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【旧版】槍使いのドラゴンテイマー Ⅱ ~勇者が暴走したので邪竜で蹴散らしておこうと思う~  作者: こげ丸


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【第24話:その者】

「聞き覚えがあると言うのは、『預言者ゾルデイム』という名ではないですか?」


 壮年の男性は「違いますか?」と、屈みこむようにしてリルラに尋ねる。


「そうなのです! 確か不世出の大預言者『ゾルデイム』さんです!」


 男は深く頷くと、皆を見回し言葉を続ける。


「申し遅れました。私はこの村で語り部の役目を授かっておる『トット』と申します。この村は預言者ゾルデイムの予言を語り継ぐために生まれた語り部の村なんです」


「預言者ゾルデイム……ご主人様。私もその名は聞いた事があります。たしかこの世界が生まれてから唯一『完全な予言』を成すギフトを授かった者だったはずです」


 どうやらテトラも知っているようで、かなりの有名人のようだ。


「なんか凄いギフトですね……にゃ」


「凄いギフトだけど、私は未来が見えたら嫌……にゃ」


 ルルーが本当に嫌そうな顔でそう呟くが、オレも正直予言に人生振り回されそうで嫌だな。


 オレたちのざわめきが収まるのを待ってから、トットが話を続ける。


「これは村の語り部に伝わる話なのですが……その話はこう始まるのです」


 先ほどまでのおどおどした感じは消え失せ、ゆっくりと村に伝わる予言を語り始めたのだった。


 =======================

 1000年の時が流れたまだその先、やがてこの村に高名な冒険者の少年が現れるだろう。


 その者は神をも凌駕する強大なお方の加護を受けし者。

 多数の強き女性を従え、神獣を従え、堕ちし神をも従える。


 その姿こそ凡庸だが、内に秘めたるその力は勇者を凌ぐ者なり。


 しかし、勇者は堕ちて贖罪の王となり、やがて世界は混沌に陥る。


 その者、堕ちし勇者を抑える力持てども、力振るわず。

 その者、贖罪の闇の浸食を止めるすべを持てども、そのすべを選ばず。


 しかし、世界の混沌を退けるのはその者のみ。


 その者に伝えよ。


 世界を救う覚悟を決めるのだと。

 残りし想いを断ち切る決意を以って、その宿命に抗うのだと。

 =======================


 予言はこのようなものだった。


 正直予言のこの曖昧な表現は好きじゃない。

 どうせなら、はっきりこうだと言ってくれたらいいのに、と思うのはオレだけだろうか……。


 そしてこの少年って言うのはオレのような気がする。

 でも、違うといいなぁ……。


「これって絶対コウガさんよね? 今度はコウガは何をするの?」


 やっぱオレの事だよな……1000年以上前の預言者に予言されるってよっぽどの事なんじゃないのか……。


「いや、オレに聞かれてもわからないよ?」


「まぁコウガの周りで騒動が起こるのは決定事項?……にゃ」


 何気にルルーの言葉に反論できない……。


「でも、コウガ様。何か辛い決断を迫られるみたいな言い回しが気になりますね~」


 確かにそうなのだ。

 堕ちし勇者に関して、オレに不味いことが起こりそうで、しかもそれが力業で解決できなそうな事を言われてしまっている。

 オレは搦手には弱いと思うので、いつも以上に注意が必要だ。

 しかも、今回はジルの忠告まで受けているので、なおさら慎重に行動しなければならないだろう。


「それで、コウガ。これからどうするの? 場合によってはセイルに言って妖精界からジルに来てもらう?……にゃ」


 リリーに尋ねられるが、すぐ様決断できずにいた。

 何か今回の預言を聞いて、これはオレがその場面に出くわした時に、何かを決断できるかどうかの問題な気がするのだ。


≪コウガ様!?≫


 これからの行動について悩んでいると、突然、黙って後ろに付いて来ていたセツナが巨大な元のサイズに戻ってオレを庇うように駆け込んできた。

 気が付けばそのセツナの横には、テトラも大鎌のような獲物を出して構えている。


「お、おい? いったい何なんだ?」


 オレには殺気や危険は感じ取れていなかったので、少しあせって二人にそう尋ねるのだが、誘導されるように二人の視線を追いかけると……。


「な!? いったい何が起こったの!?」


「「こ、これは!? ……にゃ」」


 オレたちのいる村全体が、それこそ村の建物や田畑、村を囲む壁、そして……トットの話に気付いて遠巻きにオレたちの側までやってきていた村人たちまでもが、光の粒子に包まれていたのだ。


「こ、これは……」


 そう呟き絶句するオレに、光の粒子に包まれているトットが応えてくれた。


「あぁ。心配なさらないでください。これで私たちはようやく解放されるのです」


「え? いったいそれはどういう事ですか……?」


 そのオレの言葉に微笑みを返すと、驚きの言葉をつげていく。


「私たちは『ゾルデイム』に生み出された仮初の存在なのです。ただ、その予言を後世に伝える為だけに」


「そ、そんな!? トット様? それって……」


 よくみれば、トットたちが光の粒子に包まれているように見えたのは、包まれているのではなく、まるでその存在が幻だったかのように、その構成要素が光の粒子となって散っていく様だった。


「私たちを生み出した『ゾルデイム』の授かったギフトは一つだけではないのです。7つのギフトを授かった方でした。そしてその中のギフトの一つ『うたかたの夢』でつくりだされたのが、私たちであり、この村そのものなのですよ。しかし、これで私たちはようやくそのお役目を果たす事ができました。後世に伝えるべき予言はいくつもあったのですが、コウガ様? でしたかな。あなたに伝える予言が最後の一つだったのです」


 そう言って心底ほっとしたような微笑みを浮かべたトットは、その笑顔を最後に消え去ってしまったのだった。


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