お姉さま」


人が一度捌けたタイミングを見計らいすかさずバルコニーへと逃げ込むと、すぐに聞き慣れた声が聞こえてきた。


「息付く暇もないんだもの。パーティーが始まってから今の今まで喋り通して……流石に参ってしまいそうだわ」

「お姉さまは涼しい顔してるから余計にね。そう思ってほら、取ってきたよ」

「ありがとうサディ。助かるわ」


気の利く弟が持ってきてくれた冷たいノンアルコールのスパークリングワインで喉を湿す。


「ほぅ……」


 この世界では飲酒に関する制約はひどく緩いのだが、社交の場にはこっそりとノンアルコールの飲み物も紛れ込んでいるのだ。アルコールが苦手なわけではないけれど、さすがにこの社交場で酔っ払うわけにはいかないのだ。


「今日までの二ヶ月、本当に長かったわ。人生の中で一番長かった二ヶ月だと言っても過言ではないわ。合計で一体何回、パーティーに出たのかしら」

「それはお姉さまが悪いと思うけど。ニコラスさんに抱えられて帰ってきた時、心臓が止まるかと思ったよ」

「あれは魔力を使いすぎただけ。服が焦げたいたから見目は悪かったけれど、怪我なんてしていなかったわ」

「良く言うよ。裸足で走り回って、足がボロボロになってたくせに」

「魔力が戻れば自力で回復出来ると判断してのことよ」

「……まったく。全然反省してないじゃないか」


怒らないでちょうだい。可愛いお顔が台無しだわ。

そう言うと彼は「十二にもなった弟に可愛いなんて言わないでくれ」と眉間のシワを深くする。あら可愛い。確かに、ここ最近彼の身長はグッと伸びた。まだ目線は同じくらいだけれど、わたしがギルドに入っている間に間違いなく追い抜かれてしまうのだろう。そう思うと嬉しい反面、ちょっとだけ寂しかった。同時に声変わりもしてしまうだろうから、今の声を聞くことができる時間もあと僅かしかない。


「……気を付けてね」

「心配してくれるの?」

「お姉さまは思慮深くてしっかりしてるけど、そのくせに結構無鉄砲だから」

「あらあら」


目線が変わらなくなっても、きっと背丈を追い抜かれても、サディアスはずっとわたしの可愛い弟のままなんだろう。


「ありがとうサディ。嬉しいわ」

「……ん」

「大丈夫よ。弟にそう心配はさせられないもの。わたし、立派な魔導師になるわ」

「立派うんぬん以前に無鉄砲なことはするなって話なんだけれどな」

「あらあら、うふふ」

「笑って誤魔化さない」

「うふふふふ」


愛しい弟と戯れていると、バルコニーに近付いてくる人の気配を感じた。すぐさまわたしもサディアスも仲睦まじい姉弟の顔から、貴族家の子どもとしての表情に変化する。貴族は、他人の前では貴族でなければいけないから窮屈だ。


「おや、まさかご兄弟揃ってこんなところにいらっしゃるとは」

「あら。見つかってしまいましたわ。本日はありがとうございます、エメレンス様」


わたしとサディアスの憩いの時間を邪魔した……ではなく。バルコニーやって来たのは、ドルニャーク家の長男のエメレンスだった。わたしよりも歳は四つ上で、現役の【白の黄昏 (ホワイト・ダスク)】所属の魔導師である。一応、彼は原作にも出て来ているんだけど、ほとんどモブみたいな扱いだったからイマイチどんなキャラなのか掴めていない。顔だけは『the 白の黄昏』って感じのいわゆる王子系だから、出番がない割に女性人気たあったことは覚えている。人気が出たためにアニメの方では出番が増えてたんだけど、この世界って原作準拠なのかアニメとかの要素も混ざっているのかイマイチ分かんないんだよね。ロベルトとの下を見ると原作の方だとは思うんだけど。

 エメレンスがどんなキャラだったのかハッキリしないけど、彼が今世のわたしにとって蔑ろには出来ない相手であることは確かだ。ドルニャーク家とロージィ家は家自体も昔から交流があるうえに、彼が【白の黄昏】に所属している以上、ギルドに入ってからも何かと顔を合わせる機会が多くなるだろうから。正直面倒くさい。基本的に、にこやかなわりにこの人結構、高圧的だし。なんていうかな、無言の威圧感?


