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第2話

完結編です

最後まで楽しんでいってください!

言葉のマジシャンである森川が仲裁し、何とか事態は収まった。

渡はこのときほど、森川の存在に感謝した事は無かった。

ともあれ、時間も結構たってきて三人とも空腹を感じてきた。

切も良いので、昼食にしようと三人は取り敢えず竿を片した。


「はい。これでちゃんと手を拭いてからね」

「サンキュ」

「ありがとう」

古川はアルコールティッシュを渡して、自分も拭いてから弁当を取り出した。


そこには、色とりどりのおかずがところ狭しと収められていた。

唐揚げや、卵焼きという定番から、ポテトサラダや、切り干し大根等の副菜も充実している。


これには、渡も驚きの声を上げた。

「すっげえー!これ、ほんとにお前が作ったのか?」

「そーよ、だからありがたく食べなさいよね」

「本当に凄いよ古川さん!美味しそうだ」

「ご飯はおにぎりと、お味噌汁も水筒に持ってきたから好きなだけ食べてね」

渡は目の色を変えていの一番に、箸を伸ばしガツガツ食べ始める。

古川は紙コップに味噌汁を入れながら横目でその様子を観察していた。

やがて、しびれを切らしたように切り出した。


「で、どうなのよ?」

「うああくちゃ、ちうめぇんぞくちゃ」

「全部食ってから、話せ!」

「ん、ごく。いや、まじで旨いぞ!この卵焼きメチャウマ!俺甘い卵焼き苦手なんだけど、これはめっちゃ好きだ。母ちゃんよりうめえぞ!」

「そ、そう?良かったわね。ほら、慌てて食べなくてもまだあるから。はい、お味噌汁」

「お、わりいサンキュー」

「はい、森川君も」

「ありがとう」

森川はいつもの彼女の弁当箱の中身とはだいぶ違うメニュー構成につい破顔した。

(きっと、渡の好みに合わせたんだろうな。まったく素直じゃないんだから)


✱✱✱


食事も終わり、雑魚6匹と小サメ1匹を釣った一行はこの後どうするかを話し合った。


せっかくだし夕方まで、釣りしようぜ。まだ、ちゃんとしたサメ取れてないしよと、渡が言ったので三人は再び糸を垂らした。

途中で、また渡がからかい、古川が怒り、森川がなだめるスパイラルが発生したがこの三人のお家芸のようなものなので最後には笑いあっていた。


楽しい時間はたちまち過ぎ去り、夕焼けの真っ赤な光が吹き抜けの隙間から差し込んできた。

いる。

「そろそろ、帰ろうか?」

「そうね、家につく頃には夜になっちゃうし」

「…しょうがねぇか」

結局サメは釣れず、残念そうにうなだれる渡。

しかし、釣果としては十分だったのでクーラーボックスはずっしりとしていた。

三人は協力して、荷物を片付け一番重いクーラーボックスは男二人で運んだ。

後ろからは、古川が懐中電灯で足元を照りしてくれている。


「気をつけてよ。くだりになってるから」

ああ、と慎重に来た道を戻る。

心なしか来た時よりも薄暗く感じたが問題にはならなかった。

そろそろ、中間地点に差し掛かろうという時、三人は信じられないものを目撃した。

「なんだよこれ?」

「これは…」

目の前には暗黒の海水が広がっでいた。

ざぱん、ざぱんと通路いっぱいに浸水していたのだ。

あまりの光景に心臓を掴まれたように、身動きが取れなくなってしまう。

古川の照らすライトも小刻みに揺れている。


「どうやって帰ればいいの?」

「泳いで行けばいいんじゃねえか?ぎりぎりいけるだろう」

「それは、やめたほうがいいな」

森川は、すっと指を指した。

そこには、古川が釣り上げたものとは比較にならない程大きなサメが音もなく回遊していたのだ。


「嫌!私絶対に無理だよ!!」

古川は渡の手を掴みながら懇願する。

それは、この場全員の総意だった…


✱✱✱


ひとまず、三人はもとの道を戻り作戦会議をすることになった。


「森川。どうすれば、いいと思う?別の道を探すか?」

「ここまで、一本道だったし難しいと思う」

「ねぇ、ここで待ってれば明日には潮が引くんじゃないかな?」

「無理だ。天井に海藻が引っかかってるだろ?少なくとも、あそこまでは海水が入る」

「そんな、どうしてこんなことに」

「ここの道は、途中大きく下っていた。満潮で洞窟の横穴から海水が入ってきたんだろう」


絶望感がその場を支配していた。

遠くからゆっくりとだが確実にあのざぱん、ざぱんという音が静かに忍び寄ってくるのが分かる。

三人にとっては冗談ではなく死神の笑い声に聞こえた。


うなだれていると、渡が絞り出すように話しだした。


「森川……古川。…ごめん……ごめん」

二人は静かに彼を見つめた。こんな事を渡が言ったのは初めてだった。

「…俺は、冒険をしたかっただけなんだ。こんなことになるなんて思わなかったんだ…森川頼む!何かあるだろ!俺はいいけど、お前らが助かる方法ならよ!お前なら、出来るだろ。頼むよ!!」

