【第33話:怖すぎるわ】
とりあえず地殻変動の危機は去ったが、黒幕以外を転移させる手段がないとなると、何か策を考える必要が出てきた。
「どうしたものかなぁ? このまま時の流れを戻したら反抗してくるよな?」
≪そうだね~。戦力差はジルちゃんがいる時点で圧倒的なんだけど、数だけは多いから間違いなく歯向かって来るね~≫
「そうだよな。拘束を解いた時に、戦うのが馬鹿らしく思えるような、そんな戦意を喪失させるような圧倒的な戦力を見せでもしないと」
クイが言うように本当はジルが1人いるだけで、もうその戦力差は圧倒的なんだけど、へたに普通の竜なら互角以上に戦える戦力が揃っているため、逃げ出したりはしないだろう。
そもそも追い散らすのもダメか。
ほとんどの国では敵前逃亡は非常に重い罪に問われるし、それも問題だ。
逃げ出した兵士が盗賊にでもなられたらやっかいだし、勇者に踊らされている指揮官の心を折るしかないか?
≪なんだ? 主よ。それなら、見ただけでわかる圧倒的な戦力差を見せつけてやれば良いだけではないのか?≫
「そうは言うけど難しいぞ? 実際には圧倒できる戦力は揃ってるんだろうけど、数で圧倒しているだけにそう簡単に負けは認めてくれないはずだ」
≪それなら数で圧倒すれば良いではないのか。例えば……≫
「ちょっと待てぇ!?」
危ない……今、一瞬凄い数の魔法陣が見えたぞ……。
≪どうしたのだ? こちらも軍勢を用意すれば良いだけだろう?≫
「あぁ……ジル。その召喚で周りに被害は出ないのか? 地形が変わるとか? ちゃんと呼び出した奴は言う事を聞くのか? あとあと、こっちの用事が済んだあと、消えてくれるのか? もしくは元に戻ってくれるのか? ……リリー、ほかに思いつく事はないか?」
何かを呼び出すつもりなのかもしれないが、呼び出す時に環境破壊を起こしたり、言う事聞かずに暴れたり、用事が済んでも消えなかったりしたら大変だ。
「さ、さすがにそれだけ確認したら、もう思いつかない……にゃ」
わが『恒久の転生竜』の良心が思いつかないなら、こんなものだろうか。
石橋を重機で叩くぐらい慎重にしていかないと、酷い目に合うのはオレの方だからな……。
≪うむ。いずれも大丈夫だ。召喚では森林破壊など起こらないし、元にも戻る≫
「……わかった。それじゃぁ、その圧倒するのにたる軍勢とやらを呼び出してくれ」
≪承知した。まぁまずは呼び出すのじゃなく、創り出すのだがな≫
「へ?」
嫌な予感がした時には、既にジルを止める事は出来なかった。
≪起きろ。『木人創造』『土人創造』『石人創造』≫
視界一杯に広がる全ての森の木が、その土が、岩が動き出す。
まるで広大な森そのものが動き出したかのようだ……。
≪立ち上がれ。『大地の巨人創造』≫
オレが呆気に取られていると、今度はジルが音速飛行して破壊した森の大地、地肌が見えていた所から、巨大な影が立ち上がる。
「わぁ♪ さすがジル様♪ リルラだと大地の巨人は1体がやっとです!」
うちのもう一人の非常識な方も、この魔法が使えるらしい。
≪付き従え。『竜牙兵』≫
そして、次元収納から無数の竜の牙をばら撒いたかと思うと、その全てが巨大な竜牙兵へと姿を変える。
(え? なに、このサイズ……?)
この巨大な竜牙兵だけで数千はいるのだが、もしかしたらこれだけで相手は戦意喪失するのじゃないのか……?
≪うむ。まだ寂しいな。召喚もしておくか≫
「あっ……」
もう何だかツッコむのもしんどくて放置していたら、今度は何か召喚しはじめた。
≪来い。『上位火精霊イフリート』『上位水精霊カリュブディス』『上位風精霊ジン』≫
そして出現する巨大な上位精霊……と、それに付き従って現れた無数の精霊たち……。
「わぁぁ♪ 上位精霊がいっぱいです! ジル様凄いです!!」
そして、私も私もと言ってリルラが……。
≪顕現せよ! 風の大精霊『シグルステンペスト』!≫
「あぁ……やっぱそれも呼び出しちゃうよね~」
風の大精霊の嘶きを耳にしながら遠い目で見つめ、それから改めて周りに目を向ける。
地平線まで埋め尽くすゴーレムに骨、精霊の数々……。
呆然としている間に展開も完了し、ジルのしもべたちは帝国の軍勢を完全に包囲していた。
≪やっぱジルちゃん凄いね~! 使徒様~えっとねぇ~? だいたいゴーレムだけで帝国軍の数を上回ってるんじゃないかな? ちなみにジルちゃんのゴーレムは1体で普通の騎士ぐらいの強さはあるよ~≫
こっちもちなみに言っておくと、帝国軍の騎士は見たところ全兵力の1割もいない。
ほとんどが普通の兵士だ。
「あぁ……クイ、報告ありがとうな……」
≪どうだ? 主よ。これぐらいいたら足りるか? それとも、もう少し足しておくか?≫
自慢げに話しかけてくるジルに軽い殺意を覚えるが、とりあえずこれ以上足されないようにしないといけないと気持ちを切り替える。
「もう十分だから!? と言うかさぁ、ジル……森が丸ごと無くなってる気がするんだが、さっき森林破壊は無いと言ってなかったか……?」
ここには広大な森が広がっていたはずだが、もう木一本生えていない。
まぁ動く木ならいっぱいあるのだが……。
≪うむ。召喚においては何も破壊しておらぬし、創造の方も森を活用はしたが破壊はしておらぬぞ? 用が済めば、元の場所に戻ってじっとしているように命じれば元通りだ≫
「怖いわ!? 森の全てがゴーレムとか怖すぎるわっ!?」
そう叫んでいると、後ろからルルーがオレの肩に手を置き、
「コウガ……ジルの方が1枚も2枚も上手だった……にゃ」
そう言って、首を振っていた。
「ご主人様。私も魔界門を開いて……「やめてくれぇ!!」」
とりあえずテトラのその提案だけは阻止する事に成功したようだ……。
残念そうに上目遣いでこっちを見てもダメなものはダメだ。
いろいろ想定外の事にはなっているが、これで望んだ状況は作り出す事が出来たのは事実だ。
オレは思考を巡らせ、次の行動に移る事にしたのだった。
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物凄く久しぶりの更新になってしまってすみません!
前回の更新後に新作『呪いの魔剣で……』の書籍化が
決定して、色々と立て込んでおりました<(_ _")>
また書籍化作業などの隙を縫って更新していきますので
この作品も引き続きお読み頂けると嬉しいです。
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