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☆
懐かしい声が聞こえる。
森にいた頃の声。
その声はどこか朧げで、何か語りかけてくるような声。
その声を探そうと見渡すが、何も見えない。見えるのは生い茂った木々の緑。
昔から聞こえていた声。
ずっと聞こえる。
まるで笑っている声であり、悲しげな声。
何も返事は出来ない。何もわからない。
僕が森に捨てられた時から見守ってくれている。何をすれば見えるのか。僕にはわからない。
子供はいつしか意識を捨ててー
☆
「…」
懐かしい夢を見た。そう言えばこの前の森に似ている声の妖精がいた。
あの声は妖精だったのだろうか。
脳がしっかりと動いてくれない。いつのまにかうつ伏せで寝ていたようだ。昨日は果実を食べてからの記憶がない。
腹に何かを入れたら眠くなってしまったのだろう。今日は何もない日。僕が生まれてから十五年経った。そして同時に捨てられてから三年が経った。
まず今の生活に色が無いから何も思わない。今日も一つ依頼を受けて帰ってこよう。
☆
「…」
「すまない!行ってくれないか!」
なんでこうなってるんだろうか。テーブルにはギルマスと僕が座っている。僕の前には一枚の依頼書があった。
依頼書の内容は学園に入学し、召喚された勇者の護衛をすること。そして、勇者に何かがあった場合には責任を取ること。つまり、勇者という何かが死んだ場合、死ねと言うことだ。理不尽ここに極まれり。
しかしながら、自分には生きる意味が少ないので、これもまた一つ有りか。
何故僕が選ばれたのかと言えば『ランクがDランク以上であり、年齢が十五以上二十以下である事』と言うことで、選ばれた。
異世界人と言うのはなかなか勉学が優れているそうで、非常に素晴らしい。と古文書には書いてあった。
「いいですよ、もうどうせ捨てる命ですので」
「え?」
と後ろにいたメイさんが声を零した。
☆
勇者さんがいる王城に来た。予めもらった証明証を門番に見せると中に案内された。
鍛錬場の中に入ると門番は戻っていった。
少し歩くと前方にそれと思わしき集団があった。今は剣の練習か何かだろう。教官の様な人に話をしてどう言った事をすれば良いか聞けばいい。
「王様が何を考えているか知らないが、頼まれた以上、やってくれ」
と後ろから話しかけられた。
振り向くと女性が鎧を着て立っている。
「はあ、格好からして騎士団か何かなんでしょうか」
「まあそうだな」
「でしたらあちらにいる騎士団の方に話をつけてもらっていいですか」
「あぁ、構わないぞ」
そう言って団体の方に行った。
すると団体が前に来た。遠くだったからわからなかったが十人ほどだった。男子三人の女子七人だ。さっきの女の人と後ろにいる男を除くと二人と六人のようだ。
勇者さんたちは美形な様で、見ていても違いがわからない。
同じ顔にしか見えない。しかしながらしっかり見てみると少し違う様だ。
「ほう、そなたが…?」
と貫禄のある髭を触りながら近づいて来たのは騎士団長だ。
それよりも目立つのは黒髪の子達である。自分も黒髪だから、似ているかもしれない。
一人が騎士団長と何か話している。話し終わるとこちらに話しかけて来た。
「ふん、お前には特に敬う必要はなさそうだから言っておくが、俺たちはお前の助言なんていらないからな。お前は突っ立てるだけでいいんだよ」
お高くとまっている人だなぁ。
「よろしくお願いします」
挨拶をしたところで、学園にはいつ行くのだろうか。と思ったところで
「揃ったから学園に行くぞ。とは言え俺は訓練があるから行けない。という事で冒険者、連れて行ってやれ」
「あ、はい」
という事で…着きました王都立学園。あの後に聞いた話では転入手続きは終わっているらしい。
特別クラスに入るようになっているらしい。僕の器用貧乏具合にも磨きがかかりそうだ。
☆
私は、勇者として召喚された愛菜と言います。
鍛錬を重ねている時に、冒険者さんが来ました。その冒険者さんは器用貧乏と言って、ステータスの上昇は早いけど、あるところを境に全く伸びなくなるという話でした。
ところがその冒険者さんはどこか達人の域に達しているのではないかと思ってしまうほどに隙がありませんでした。
そして学園に行く途中、その方は様々な人に声をかけられてました。その声は『おかしい』と皆口を揃えてそう言います。何がおかしいのか判りませんがその時だけはその方…ジャックさんはずっと『僕しかいないんです』と言っていた。
何故なんだろう、私には分からない。けど、必ずジャックさんには何か不気味なものがある。と確信してしまう。
初対面でそんな印象を抱いた私はジャックさんと馴染むことが出来なかった。一ヶ月後に惚れるとも知らずに。