本心だった。渡は怖いのだ。

死ぬことじゃない。

死なせることだ。

自分のわがままで連れてきた二人を、殺すことだ。


ずっと、一緒だと思ってたんだ。ずっと一緒だと思ってたから、馬鹿できたんだ。それが、二人を失う現実がすぐそこまで来ている。


渡は酷く怯えていた。例えようの無い喪失の恐怖に自分でも、信じられない程に。


だが、彼は重要なことを忘れていた。

目の前にいる二人は幼馴染で、腐れ縁なのだということを。

渡るの気持ちなど痛いくらいに分かるのだ。


「ないよ。そんな方法なんて」

渡が絶望しかけたそのとき

「三人で出るんだからさ。まあ、死ぬときは一緒ってことで」

「…え?あっ痛ってぇ!」

古川が思いっきり背中を叩いた。

「おいいきなり、なにすんだよ?」

「あんたが、らしくないこと言うからでしょうが!しっかりしなさいよ」

渡は二人と目が合うと、二人共同じ事を考えてる気がした。

”この三人ならきっと大丈夫”と


そうだった。まだ、誰も失っちゃいなかった。

面倒見が良くてしっかり者の古川に、何でも解決してくれる森川。そして、俺がいるじゃないか。まだ、やれることはある。


渡の目に光が戻った。二人は、やれやれと笑っている。


「渡どうする?」

渡は周りを見渡して、ふと気づいた。

溜池の水が増えていることを。

もしかしたら…


「森川、スマホで調べてくれないか?多分この池外と繋がってる」

「そうか、そういうことか。任せて」

「え、どういうことなの?」

「水が増えてるだろ?ここと、海は繋がってるかもしれない。場所的には、外とかなり近いはずなんだ」

「結局泳いでいくのぉぅ?」

涙目になる古川だが、やがて口を尖らせて渡に突っかかる。

「何かあったらなんとかしなさいよね!」

「ああ、任せろよ」

良し、と古川は準備体操を始める。

森川は検索結果を表示した。


そこには、見取り図の画像があり確かに外と繋がってるようだった。

しかも、経路としてはかなり近い。


「良し!クーラーボックスは邪魔になるからおいていくとして、必要なものと暗いからライトは忘れずに持っていけよ」


三人は準備を整え、溜池の前に向き直る。背後ではすぐ足元まで海水が押し寄せていた。後戻りは出来なかった。


「行くぞ!」

「ああ!」

「うん!」


✱✱✱


ざぷん。


勢いよく飛び込むと真っ暗闇だった。ライトの先にも何も映らないほどだ。

幸運にも、全員泳げるようで一安心だ。

ちょっとして森川が早速何かを見つけたらしく、ライトを振っていた。

その先を見てみると、かすかに光が漏れ出ていた。

順番的には森川、古川俺の順でその光源に向かって泳いでいく。


本当に何もないんだな。真っ暗闇だ。

これは、サメなんか釣れないよな。

と、考えていると視界の端で何かが動いているのを感じた。それは、どうやら真下であるらしかった。

三人共異変を感じたようで、一斉に真下へライトを向けると、そこには数え切れない程の大量のサメがひしめいていた。


流石に驚き、古川はパニックになってしまった。渡は直ぐに古川を抑え落ち着ける。


(大丈夫だ古川!こいつらは、みんな眠ってる!)

首ごと掴みしっかりと目を合わせながらアイコンタクトで、伝える。


ようやく、落ち着きを取り戻しぎこちなく光源へ泳ぎだした。

魚類は目をあけたまま眠るらしいが、とても不気味だった。

ライトがサメの目にあたると、ギラリと鋭い光を反射し、今にも襲いかかってきそうなのだ。


しかし、何事もなく光源のすぐ近くまで到達出来た。

そこは、子供一人分が通れる程の横穴だった。ここを抜ければすぐ上は防波堤だ。


先に着いた森川は、岩を避けながら何とか横穴を抜けた。

少し遅れてようやく二人も辿り着きそうだった。

しかし、森川は二人の後ろで怪しい動きをしている姿を目撃した。

それは、緩慢ではあるが身じろぎをして口を開け閉めしている。

(まさか?)

