【第34話:不完全な召喚者】
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リアルの諸事情でWeb作家としての活動を休止しておりましたが復帰いたしました。
まずはこの『槍使いのドラゴンテイマー』の改訂版を公開&更新していく予定です。
下記に全文改稿&数万字加筆した改訂版を公開しております。
更新は順をおってになりますが、こちらをお読み頂けますようお願いいたします。
https://ncode.syosetu.com/n5238jw/
尚、運営様から旧版を残しても基本問題ないとは確認をしていますが、
読者様が混同する場合は旧版の削除を求める場合があるとも伺っております。
その場合、こちらは削除することになりますのでご了承ください。
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~黒幕 坂村 志保 視点~
「はっ!? なんだ!? 今、何が起こったのですか!?」
一瞬、この遠征軍全てを覆うほどの馬鹿げた大きさの魔法陣が見えた気がしたが……。
私は腰かけたゴーレムの肩から、振り返って自軍を見渡すが特に何かが起こっているわけではなさそうだ。
後ろに控えた元クラスメート、30人の穢れた勇者たちも無事だ。
私は何か心臓を掴まれるような、そんな寒気を一瞬感じたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
気を取り直して、あらためて進攻を開始しようと前を向き直す。
「ふぅ~なんだったのかしらね。本当に驚かせてくれま、す……ね……」
そして、私の視界に飛び込んできたのは、人外の軍勢がこの遠征軍を包囲している光景だった。
私は何が何だかわからなかった。
私の前方には、六魔将の魂をコアにした、この自慢のゴーレムよりもさらに大きい、まるで大地が立ち上がったかのような巨人が何体も聳え立っていた。
「な、なんなのだ……あの巨人……ども……は……」
しかし、驚愕はそれだけでは終わらなかった。
その巨人の周りには、見た事もないような巨大な上位精霊が数体佇み、その周りには無数の精霊が飛び交っている。
いや、それだけではなかった。
「はっ? ……森はどこにいった? ……それに、あれはなに……?」
巨人の足元に目を向ければ、数えるのも馬鹿らしい数のゴーレムに、キングスケルトンのように巨大なスケルトンが展開しているではないか。
しかも、我が軍を完全に包囲している……。
「な、なんで? さっきまで何もいなかったはず……どうして? 何がどうなったら、この我が10万の軍を包囲する程の人外の大軍勢が? いつの間に包囲した……?」
何が何だか訳が分からず、混乱して頭の整理がつかない。
そして、放心する私の目に、さっきから感じていた悪寒の正体が飛び込んできた。
「ド、ドラゴン!? いいえ、そんな生易しいものじゃない……竜王かそれ以上の……」
見ただけで生きている事を諦めたくなるほどの圧倒的な武威。
あれと出会って生き残るすべなどないのではないかと、そう思えてくるほどのプレッシャーを感じ、私は気付けば全身の震えが止まらなくなっていた。
「お、おい、なんだよ、あれ……」
「なんだあの巨人は……」
「巨人だけじゃねぇ! でっかい精霊に、それに、巨大なドラゴンまで!?」
「な、なんか俺たち包囲されていねぇか……?」
低い地上で隊列を組んでじっとしているので、私ほど状況は把握できていないのでしょうけど、下からでも巨人や大精霊、空を舞う精霊たちは見えるし、先頭や端にいる兵士たちにいたっては、この軍を完全に包囲する馬鹿げた数のゴーレムなども見えるのでしょう。
瞬く間に、この遠征軍に動揺が広がっていくのがわかります。
動揺していないのは、操り人形と化した穢れた勇者たちぐらいかしら……。
きっとこのままでは、僅かなきっかけで軍が瓦解してもおかしくありません。
このままでは不味いと私はゴーレムの肩で立ち上がり、
「し、静まりなさい!! こちらの戦力も負けてはいません! 恐れる必要はない!」
風魔法で拡声しつつ、そう叫びました。
もう嘘でもそう言わないと、統制が取れなくなりそうだったから……。
しかし、そんな行為は何の役にも立たないと、魔法音声が響き渡ったのです。
いや、もうここまで理解を超えたことが起こっているので今更なのですが、本来魔法音声と言うのは自分の周囲数十メートルか、遠方の場合はターゲットにした数名に対してしか使えないもののはずなのです。ですが、ソレはどうやら我が軍全ての者たちに届いているようでした。
≪我は、S級冒険者パーティー『恒久の転生竜』のリーダーであり、トリアデン王国『竜に守られし街 ジルニトラ』の領主『コウガ・フォン・ジルニトラ』の守護竜『神竜ジルニトラ』だ!≫
その魔法音声を聞い一般兵などは、ほとんどの者がそれだけで戦意を失い、ガタガタと震えて立ちつくしているように見える。
(この規格外の魔法音声、僅かな武威がこめられている……それに、神竜だと!? この凄まじい威圧はそのような神聖なものではないだろう!)
「じゃ、邪竜ジルニトラ!?」
「ひぃぃ!? じゃ、邪竜じゃねぇか!?」
「ダメだ……邪竜が相手じゃ、もう終わりだ……」
「邪竜……世界が破滅する……」
その名を知る者も多いのだろう。
最強最悪の竜『邪竜ジルニトラ』の名が告げられて、次々と崩れ落ちる者が出始めている。
私が心の中で毒づく間にも、魔法音声は語り続ける。
≪お主らは宣戦布告も無しに既に他国へと侵攻しており、これを見過ごすわけにはいかない≫
≪今から我が主である『コウガ・フォン・ジルニトラ』と共にそちらに向かうので……そこのゴーレムの肩に乗ったお前! 今、驚いて口に手を当てたお前だ! そこで暫しじっと待っていろ≫
そう言われた瞬間、まだ遥か彼方にいるはずのその巨大な竜と目が合った気がした。
「ば、馬鹿な。この距離だぞ……しかし、魔力感知のスキルが反応していない……遠見系のスキルや魔法ではないのか……」
≪我はちょっと視力が良いのだ。あと、耳も良いから聞こえておるぞ?≫
「んなっ!? ばばばば、馬鹿な!?」
私があまりの馬鹿げた基礎能力の高さに混乱していると、遠くの巨体がゆっくり飛び上がるのが見えた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! 理恵! 英多郎! それにお前ら! あの竜を迎え討てぇ!!」
穢れた勇者たちに、そう指示を出したのだった。




