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僕はジャック、ただのジャック。何でも出来るし、何も極められないただのジャック。
所謂器用貧乏と言うやつだ。
この世界にはステータスなる物があり、その人の筋力値や、知能などを表す物だ。そのステータスの中には職業や、名前等の個人情報も含まれている。
センス、才能と言ったことを示す欄もある。
そう、予想できるでしょう。僕の職業は勿論器用貧乏。そして才能は全て普通の人の少し上。つまり、何をしてもせいぜいその分野の中の上に届くかどうかと言う事だ。
さて、それ自体はどうでも良かった…が、生憎と僕の生まれは辺境の地にある代々剣術の達人を輩出している貴族の家であった。
その家では剣術が最も高い才能がある人がほとんどで、僕のような器用貧乏は、蔑まれていた。
その結果、捨てられた。
そんな過去がある僕は今現在、Dランクの冒険者試験を受けている。
家から捨てられてからというものお金がないから野宿を繰り返して、冒険者として活動出来るように銀貨一枚を稼いで等をして冒険者として最低ランクのFランクから今のEランクになって、依頼数を稼いで今に至る。
Dランク認定試験に合格すると晴れてDランクになれる。
そんな訳で今はギルドの闘技場に来た。
向かいにいるのはCランカーの男の人。
名前は判らない。髪は…冬の季節、更に顔も怖いから女性に好かれなさそうだ。
「おい、Eランク。やるぞ」
この試験は相手の冒険者が認める、もしくは立ち会っているギルド職員さんが合格とすれば良い。
「はい」
「やるぞと言っているんだ。構えろ」
「はい」
とまぁ構えるけど僕は器用貧乏だから全てそこそこだ。なので色々な得物を使うため、
「ほう、杖と剣か」
「よろしくお願いします」
試験官の得物は剣と盾。それならば魔法で牽制してから剣で攻撃が安定かな。
「ファイアボール!」
相手は盾で魔法を防いで僕の出方を見ようとしているようだ。それだったらファイアボールを目くらましにして、もう一度ファイアボールを撃とう。その後距離を詰めて行こう。
「ファイアボール(小声)」
そして走り出す。
すると一つ目のファイアボールを処理した試験官が盾を外して攻撃する体制に入ろうとした時、
「ゔっ、こんにゃろ!」
と回避をしたところを思いっきり剣で叩く!
周りに鈍い音が鳴り、試験官が倒れ込んで僕が剣を向けて試合終了。
「これで合格を貰えますか」
「…俺は認めねぇ…。たまたまだ。絶対にありえねぇ!」
「…そうですか。職員さん、今の勝負で合格が貰えないのですが、僕はどうすればいいのでしょうか」
「いえ、大丈夫です。貴方は合格です。それと、アルさん。後で来て下さい」
と、始めは朗らかな笑顔をしていた職員さん(女の人)は試験官の方を向くと般若の顔をしていたー
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「ジャックさん、貴方は合格したのでランクアップしました。しかし、自惚れぬこと無く弛まず努力をするように」
と事務員の女性はマニュアルのような事を言った時、少しだけ微笑んで
「頑張って下さい」
と言ってくれた。
うれしい。
まあ、そんなこともありながら図書館に来た。
今は午後になった頃だと思うから、夕方ぐらいまで調べ物をしようと思ってここを訪ねた。
入場料の銅貨二枚を受付の女性に渡して入った。
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かれこれどれくらい経っただろうか、もう周りで本を読む人はほとんどおらず、司書さんが本の整理をしている。
僕は固まっていた身体を伸ばして読んでいた本を戻して帰った。
最近のマイブームは哲学的な物だ。この一ヶ月で読んだものと言えば
『人は何故生きるのか』
『魔物は何故魔の物なのか』
『何故人はプライドを持ち、堕ちていくのだろうか』
『宙には何があるのか』
『宗教とは』
『異界人は何故現れるのか』
等だ。
特に好きなのは『人は平等を謳い、差別をする』だろうか。
この本にはかなりの衝撃を受けた。人の心について書かれており、抜粋するのならば
『人は本能で差別化を図り、理性で平等を謳う』
と言う言葉だ。
この言葉は妙に納得できた。
そして、今泊まっている宿に着いた。中では料理が振舞われており、別料金ではあるが中々美味しい。それに、外の出店よりも少しだけ安いため好んでここで朝食と夕食を食べている。
厨房から出てきた馴染みのおばちゃんに挨拶をして席に座る。
少しして出てきた料理はラビットと言う魔物のお肉を使ったシチューだ。とっても美味しかった。
さて、今日一日疲れたが乗り切った。
明日はDランクの依頼を受けてみようか。
身体をベッドに倒して、今日のことに思い耽ていると瞼はいつのまにか落ちていた。
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聴こえる音は馬車が走る音。
ここはどこだろう。
「ぐへへ、お前ガァ、お前がいけないんだぞぉ?」
と喋りかけてくる声は今日の試験で聞いた声だ。名前をなんて言うか忘れたけど、その人だろう。しかし昼間はこんなに粘っこく喋る人ではなかったと思うが。
目を開けても何も見えない。布でも巻かれているのだろうか。喋ろうとしても口にも布の感触があるため無駄だと判断できる。その他にも足と腕が縛られているようだ。
縛られて喜ぶたちではないので、非常に憤りを感じる。
「さぁて、ついたぞぉ?」
と言った時に聞こえてくるのは風がなびいて森の木々達の音だ。あの街に最も近い森は魔の森。文字通り魔物が多く出ることで有名な森だ。
もう予想は出来た。僕を排除するのが目的だろう。為されるがままに森に放り出された。
「ふん、それじゃあな」
それを機に馬車の音は遠ざかっていった。残る音は森の音と少しだけ降ってきた雨の音だけだった。
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森の音が二十三回鳴った時、遠くから小さな声が聞こえてきた。
女の子の声だろうか、本当に小さな声で話している。そして僕に近づいていた。足音はしないが、人間なのだろうか。
「お兄さんお兄さん、どうしたの?」
と甲高い声が聞いてくる。
「喋れない?」
と聞かれたため首を縦に振った。対話ぐらいはできる状態じゃないと何もできない。
「そっかぁ、じゃあ外すけど、何もしないでね?」
少し首を振って対応する。
すると少しだけ風が全身をなびかせた。
そして、その声の主と対面する。
そこには空を飛んだ小さな女の子がいた。