第1話
今後のモチベーションとなりますので、是非ご感想を聞かせて下さい!
よろしくお願いしまっす!
最近巷の小学校では、ある都市伝説の話でもちきりになっていた。
クラスの男子学生が帰宅途中に海岸沿いを歩いていると、一匹のサメが満潮で入れるようになった洞窟に入って行く所を目撃したらしい。
その洞窟は、午前から夕方にかけては人が入れるようになっておりその奥には、海と繫がっている溜池のような場所があるらしい
「きっと、そこで糸を垂らせばでっけーサメが釣れるぜ」
と、渡は昨日目撃した本人に聞いた。
渡もやっぱり基本的な小学生の要素を持ち合わせていて…
ゲーム好き、下ネタ大好きの、少し危ない冒険に胸を高鳴らせる普通の男の子だった。
しかし、いくら冒険が好きと言っても多少の恐ろしさはあったし、一人で行くのは寂しかった。
そこで、学校の昼休みに友達を誘ってみようと決意した。
どう誘うかを真剣に考えていたら、何度か先生に注意を受けたが、いつも通りの光景であった。
そこでチャイムが鳴り響いた。
✱✱✱
「なんだよ、渡話って?」
「まあ、座れよ。面白い話をしてやるから」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に渡は親友である森川を屋上に呼び出し、弁当を囲みながら重大な秘密を打ち明けるように森川に事情を説明した。
「でよ、その洞窟にはサメがうじゃうじゃいるらしんだよ。フカヒレ取り放題だぜ。こないだ、お婆ちゃんの実家から届いたフカヒレスープがめちゃくちゃ美味くってさぁ」
「なるほど、面白そうだね。だけど大丈夫なのかい?サメってとても大きいんだろ?危ないと思うんだけど」
「大丈夫だろ!小林の話だと、1メートルくらいのサイズだってよ。なあ、一緒に行かねえか?二人がかりなら余裕だろ?」
森川は身を乗り出して目を輝かせる友人の誘いを、とうとう断れず一緒に行く約束をした。
「分かったよ、じゃあ今週の土曜日な。竿は渡が持ってくるのか?」
「ああ、親父のやつを借りてくるわ。よっし!土曜日が楽しみだな!」
「土曜日がなんですって?」
「おい、今言ったばっかじゃんか。だから、洞窟に…え?」
見ると森川は目を覆って首を振っていた。
そして、その隣には笑顔と書いて阿修羅と読むがごとく、怒髪天一歩手前の女子生徒が仁王立ちしていた。
彼女は古川、クラス委員長であり他の二人とは幼馴染だ。
いつも、渡が無茶をしでかした後の尻拭いをさせられている。
(また、やってるよ…本当にいつもいつも)
森川は、そっと聞こえない程度に呟いた
クラスの子達は古川さんが可哀想だと、渡に非難の目を向けるけど、なんだかんだいって面倒見がいいんだよな。
二人の喧騒をそっと巻き込まれない位置に移動してから、考察していると話しの火蓋は切って落とされたようだった。
「どうせまた、くだらないことしようとしてるんでしょう?あんたのことだから、分かる!白状しなさい!」
「い、いや何もねえし。気のせいだし、今から俺たちアー○ナイツしようとしてるだけだって。なあ?森川」
無二の親友はそっと目をそらした。
(おのれ、森川!)