そうだ。二人の近くを漂っていた一匹のサメが運悪く目覚めたのだ。

森川は慌てて二人に早く来るようにジェスチャーをした。

(ん、森川のやつあんなに慌ててどうしたんだ?…後ろがどうかしたのか?)


渡と古川は恐る恐る振り向くと、巨大なサメがこっちをじっと見ていることに気がついた。

ヤバイ!

ヤバイ!

ヤバイ!

二人は、一心不乱に泳いだ。あと少し、あと少しだ。


すると、背後で声が聞こえた気がした。

渡の背後には、古川しかいない。

泣きそうになりながら、振り向くと古川は生きていた。

ホッとするが、しかし様子がおかしかった。

怯えた顔で止まっている。

なんで?

ふと、古川の肩口を見ると古川のバックが岩に引っかかり抜けなくなっているようだった。

渡は古川を引っ張ったり、カバンを取ろうとするが水中で思うようにいかない。


様子を伺っていたサメも明確な意思をもって近づいてくる。


もうだめだと、思ったとき急に渡の胸が押された。

古川が押したのだ。顔は見せたくないのだろう。下を向いて、口がかすかに動いていた。

(行って)


言われた気がした。

そうすれば、確実に助かる。

でも、そうすれば確実に古川が死ぬ。


俺は、何しにこんなところまで来たんだ。

遊びに来たのか?

古川の弁当を食べに来たのか?

小魚を釣りに来たのか?

違うだろ。冒険しに来たんだろ。俺は勇者だ仲間が死にそうなときにしっぽを巻かないから、お姫様を救うから、悪い奴を倒すから勇者なんだろ。


俺は勇者になりに来たんだから!


渡は急いで自分のバックに手を入れ、海水でクタクタになった新聞紙を取り出した。

そして、古川に近づき新聞紙の中身を取り出した。

そう、勇者に武器は必要不可欠なのだ。

ギラリとした包丁を古川を傷つけないように慎重にバックの肩を切り離した。


しかし、サメは手前まで近づいていた。

渡は古川を出口に逃し、懸命に包丁で応戦するがサメ肌がちっぽけな刃等通さない。

ついに、包丁も取りこぼし渡は死を意識し目を閉じる。

(もうだめだ)


…………ん?


いつまでも、衝撃は訪れない。もしかして、俺死んじまったのか。目をゆっくりと開くとそこに答えがあった。


森川が戻ってきて、ライトでサメの目玉を打ち付けたのだ。


サメは身じろぎ、暴れだした。そろそろ、周りのサメも起き出すだろう。


渡の腕を古川が掴み、引っ張る。

しっかりしなさいよ!と言われた気がした。


✱✱✱



命からがら、三人は浮上した。

月明かりが、淡く照らす突堤が見える。

急いで陸に転がり込み、息を落ち着かせた。


こんなに、空気が美味しいと思ったのは生まれて初めてだった。

こんなにホッとしたのも初めてだった。

生き残ったのだ…皆で。

しばらくすると、誰かの笑い声が聞こえた。そして気付けばそれは三人の大笑いだった。


「こりゃあ、帰ったら大目玉だな」

「僕らもずいぶん不良になったね」

「渡に無理やり付き合わされたって言えば怒られないかも笑」

「それ、お前の分まで俺が怒られるじゃねえかよ!」

やいのやいのと、いつもの調子を取り戻した様子に森川も一安心してまとめに入る。

「まあ、心配かけたくないし。洞窟のことは黙っていた方がいいね」

「そうだな。古川の親父にぶん殴られそうだしな」

「三人で海で遊んでたら遅くなったって事にしましょ」

「良し!そうと決まれば、帰ろうか」


三人は、確かな足取りで帰路についた。


別れ際


「今日はありがとう。カッコ良かったよ…じゃあね」

何も言わせないように、古川は足早に去っていった。

渡は、得体のしれない感情が自分の中に生まれた気がした。

その正体は分からなかったが、悪い気はしなかった。


そして、三人は勢いよくドアを開けた。


「ただいま!」

「ただいま!」

「ただいま!」



余談


後日、渡のバックから抜き身の包丁が母に発見され母から真剣な顔で

「あんた、これどうするつもりなの?」

と聞かれ、渡は正直に話した。


結果、渡は古川のお父さんと渡の両親から計3発殴られ、森川も古川も両親からめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない……


最後までお読み頂きありがとうございます!

今後のモチベーションになりますので、ご感想をお気軽にお書きください!

お待ちしております!

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