【第22話:嬉しいんだな】
「なかなかの趣味のお屋敷だな……」
オレが見上げるその屋敷は、至る所に彫刻が施され、それら全てに金箔が張られていた。
前世の修学旅行で見た金閣寺もびっくりの金ぴか具合だ。
「わぁ! ぴっかぴかだね!」
リルラの無邪気な声に若干救われた気持ちになりながらも、気を取り直して出迎えにきた執事に連れられ屋敷に入っていく。
「わぁ! 中までぴっかぴかだね!」
中にまで建物のいたるところに彫刻が施され、そこに金箔が張られているうえに、様々な金の像が飾られていた。
「ハハハハ……ここまで行くと逆に関心するの……にゃ」
「目が痛い……にゃ」
「趣味が悪いわね。こんなの集めて楽しいのかしら?」
ヴィーヴルが吐いた毒に、前を歩く執事に内心謝りながらも歩く事5分。
これまた全面金色に輝く豪奢な扉の前に辿り着いた。
「それでは中にお入りください。メレンジ様がお待ちです」
ノックの後、扉を開けてくれた執事の横を通って部屋に入ると、そこは大きなソファーとテーブルが置かれた応接室のような部屋だった。
壁には煌びやかな装飾が施された剣や盾と、よくわからない抽象画が飾られ、室内には何やら甘い匂いが立ち込めていた。
「おぉ! よく来てくれたな。儂がメレンジなんだな!」
そう言って立ち上がったのは2mを超える大男だった。
この世界の冒険者には筋肉の塊のような奴もいるので、縦に大きいのはよく見かけるのだが、今目の前にいるメレンジと名乗った男は横にもかなり大きく、その迫力はオークロードに引けを取らないのではないだろうか……。
「!? 大きい人ですね~!」
「はははっ! 儂は元々冒険者をやっておったんだがね。怪我をして商人になってからは食べる事が趣味になって、気が付けばこんな横にも大きい体になっていたんだな。まぁ甘いチャイを淹れてあるので寛いでくれると嬉しいんだな」
たしかセイルから聞いた話では、元々Bランク冒険者として活躍していたらしいが、商人に転向後は商才に目覚め、たった一代どころかわずか数年でテリハイム共和国一の大商人まで登り詰めたそうだ。
その後、この国では貴族の権利を金で買える制度が昔からあるそうで、それで貴族になったのち、取引のあったこの街の領主に気に入られ、婿養子として迎えられる。
そして数年前、義父が亡くなって当主になったメレンジは、翌年には議会で選出され、今度は首相の座について国の政治の代表になったという話だった。
「それでオレたちを呼ばれたのはどのような用件でしょうか」
メレンジは思っていたより悪い感じはしない男だったが、それでも場合によっては力尽くでオレたちを連れてくるように指示をだしていたのは確実なので、油断しない方がよいだろう。
「おぉ。そうだったんだな。冒険者ギルドからとある報告が上がってきたんで、それなら直接コウガ殿に聞いた方が早いと思ったんだな」
呼び出された理由は思っていた通りの理由だった。
ギルドに書面で報告した内容をもう一度話すだけなので少し面倒だが、仕方ないのである程度直接話を通しておこう。
「実はオレの持つ信頼できる情報筋から、魔王軍6魔将最後の生き残り『陰謀のバラム』が、良からぬことを企んでいるという事がわかったのですが……」
そう言って渡せる範囲内の情報を包み隠さずメレンジに話していく。
情報の入手手段が妖精たちやジルの千里眼などという事は話せなかったが、概ね今回の企みで掴んでいる情報は伝える事にした。
しかし、次第に顔色を変えていくその姿は、先ほどまでの堂々とした姿とはうってかわって見ていてこちらが心配になるほどだった。
「どどど、どうしてそんな事をしてくるんだな! うちの国は商業が中心の国だから、そんな強力な者たちに暴れられたら収拾がつかなくなるんだな!」
こちらが掴んでいる情報でも、騎士団や傭兵団は数こそ揃っているが、強国から1段か2段は落ちる強さなので仕方ないのかもしれないが、せめてもう少し動揺を隠せばいいのにと思ってしまう。
まぁでも、この国の一般の人々が被害を受けるのは放っておけないわけで、オレたちも力を貸すので協力をして欲しいとお願いしておく。
「おそらく正面から戦えばさっき話した『穢れた勇者』たちはオレたちが何とか出来ると思います。メレンジ様は裏をかかれたりしないように街の警戒をお願いします」
「おぉ。コウガ殿たちのような強者が対応してくれるなら、ひとまずは安心なんだな! 街の警戒は強めておくので何とかして欲しいのだな」
そしてお金なら出すから、頼むんだなと握手を求めてきた。
脂ぎっていそうな手を見て拒否したい気持ちでいっぱいだったが、さすがに国家元首の握手を拒否するわけにもいかず、心を無にして握手をかわす。
そっとハンカチを差し出してくれるリリーに感謝!
ちなみにこのテリハイム共和国では、貴族が絶対の力を持つ王国や帝国とは違い、平民と貴族の垣根が低い。
その点に限っては、一般市民にとっては他の国より喜ばしい事なのだろうが、商売で成りあがるものが多いためか、何でもお金で解決しようとするところが如何ともしがたい。あと金ぴか成金趣味も……。
「オレたちは依頼で来ているので、お金は別に良いのですが……」
そう言って断ろうとすると、もう一度手を取られて、
「そ、そんなこと言わず! 気持ちだから受け取って欲しいんだな!」
と迫られたので、気持ちを汲んで貰っておくことにした。
決して早く手を放してほしいからではない。
こうして話を終えたオレたちは、領主館を後にして、いよいよ作戦行動を開始するのだった。