「あのね、昨日からそわそわしてるあんたを見てたら誰だって分かるわよ。ごまかすな!」
「げ!」
するどいな、こいつ。
「あの洞窟は一般の人立ち入り禁止なんだから、何かあったら止めなかった私も謎に怒られるのよ。だから、絶対だめ」
「母親みたいな事言いやがって、そんな怒ってばっかいるとしわになるわよ。ふ・る・か・わちゃん笑」
「ころす笑(鬼)」
幽鬼のごとくゆらりと立ち昇る謎のオーラは殺気かはたまた、闘気かどちらにせよただ事では済まなそうだった。
「ま、まずい!ガチだ!森川頼む」
やれやれと、森川が古川に耳打ちする。
「古川さん、渡のことよく見てるんだね」
「はぁ!」
「だって、さっき昨日から見てたって」
「あ、そ、れは、ぇ」
みるみる萎んでいく古川さん。
「こういうのは、どうかな?渡が危ない事をしないように古川さんも一緒に来て渡を見張るっていうのは」
「え!?」
驚きから、みるみる顔を赤らめる古川を見て森川は面白い人だなと嘆息した。
「分かったわよ。しょうがないわね!必要なものは後で連絡しなさいよ!」
「はいはい」
少し離れた所で油を売っていた渡は話が片付いたとみて、安堵した。
昔から古川を怒らしたときは、森川に任しとけばなんとかなるのだ。
古川が立ち去り際に渡に言った。
「無茶しないでよ。また後で」
「おう、わりいな」
嵐のように去っていった。
「お前すげえな!まるで魔法だぜ言葉の!」
「そうかい、ってことで土曜日は古川さんも一緒だからよろしくぅ!」
「そうか、賑やかでいいなあ…ってなんでやねん!!説得してくれたんじゃなかったのかよ?」
「魔法は万能じゃないんだよ。いいだろまた、昔みたいに三人で遊ぶのも」
親友に半ば言い切られる形で当日のメンバーが決まってしまった。
言い争いをしている間に昼休みの終わるチャイムが鳴り響いた。
先に行くぞ、と背を向ける親友を追いかけようとするとふと、思った。
確かに、久しぶりだよな。三人一緒にどっか行くのって…
✱✱✱
〜約束の日〜
【午前10時】
あれから、皆で相談して洞窟の最寄りのバス停で、待ち合わせる事になっていた。
渡は、修学旅行前に眠れなくなる系の男子だったので少し寝不足だ。
今朝も家を早くから出発し、この場まで一番乗りだった。
リュックサックには、折りたたみ式の釣り竿と、餌箱、懐中電灯、そして、何か武器になる物が欲しかったので台所から包丁を拝借してきた。
わくわくしているのは分かるが、普通に危なかった。
しかし、本人は勇者気分だ。
すると、まばらな乗客を乗せたバスがやってきた。
やがて森川と古川だけ降ろして、発車していく。
「お待たせ」
「おはよー」
「おう!」
森川はいつも通りに、古川はあくび混じりで少し眠そうだった。
「待ちくたびれたぜ。あと、森川に古川もありがとなそれ」
「ああ、いいっていいって」
「もってな・に・よ!あんた、めちゃくちゃ食べるから大変だったわよ」
森川はかなり大きめのクーラーボックスを携えていた。
釣り上げたサメを、入れておくためのものだ。
古川は、大きめのバスケットを肩から下げている。今回三人は持ち物を分担していた。
渡は釣り竿と、餌担当。森川は大きなクーラーボックスと飲み物。そして、古川は三人分のお弁当だった。
最初は弁当は各自で用意する話だったのだが、古川が自分もなにかしたいと言い出した結果こうなった。
なお、渡はそこでも「お前ガサツだしなあ。料理できんのかよ?」と、いらん発言で古川を阿修羅モードにしたのは別のお話。
さて閑話休題。三人は目を合わさて頷きあい、目的地へ歩を進めた。
何だかんだ行ったところで、みんな楽しみにしていたのだ。
しばらく歩くと、洞窟の入り口に辿り着いた。すっかり、潮がひき簡単に入り込めるようになっていた。
入り口は子供三人が通れるほどで大した大きさではない。そのぶん奥まっていてかなり長い洞窟のようだった。
仄暗い道にぴちゃんっ、ぴちゃんっと雫が時折落ちる音が聞こえる。
しっとりした空気が吹き抜けており、奥で外気と繫がっているらしかった。
「何だか気味が悪いわね」
「なんだよ、ビビってんのか?だらしねえな」
「そんなんじゃないし!バカじゃないの」
「まあ、何かあったら俺が何とかしてやるって!」
「え?」
任せろ、と胸を張る渡に少なからず嬉しいと想ってしまったが気取られないために早く行くわよと早口に進んでしまう。
「お、おい待てって!」
二人はずんずん進んでいく。
森川は、やれやれと念の為入り口の看板に書かれた地図をスマホで撮影してから二人を追いかけた。
しばらく歩くと、ようやく行き止まりの溜池のある場所まで辿り着いた。
思ったより深そうだ。
「おーし、やっと着いたな!」
渡はいそいそと釣り竿の準備を始めた。
「ここまで、5分くらい歩くんだね」
