【第16話:低姿勢で仲良く】
テリハイム共和国の南西に広がる小さな森に転移してきたオレたちは、これからの行動について確認をとっていた。
「じゃぁ、まずは適当な宿屋を確保した後、冒険者ギルドにてギルドマスターとの面会に向かう。既にカリンから魔法郵便で連絡は入っているはずだから大丈夫だと思う。それに、オレも念のために領主としての書簡を持ってきているから、会うのはそれほど難しくないはずだ」
「そこで協力をお願いするのですか?……にゃ」
リリーのその問いにオレは首を振ってこたえる。
「いや。下手に協力をお願いして冒険者を巻き込んでも被害が増えるかもしれない。国に連絡して貰って警戒体制をとってもらうぐらいにとどめた方が無難だと思っている」
情報収集にしても、うちの妖精さんやジルの千里眼による監視の方が数段上だろうから、下手に動かれてこちらの動きがバレるのは避けたい。
余計な事はしないようにお願いしておこう。
「それで、私たちはどう動くの?」
ヴィーヴルが顎に人差し指を置いて、少し首を傾げてそう聞いてくる。
「そうだな。まずは……観光でもしようか」
~
テリハイム共和国の首都デリス。
その門の前でオレたちは、いきなり予定が狂わされていた。
「ちょ、ちょっとお待ちください!! ど、どうぞこちらでお寛ぎになられていてください!」
門衛に冒険者であることを証明するギルドカードを見せたのだが、そこで騒ぎが起きた。
ちょっとオレたちも感覚が麻痺していたのだ。
S級冒険者と言うのが、どれほど凄い存在なのかと言うことを……。
「コウガ様。どうしてここで待つ事になったのですか?」
リルラがそう言うと、ルルーが軽くため息をつきながらこたえる。
「S級冒険者は一人で騎士団を相手にできる戦力。そのS級冒険者が5人とSランクの従魔のセツナ様がいきなり街に入ろうとしたので、ちょっとした騒ぎになっているよう……にゃ」
普通はS級冒険者になるような者は一人で活動しているか、A級冒険者を率いるパーティーを組んでいる。
それがS級冒険者だけのパーティーが、さらにSランクの従魔を一匹連れて街に入ろうとしているのだ。
それも他国で登録された冒険者だ。警戒もされるだろう。何故気付かなかった……。
「参ったなぁ。こんな事なら領主の権限で、別の身分証を発行すれば良かった」
そうなのだ。初めからこうなる事に気付いて入れば、オレが領主として身分を保証する身分証を全員分発行しておけば、こんな騒ぎにはならなかったのだ。
普通は会うことも難しいS級冒険者だが、なぜかオレの周りにはS級冒険者や元S級冒険者の知り合いが何人もいたし、オレたちのそばにはジルがいたので、常識が麻痺していたのだ。
オレたちも、ジルやリルラみたいにならないように気をつけなければ……。
「ん? コウガ様……? 私をジッと見てどうされたのですか?」
こうして見るとリルラは美少女お嬢様といった感じなのだが、これで1200歳を超えているのだから信じられないよな……。
「むぅ! 何か失礼な事を考えている気がするのです!!」
結構鈍感なリルラだが、何かに気付いて頬を膨らませている。
でも、単に可愛い以外のなにものでもないのだが。
そんな事をしていると、通された詰所の部屋の扉を叩くノックの音が響く。
「はい。どうぞ~」
返事を待って入ってきたのは、どう見てもかなり偉い人物なのだろう。
使い込まれた鎧に身を包んだ40歳前後のその男は、目に見えるのではないかと言うほどの覇気を纏い、装飾の施された魔剣を腰に携えていた。
鎧も魔剣もどちらも秘宝級以上の業物ではないだろうか?
続いて他に若い二人の騎士も入ってきたが、いずれも秘宝級と思われる武器防具を纏っていた。
オレはすぐに椅子から立ち上がり、
「S級冒険者パーティー『恒久の転生竜』のコウガと言います。お騒がせしてしまっているようで、すみません」
そう言って頭を下げる。
うん。何事もまずは低姿勢で仲良くいこう。
「ほう。これはご丁寧に。儂はこの首都を守る魔導騎士団『鋼の盾』の隊長をしておるキンドリーじゃ」
魔導騎士団『鋼の盾』と言えば、共和国最強の騎士団だ。
確か100名ほどの精鋭で構成されており、それぞれが秘宝級以上の武器と防具に身を包み、その能力を大きく向上させており、並の騎士団では太刀打ちできない強さを誇っていると聞く。
そこの隊長がいきなり出てくるとは思っていなかった。
「これはこれは。共和国最強の騎士団の隊長様とは。それで街には入れて貰えますか? 一応、とある依頼で訪れたので、冒険者の権利を主張させて頂きたいのですが?」
冒険者が依頼を達成する上でその街に訪れる必要がある場合は、特別な理由がない限りは拒むことは出来ないとされている。
「あぁ。儂は街に入る理由や事情を聞くためと、お主らの人となりを見極めるように上から命令されたから来ただけじゃ」
それは喋ってしまって良いのかと思いつつ、大丈夫ならまぁ良いかと聞き流す。
「それで……オレ達は大丈夫ですか?」
「あぁ。大丈夫だろ? そもそも儂じゃお主らは止められそうにないしなぁ~」
そう言って大笑いするキンドリー隊長。
しかし、一緒に部屋に入ってきた騎士の二人は、その言葉に目を剥いて驚いている。
「はぁ。それはわかりませんが、通して貰えるなら助かります」
「しかし、揃いも揃って化け物ばかりじゃの~。儂が束になっても勝てぬ者ばかりとは思わなんだ。冒険者ギルドもS級で一纏めにせずに、その上のランクも作るように言っておいてくれ」
若い二人の騎士はその言葉が信じられず、不満そうな表情を浮かべていたが、キンドリー隊長に逆らって意見を言うような事はしないようだ。
「ランクの事はともかく、後でこの街の冒険者ギルドのグランドギルドマスターに話をしに行きます。そこから私の依頼に関するとある情報が行くかもしれませんので、その際はよろしくお願いします」
恐らくこの後冒険者ギルドから国に報告が上がったら、キンドリー隊長にも話がいくだろう。
その際に、少しでもしっかりと動いて貰えるように前振りをしておく。
「ほう。お主らほどの者たちからもたらされる情報だ。余程のものなのだろうなぁ。楽しみに待っておるぞ?」
そう言い残すと、またガハハと笑いながら部屋を出て行ったのだった。
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少し間が空いてしまい申し訳ありません。
他の作品の執筆と公開サイトの拡大と体調不良が重なって、
執筆が思うようにできませんでした<(_ _")>
明日からまた2、3日に1回の更新ペースに戻ると思いますので
引き続きよろしくお願いします(*ノωノ)
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