【第32話:世界の危機】
オレはその光景を前に呆然と立ち尽くしていた。
かつて森だったものは地平線の果てまでほとんどの木が倒れ、巨大な森は完全に二つに分断されていた。
途中にあったと思われるゴブリンの大規模な集落が全滅していたが、こっちはまぁ良いか。
「ちょっとこれは予想を超えてた……にゃ」
「森が完全に二つにわかれてしまってる……にゃ」
≪うむ。まぁここは良いではないか。それよりちゃんと報連相を守っているのだ。目的地はこの先だし、もう行かぬのか?≫
ジルにしては珍しく、少しは不味かったと思っているようだが、今回の一連の行動のどこに報連相が出来ている要素があるんだ……?
「それでジル、これのどこに報告・連絡・相談が実践出来ているんだ……?」
≪ん? さきほどクイちゃんが報告したではないか? 続いて我が連絡し、最後にどうするのかと相談しているところだと思うのだが?≫
つまり、こうか……。
オレが『報連相』と言ったから、
1、(やらかした結果を)報告して
2、(目の前で念話使って)連絡して
3、(やらかした事について)相談した
と……。
「ぐっ!? 順番や内容の事まで教えてなかったな……」
オレが敗北感にまみれて崩れ落ちていると、パーティーの常識人リリーが肩に手を添えて頷いてくれた。
わかってくれるか……。
「と、とりあえず人には被害は与えてないんだな?」
巨大な森林破壊の現場から目を逸らして、念のためにもう一度確認する。
≪それはクイが保証してあげるよ~。なんなら倒れた樹木の総数とか調べておく~?≫
「そ、そうか。それならいい。あと、正確な被害を知ると寝込みそうだから、調べないでくれ……」
とりあえず入口にいても仕方ないので、その時を止めて拘束しているという奴のいる所まで向かう事にしよう。
「それじゃぁ、ジル。悪いがまたオレたちを背に乗せて、そいつがいる所まで向かってくれ」
≪うむ。承った≫
今、ジルは本来の大きさに戻っているので、背に乗るだけでも普通なら至難の業なのだが、ここにいるのは皆Sランクの冒険者か、それ以上の実力者ばかりなので、嘘みたいに軽々と飛び乗っていく。
「考えてみればオレたちって、とんでもないメンバーだよな~。普通の人族が誰もいない……し……」
……うっ、自分で言って自分で落ち込んだ……。
自称神竜の邪竜はもちろん、妖精女王に元原初の魔王さま、神獣とそれに仕える白き獣の獣人、1200年を生きるハイエルフに、竜人の姫。
そして異世界から転生した上に、邪竜に肉体改造されたオレ……か。
「……それじゃぁ、向かってくれ」
この時のオレは迂闊だった……。
オレの命令に合わせて浮かび上がったジルは、背に乗るオレたちが吹き飛ばないように障壁を張ると、一気に音速で飛び立ったのだ。
「これ以上、森林破壊するなぁぁぁ!!」
~
1分ちょっとで目的地にたどり着いたオレたちは、また目の前に広がる光景に立ちつくしていた。
「えっと……捉えた奴って黒幕だけじゃなかったのか……?」
まさか草原を埋め尽くす軍勢が丸々時を止めて、捕らえられているとは思いもしなかった。
≪きゃはは♪ 使徒様やっぱりこれ見たら驚くよね~♪≫
ぐぬぬ……クイの奴、わかってて言わなかったな……。
「さすがジル様ですね。私も似たような事はできますが、ここまでの規模はどうすれば出来るのか想像もできません!」
うちの小さな歩く非常識のリルラが、規模が小さければ出来るとシレっと言っています。
今では純粋な戦闘だけなら負けないだろうけど、出来る事の幅の広さではリルラはオレの比じゃない。
「とりあえずリルラは、その魔法使う時はよく注意してくれよな」
「はい。コウガ様に迷惑はおかけしません!」
「出来ればオレだけでなく、敵以外には迷惑はかけないようにしような」
「はい!」
満面の笑みでそう答えるリルラは、返事だけは気持ちいいぐらい良い返事してくれるんだよな。
返事だけは……。
「それでジル、これはどういう状況なんだ? なんかバカでかいゴーレムとかもいるが……」
ジルを見上げてそう尋ねると、クイが近くまで飛んできて、
≪じゃぁ仕方ないから、さっきのドッキリのお詫びに私が軽く説明してあげるよ~≫
と言って、立体映像を展開して詳細に説明してくれたのだった。
~
「それじゃぁ、今まさに出陣って時にこの辺り一帯の時の流れを遅くして閉じ込めたのか」
一通りのプレゼン……ではなく、説明を聞いたオレは、そう簡潔に確認した。
と言うか、最初からジルにではなく、クイに全部話を聞けば良かったと今更ながらに思いつく。
≪まぁ最後はそんな感じだね~≫
しかし、これはどうするべきか頭が痛い問題だ。
黒幕が誰なのかは、もうだいたいわかっているのだが、黒幕以外の者たちの扱いに苦慮していた。
特に10万近くいそうな兵士たちだ。
「ジル、これ普通の兵士だけを本国に送り返すとかできないか?」
ダメもとで聞いてみたのだが、少し無理をすれば可能だという事だった。
≪ただ、これだけ多いと大規模転移魔法を展開する事になるので、数時間は待ってもらう事になるぞ≫
いつも大規模魔法でもなんでも一瞬で発動させる事を考えると、どうやらかなり無茶な事をしようとしているな気がする……。
「ジル……本当に大丈夫なのか?」
≪そこまで心配するようなものではない。地脈を通して空間を相互接続するのに時間がかかるだけで、魔法の発動はいつも通り一瞬だ。魔法を失敗することなどまずない≫
なるほど。よくわからん。
よくわからないが、魔法自体はジルにとっては難しいものではないらしいので、大丈夫なのだろう。
「コウガ。その魔法を使った場合に周りに被害が出ないかちゃんと確認しないとダメ……にゃ」
「普通にその間の土地が壊滅とかありえる……にゃ」
確かにジルが大丈夫だと言ったのはあくまでも魔法の発動そのものについてだ。
「ぐっ!? 確かに……そこのところどうなんだ?」
≪今、ルルーが言ったような事にはならぬ。まぁ、少し大規模な地殻変動がおこ……「却下だぁ!!!」≫
こうして誰も知らないところで、世界の危機は救われたのだった……。
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久しぶりの更新でしたが、ちょっとだけ宣伝失礼します<(_ _")>
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もし宜しければ、こちらも併せてお読み頂けると嬉しいです(*ノωノ)
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