【第21話:餓狼と鉄塊】
半日だけの余暇を楽しんだオレ達は、翌日、ギルドに紹介されて泊まった宿屋『星蓮の輝き亭』1階の食堂で少し遅めの朝食をとっていた。
すると、突然扉を勢いよく開けて入ってきた者たちが現れる。
「邪魔するぞ~! ここにコウガとかいう奴はいるか?」
振り向くと、そこには冒険者風の男たちが食堂をぐるりと見まわしていた。
その中でもひときわ大きな男がオレと目が合うと、
「お? お前がコウガだな?」
と言って、近づいてくる。
「あぁ。オレがコウガだけどお前たちは?」
「俺たちはこの街の傭兵ギルド所属の『餓狼』傭兵団のものだ」
そう言った男たちをよく見てみると、装備こそバラバラだがそれぞれの装備のどこかに、狼のシルエットのような焼き印がされている。
「なるほど。それでその傭兵団の人たちが、オレたちみたいな冒険者に何の用かな?」
そう言って少し警戒したからだろうか。その男は両手を軽く上げておどけてみせる。
「おっと。そう怖い顔するなよ? 俺たちはこの街の領主であるメレンジ様にお前たちを連れてくるように言われただけなんだ。S級冒険者パーティーに喧嘩なんて売らないさ」
オレたちの事は知っているようで、特に高圧的に接してくるわけではなさそうだが、今日は少し起きるのが遅くなってしまいオレたちはまだ朝食の最中だった。
「そうか。だけど、オレたちはまだちょっと食事中なんだが……?」
「あぁ!? 下手に出てたら調子にぃ!? ごばっ!?」
後ろにいた髭もじゃの男が何か言いかけたが、凄まじい音をさせて拳骨を喰らって今は頭を抱えて蹲っていた。
「い、痛そうです……」
リルラが若干ひき気味に呟いているが、話はそのまま進んで行く……。
「そらすまねぇな。突然だったし、まぁゆっくり食ってくれ。オレたちは外で待っているからよ」
「そうか? 悪いな。なるべく急ぐ」
オレがそうこたえると、何事も無かったように蹲った男を扉の外に蹴り飛ばすと、そのまま外に出て行ったのだった。
~
「な、なかなか豪快な奴だったな……」
「そうですね。ちょっとびっくりしましたわ」
ヴィーヴルも爺さんに似たような事をしていた気がするが、大人なオレはそんな事に突っ込んだりしないのだ。
「とりあえずこちらから接触するつもりはなかったけど、やっぱり声がかかったし面倒だけど食べ終わったら向かうとするか」
「はい。思ったより動きが早かったですが、一度は会って直接説明を求められるのは想定内ですし……にゃ」
「でも、傭兵が迎えに来るのってどうなの……にゃ?」
「傭兵ギルドを優遇してるし、きっと都合よく使う駒として使っているんだろうな」
妖精のセイルからも傭兵ギルドの傭兵たちを、騎士団に命じるのが法に触れてしまうような事案に使っていると聞いているので、オレたちが応じなければ無理やり連れてくるようにでも言われたのだろう。
まぁそれが出来るかどうかは別にして。
~
食事を終えたオレたちが宿の外に出ると、30人ばかりの武装した男たちが出迎える。
気配でわかってはいたが、別に普通に迎えにきたら抵抗なんてしないで会いに行くのにご苦労なことだ。
「待たせたな。それでその馬車に乗ればいいのか?」
さすがに歩いて向かう訳ではなかったようで、我が国で貴族が使っているような立派な馬車が用意されていた。
「あぁ。その馬車で頼む。オレたちはお前たちの護衛のようなもんだと思って気にしないでくれ。上が心配性なもんでな」
「わかった。ドーマスが護衛してくれるなら安心してゆっくりできるな」
セイルから聞いた情報にあった元S級冒険者で傭兵ギルドに鞍替えした男の名前がドーマスだった。
ただ、別に男の佇まいや気配から強さを感じて名前を特定したわけではなかった。
うちの妖精さんの情報は、現代社会もびっくりの3D映像なので間違えようがないのだ……。
正直、この男から感じる強さは今まで会ったS級冒険者や元S級冒険者の者たちと比べて、間違いなく一段階落ちるだろう。
もしかするとうちの街に来てくれた『赤い狐』のジョゼさんの方が強いんじゃないだろうか?
「こいつは驚いたな! 俺みたいなとっくに冒険者をやめた者の名前まで調べてきているとは、さすが話題のS級冒険者様だ。まぁ不要なのはわかるがこれも命令でな。ぞろぞろついて行くけど気にしないでくれよ」
「なんか悪いな。それじゃぁよろしく頼む」
そう言ってオレたちが乗り込むと、御者が発車しますと声をかけてきて馬車は動き出した。
もう一人の元S級冒険者の男の評判が、かなり悪いみたいなので少し警戒していたのだが、情報通りドーマスの方は話が通じる男で、とりあえずはトラブルは避けられたようだ。
「口は少し悪いですが、思ったよりまともな人ですね……にゃ」
「そうだな。もう一人のゲイマンって元S級冒険者の方は、裏で酷い事しまくってるようだから、迎えに来たのがドーマスの方で良かったよ」
ゲイマンって言うのが、ここのギルマスのテリルロントがぶくぶく太ったとか愚痴っていた男だ。
傭兵ギルド最大の規模を誇る傭兵団『鉄塊』を率いる傭兵団長だが、この傭兵団の評判が最悪だった。
「穢れた勇者の件が無かったら、鉄塊とかいう傭兵団を殲滅したいのに!」
ヴィーヴルがセイルから受けた報告を思い出したのか、少し怒気を強めてそうこぼす。
「穢れた勇者の件が終わったらこっそりやればいい……にゃ」
ルルーが何かサラッと怖い事言ってるけど、他の国とはいえ盗賊紛いの事までやってるようなので検討しても良いかもしれない。
そんな会話をしていると、どうやら目的の場所に着いたようで御者から声がかけられた。
そして馬車から降りたオレたちの前には、いかにも成金趣味の大きな屋敷が聳えるようにたっていたのだった。
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諸事情で更新が完全に止まってしまい申し訳ありませんでした。
事情などは割烹で見て頂ければと思いますが、とりあえずは今日から
更新を再開いたしますので、ご愛読再開して頂ければ嬉しいです。
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