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異世界は紀行文とともに
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僕は、私は、わしは死んだ。
科学医療が発達した現在において外的な死因はなくなり、ただ寿命だけは伸ばせずにいた。そんなわけでわしの死因は老衰だった。家族に看取られながら死んでいくのは心地よいものでこんなわしに涙まで流してくれる姿を見て不謹慎ながらうれしいものがあった。未練なんてないように思えるほど。
21歳で就職し、26歳で結婚、その次の年には子宝にまでめぐまれ、51歳で孫にも恵まれた。決して順風満帆な日々ではなかったものの家族のためを思ったら、不思議とどこまでも頑張っていた。そんなこんなでこの日まで生きながらえ心満足にしてこの世を去った。
しかし、一つも未練がないと言われればそうではなかったがその未練は決して叶わないと確信していた。
子どものころ、見たことのない世界を見るのがすきだった。だから世界地図や様々な風景を写した本が大好きだったし、将来絶対に世界一周をしようと思っていた。だが、年を重ねるごとにその願いは叶わない産物へと変化していった。テレビやネットの発達により簡単に世界の情報をリアルタイムに知れるようになってしまったり、VRの発達によって現地に行かなくてもその地域の風景やにおい、文化などを直接旅行したかのように感じとれるようになってしまった。
かくいう私も勉強や部活、仕事や子育てなど歳を重ねるごとにやらなければいけないことが増え、自分にとって自由な時間というものがなくなっていった。結局VRなどの最新技術などを用いて自分の夢を簡単に叶えてしまった。もちろん自分の自由な時間を自分以外に捧げた人生に何か不満があったというわけではない。むしろ幸せなことの方が多かったしほとんどの人がそうなるだろう。
ただ叶わないと分かっている無駄な願望にただただ縋りついてるだけだった。
自分にこんな執念深さがあったのかと自嘲しつつ、暗闇の中を歩いて行った。ただただ何もない平坦で真っすぐな道であり、歩いていると死んでいるにもかかわらず、疲労感を感じた。そんなことを不思議に思いながらもふと空を見上げると幾万の輝く光が見えた。死ぬ前の夜空のようなその光に自然と見入ってしまい、そのまま寝転がって子どもの時のように寝てしまった。こんなにも満足に眠ることが出来るのはいつぶりだろうと、ずっと寝ていたいとも感じていたが、混濁した意識の中閉じている瞼に光が当たっているのを感じ、そのまま目覚めると、
夢のようなまったく自分の知らない世界が広がっていた。
わざわざこのような作品を読んでいただき誠にありがとうございます。建前は処女作のため、本音は作者に学がないため至らぬ点が山ほどあると思いですが、ぜひ次も読んでいただけると幸いです。