「お邪魔でしたかな?」

「いいえ、とんでもありません」

「お姉さま、ボクは一度向こうに戻りますね」

「分かりましたわサディアス」

「失礼いたします、エメレンス様」

「今度機会があればゆっくりお話し願いたいよ。サディアス」

「はは、お手柔らかにお願いします」


 場の空気を読んでスッとバルコニーから出ていくサディアス。エメレンスもわたしが目当てだったのだろうから、特に彼を引き止めるようなこともしなかった。


「改めまして、十五歳のお誕生日おめでとうございます。マリア嬢」

「ありがとうございますわ、エメレンス様」

「聞けばマリア様は【白の黄昏】への入団を希望されているのだとか?」

「ええ。そうです。入団後にはご指導いただけたら嬉しいですわ」

「はは、私なんぞにそんな役は務まりませんよ」

「そんな謙遜なさらないでくださいな。エメレンス様のご活躍はかねがね噂でお聞きしていますわ」

「それにしても、驚きました。まさか本当にロージィ家の御令嬢がギルドに入られるとは」

「まあ、皆さま口を揃えてそうおっしゃりますが、何もギルドに入る貴族の娘がゼロであるわけではありませんでしょう」

「そうだけれどね。それは下級貴族のことがほとんどだろう。上流貴族には、それは必要ない」


 めッッッッッんどくせぇ……!

 あーあー……これだから嫌なんだよ、お貴族さま特有の思考回路って。嫌味ったらしい物言いも『マリア』になってからどうにか耐えられるようになったけど、本来は本来はこういうのは得意じゃないんだよね。


「エメレンス様、わたしは小さな世界の中で死んでいきたくはないだけですわ」


 それを常識だと思って生きて来ている彼にとっては少々酷なことかもしれないけれど。


「わたしが死ぬまでにしたことの全てが、それらが不要なものであったかを教えてくれるでしょう」

「……お噂通り、マリア様は聡明であられる」


 ……はいはい。女が何言ってんだって言いたいのね。わたしからしてみればあなたが何言ってんのって感じよ。

 それにしてもこうやって話してみると、この人の婚約者になる人は大変そうね。典型的な貴族思考っていうか、ある意味亭主関白っていうか。もう流行んないわよ。そういうの。


「そう言えば……今日はレオナルド様はいらしていないのですか?」


 正直なところエメレンスにはあまり良い印象はないのだけれど、彼の弟のレオナルドとはそれなりに仲が良かった。貴族の人間は子どもであっても基本的に腹の探り合いばかりをしている中で、同い年で頭もいい彼はわたしにとって数少ない貴族の友達と言える相手だった。とは言っても、こういう社交の場で顔を合わせる以上の接点はないのだけど。


「……弟に何か用ですか?」

「用というほどのことはありません。いらしているのでしたらご挨拶をと思っただけです。確かレオナルド様も少し前に【白の黄昏】に入団されていたはずだったで、一応、同期に当たりますから」

「なるほど、そういうことでしたか。弟でしたら、まだ中にいるはずです」

「そうですか。それでは後でご挨拶に参らねば……」


 言いかけると同時に、突然バルコニーの柵に体を押し付けられた。


「……ッ」

「マリア様……」


 え、何? 何? 敵襲?

 え、何。顔近くない?

 まだ十五だから毛穴はないけど、十五だからこその思春期性のニキビ見られるからあんまり近づかれたくないんだけど。


「私はあなたが欲しい。そう言ったらお困りですかな」

「えっと……」


 突然、吐息まじりにそう言われてしまい思考が固まった。ときめいたからではなく、突然の展開に動揺したせいで。

 おい、これは乙女ゲームじゃなくて少年漫画だぞ。何スチル発動させてんだ。キラキラのイケメンにこんなこと言われて本当は少しでもキュンとするべきなんだろうけど、ダメだ。ニコラスじゃないってだけで少しもときめかない。今の状態ってまさかの柵ドンか? 普通に危ないぞ。


「えっと、エメレンス様……?」

「なんて冗談です」


 ケロっと笑いながらエメレンスは手首を掴んでいた手を離してくれた。地味に力が強かったせいで手袋の内側が赤くなっていないか心配だ。


「それにしても意外ですね。まさかかのマリア様がこんなシチュエーションには不慣れだとは」

「ええっと……」


 あ、もしかしてわたし照れて固まったって思われてる? 勘違いされてる?

 ちがうよ、申し訳ないけどドキドキしてないよ。普通にちょっと引いちゃっただけだよ。正直ね転生してからはこの容姿だから口説かれることはそこそこあるんだけど、まさか柵ドンしてくるとは思わないんだな。


「……それでは私はこれにて失礼いたします。ギルドでお会いしましょう」

「ごきげんよう……」


 まじでなんだったんだ、今の。

 また変なのに来られてもどうしようもないからと、わたしもエメレンスが出て行ってから少し時間をおいてからホールの中へと戻っていった。

 結局主役が簡単に解放されるはずもなく、十五歳の誕生日の次の日は夕方迄惰眠を貪って一日を潰すことになったのだった。




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