【第31話:怒るかな……】
~時は少し遡り、ジル視点~
我はクイちゃんと共に妖精の通り道を使ってガリア帝国に潜入していた。
我の千里眼やクイちゃんの妖精界からの監視を掻い潜ってコソコソ動いている奴がいるのだが、いい加減気に入らなくなったので、直接乗り込んできたのだ。
主も邪魔に思っておるだろうし、きっと喜んでくれるだろう♪
フッフッフ。どうしてくれようか?
≪ジルちゃん。なんか悪い顔してるよ~?≫
≪む? そうか? 我としたことが……これでどうだ?≫
ちょっと口角をあげてみたがどうだろう?
確か、人はこうやって笑みとか言うのを作ると聞いたのだ。
≪えっと……ちょっと言いにくいんだけど、食べられそうで物凄く怖い!!≫
む? どうやら口角をあげるとか言うのは、竜たる我には当てはまらないらしい。残念だ。
≪すまぬ。では、普通にしておこう。それで、あの群れてる奴らが我が主の敵か?≫
遥か遠くに見える有象無象の奴らを見て、我がそう尋ねると、
≪だね~。私にはまだ見えないけど~。でも、今回はたぶん殺しちゃうとコウガ様が悲しむと思うから、薙ぎ払ったり、焼き尽くしたり、石化させたり、分解したり、隕石で跡形もなく消滅させたりするのは無しだよ~?≫
むむ。中々難しいことを言うのだな。
≪では、どのようにしたら良いと言うのだ? クイちゃんは何か良い考えがあるのだろ?≫
我がそう言うと、クイちゃんは嬉しそうに「へへへ~」と笑みを浮かべながら、我の周りを飛び回っておる。
あれが「口角をあげる」という奴か……我がそんな風に考えていると、ようやく満足したのか我の肩にとまって話しかけてきた。
≪それはねぇ~……ごにょごにょ……って、すれば良いと思うんだ~≫
≪ほぅ。それは中々面白そうだな。では、早速終わらせに行くか≫
≪は~い。私はジルちゃんの頭の上で結界張って見物させて貰うね~≫
≪承知した。では、クイちゃん。しっかり掴まっておるんだぞ≫
我はそう言って、本来の大きさに戻ると、大きく羽ばたいて飛び立ったのだった。
~
音速を超えて飛行したせいで、途中の森がいくつか吹き飛んだようだが、人はいなかったから気にする事もあるまい。
千里眼で覗くといつも感づいて逃げるので、今回は我の目で直接ターゲットを捕らえておる。
魔力を敏感に感じ取る能力があるようで、千里眼を使うとすぐに逃げ出したり隠れたり、障壁を張って見えなくしたりされるのだが、今は単に人とは次元の違う視力で普通に見ているだけだから、気付かれる事はないであろう。
≪あ! ジルちゃん、おっきなゴーレムが見えたよ! あの辺りだね!≫
クイちゃんも妖精族としては飛びぬけてスペックが高いから、普通ならまだ点すらも見えないこの距離でも見えるようだ。
≪良し。もうここまで近づけば我は完全に捕捉できる。気付かれぬよう、ここから魔法を使うか≫
そう思って、一度この距離で止まったのだが、何やら動きがあるようだ。
我の聴力ならここからでも会話が拾えるだろう。
少し様子を見てみるか。
≪クイちゃん。何やら動きがあるようだから、少し様子をみようと思うが、構わないか?≫
≪全然オーケーだよ~。私の近衛も取り囲むように配置してあるから、もう逃げれないし~≫
そして、転移系の魔法も干渉して邪魔出来るから安心してと伝えてくる。
さすがクイちゃんだ。
既に完全な包囲網を完成させているとは我が主以外で心を許すだけはあるのだ。
「じゃぁ、そろそろ始めようかしらね。戦争を」
いつも我から逃げ回ってる女の呟きが聞こえてきた。
その指示に従うように軍勢には伝令が走り、更には我と同程度の大きさを誇るゴーレムが動き出した。
≪おぉ。ちゃんとあのゴーレム動くんだね~。あの大きさのゴーレムを動かすとなると、禁術の類~?≫
≪うむ。魔族の者と思われる魂の波動を感じる。恐らくクイちゃんが言っていた6魔将とかいう奴を贄にしたのではないか?≫
≪あぁ~! なるほど! 魔族の魂を封じ込めたのならパワーは十分だね!≫
≪うむ。人の身としてはよく考えておる≫
普通は魔族の方が圧倒的に強いのだが、さすが出来損ないでも勇者というところか。
≪だね~♪ でも……クイに隠れてこそこそするの許せないんだ~。私ね、知らない事あるの許せないもん!≫
クイちゃんは、情報収集が生き甲斐みたいだから、きっと上手く隠れられたのが許せないのであろう。
≪まぁ良いではないか。我がこれからお仕置きをするのだからな≫
そう話すと、嬉しそうに我の頭の周りをクルクルと飛び回るクイちゃん。
≪では、ゆくぞ!≫
≪ジルちゃん、頑張って~!≫
我はクイちゃんの応援に頷きを返すと、集まっている軍勢全てを囲むような巨大な魔法陣を出現させ、そのまま竜言語魔法を詠唱する。
もう魔法陣が出現した時点で、逃げれぬように結界魔法も同時展開しておる。
皆何事だと騒ぎ、狼狽えておるが……もう手遅れだ。
≪緩やかな時の流れし夢幻の世界よ。その扉を開いて現世に顕現せよ。『時の狭間の神域』≫
発動させたのは『時の狭間の神域』という指定した空間の時の流れを変化させる魔法だ。
通常は範囲内の時の流れを早くする事で、現実の僅かな時間で多くの物事を成すための魔法なのだが、今回は範囲内の時の流れを極限まで遅くしている。
≪わぁ! 成功したみたいだね~! み~んな止まっちゃったよ!≫
うむ。成功は当然である。
我の魔法により、空間内はほぼ時が止まっている状態なのだ。
あそこに集まっている全員が、いや、あの空間内のあらゆる物が、その時の流れを止め、まるで作り物のように静かな世界が広がっているのだからな。
≪うむ。とりあえずは、これでもう逃げれぬはずだがこの後はどうすれば良い?≫
もし、自力で動いてあの効果範囲内から脱出しようと思っても、恐らく空間の境付近にいる者でさえ100年はかかるであろう。
あとは、もうこちらの好きなように出来るのだ。
≪ん~? このまま勇者の成りそこないとか倒しちゃっても良いとは思うけど、一応、念のため、使徒様に聞いてみようか??≫
≪うむ。そうだな。主もよく『報告・連絡・相談』が大事と言っておるしな≫
我は同じ過ちは繰り返さないのだ。
≪そうだね~。ちょっと森消し飛んだのは怒られるかもだけど~≫
ひ、人は同じ過ちを繰り返すというからな。
我も少し人の行動がわかってきたという事であろう……。
主、怒るかな……。
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森林破壊! Σ(・ω・ノ)ノ!
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