「渡、その前に座れそうな場所あったからシート敷くの手伝って」
「そうだな、忘れてた」
可愛らしいピンク地のシートを敷き終わると荷物を降ろした。
三人は準備を済ますと、三本の釣り針を水中に落とした。
渡は父親に何度か連れて行って貰っているので、手慣れたものだがほか二人は初めての釣りだった。
餌の取り付けは古川がどうしても、無理だと云うのでばらされる度に渡がつけてやった。
「お、ヒット!」
最初にかかったのは森川だった。
「やるな!サメか、サメか!」
「凄いね、森川君!」
慎重にリールを巻き、釣り上がったのは雑魚だった。
「なんだ、サメじゃないのかよ」
「でも、初めて連れたけど楽しいなこれ」
「いいなあ、私も早く釣りたいのに」
「そしたら、古川ごと持ってかれちまうぞ」
「そしたら、あんたが何とかしてくれるんでしょ?」
「ん?、ん、まあな」
照れ隠しにそっぽを向いて答える渡。お、いい感じじゃんか、と森川はまるで二人の保護者になったような眼差しを向けた。
小一時間、没頭していると不意に耐えられなくなったように古川が憤慨した。
「あ〜もう!なんで、なんであんた達ばっか釣れて私は釣れないのよお!」
「うわ!急にびっくりさせんなよ」
「あ、ははは」
そう、渡は経験者だし森川は器用だ。
古川の竿だけがピクリとも動かないのだ。最初は、たまたまかなと思っていたけどいい加減我慢の限界だった。
決定的だったのはつい寸前に、渡が少し大きめの魚を釣り上げた時「お、悪いな笑」と古川めがけて言ってきたことだ。
「も〜帰る!じめじめしてるし、虫キモいし、釣れないし!」
「ちょ待てって、来たばっかじゃねえか」
「そうだって、そのうち釣れるよ」
「無理だもん!」
「いや、もんって」
ぎゃーぎゃー言い争いを始めてしまった。
しかし、機転を利かした森川はすかさずこういった。
「そうだ、渡。古川さんに直接教えてやりなよ。多分動かし過ぎだと思うからさ。後はタイミングを、合わせるだけでしょ」
「そうだな、流石に一匹も釣れないのは可愛そうだよな。それでいいよな古川?」
「え!?ちょっあんたどこ触ってんのよ!」
「いや、動かし方教えるだけだって。こうやって、ゆっくり動かしてしばらくじっとしとくんだよ」
「あ、うん。えと、ありがとう。なるほどね」
渡に手取り足取り教えて貰いながら、意外と素直に指導を受ける古川の耳は真っ赤になっていた。
(やっぱりサメよりこの、二人見てる方が面白いんだよなぁ)
二人を見てると思う森川だった。
すると、古川の竿がピクっと揺れた。
またしばらくすると、ピクピクと揺れ始める。
初めての出来事に本人はしばらく呆けていたが、いきなりぐっと竿がしなり引っ張られるような感覚が腕に走った。
魚が引いているのだ。
「や、やったわ!これ初めて」
「分かったから、早く引けって、逃げられるぞ」
「分かってるわよ!でも、これとっても大きいわよ」
「まじか?サメか?」
「大丈夫?古川さん」
古川さんは重たそうに竿を引っ張りながらリールを巻いている。相当大物みたいだ。
「凄い、でも何とかなりそう!悪いわね渡私釣りの才能あったみたいよ笑ぷぷぷ」
「こいつ、このまま池に蹴り落としてしまいたい程憎らしいな。でも、この際頑張れフカヒレだ!」
「古川さんもう少しだ見えてきたよ!ヒレが見えた!」
「やっぱり私天才ね!何だったら後で教えてあげるわよ!釣りの上手なや、り、か、た!」
天元突破の勢いで調子に乗っている。
そして、ついに。
「行くわよ!網を用意しなさい!どりぁー!」
次の瞬間飛沫とともに、確かにサメが釣り上げられていた。
おお、と歓声が上がり渡は用意していた網を伸ばそうとしたが、不意にその手が止まった。
森川もやったねといおうとした口がやの辺りで止まっている。
のけぞっている古川には、状況が上手く飲み込めず渡に網をせがんでいた。
そして
「古川、前見てみ」
「何よ、それより早く、はうあっ!!」
そう、確かにそれはサメだった。
しかし、それはあまりにも小さなイワシといい勝負なサイズだった。
時が止まった。
わなわなと、顔を絵の具を被ったように真っ赤にさせながら震えている。
遠くでは、まだ古川の雄叫びが虚しく反響していた。
「さて、古川先生。教えてもらえますかねぇ?その、上手なやり方ってやつをよう笑」
「こっ…こ、…こ…」
「ねぇ今どんな気持ちぃ?散々イキって小魚釣れたときってどんなき〜も〜ちぃ〜?」
ぶつん。
このとき、森川は確かに聞こえた気がした。人がキレるときの音を…
「ぅあんたを殺して私も死ぬ〜〜!!」
「おい待て、その重そうな石を置け、落ち着け!」
「問答無用!」
慟哭と叫び声が洞窟にこだまし、やがて飲み込まれていった…
最後までお読み頂きありがとうございます!
お疲れ様でした!
2話を楽しみにしてくださいませ!