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スタンドバイ

 観覧車から降りた後、せっかく来たんだから遊んでいこうよなんて言うみやに「仕方ねぇなあ」なんて言ってた中目黒があれ乗りたいこれ乗りたいって一番はしゃいでいた。それを花ちゃんが「こっちのほうがいいよ」なんて言って、それに従う中目黒。それを見て「なんだかんだ言って仲良いじゃん」って茶化すみや。りのはそれを携帯のカメラでたくさん写真を撮っていた。「いいねぇ、青春だわ」ってつぶやきながら。皆でジェットコースターに乗ろうっていう中目黒に最初は遠慮していたけどみやに「あんたも乗んの」って手をひかれて半ば強制的に乗せられた。シートが固定された時、僕はひどい顔をしていたんだろう。横に座るみやが焦ったように「大丈夫だから」って言って僕の手を握ってきたから。とはいえジェットコースターのスピードとフワフワした感じは案外気持ち良かった。遠くの景色を見ている分にはいいけどやっぱり下を見ると何とも言えない恐怖心が湧いてきた。んじゃ下見なきゃ大丈夫なんじゃない? なんて思いながら。一通り回って遊園地を出る頃には夜が近くなっていた。

 駅へと向かうバスの中で僕は心地よい疲れを感じていた。目を閉じたらあっという間に眠ってしまうような。バスの一番奥に五人で座って、さっきりのが撮っていた写真を皆で見ながらまた来ようねなんて誰からともなく話が弾む。そんな事がただ嬉しく思う。バスはあっという間に駅についてしまった。

「それじゃ、皆お疲れ!」

 りのが解散の合図をとる。なんとなく名残惜しさを感じながら駅のホームへ向かう三人を見送るようにじゃあねと手を振る。僕とみやは三人と別方向なので一緒に。

 学校から帰る時と道は違うけど結局僕らはいつものように他愛のない話をしながら歩いていく。笑ったり怒ったり、泣いたりしながら。素直になれる僕はきっと安心している。みやはどう思ってるかはわからないけど、それでいいんじゃないかなと思いながら。

「なんかいい匂いしない?」

 そう言って、みやが鼻をくんくんさせてあたりを見回している。

「あそこじゃない? 上の方明るくなってるし」

 僕は道の先の神社を指さす。

「ちょっといってみない?」

 新しいおもちゃを見つけた子供みたいな顔のみや。

「もちろん!」

 僕もそれにのる。

 神社に近づくにつれて行き交う人の数も多くなり、境内に向かう階段を登りきるとライトアップされた桜と入り口近くに屋台の明かりが見えた。「ヤバい、めっちゃいい匂いする」なんていいながらみやはベビーカステラの屋台の列に並んでいた。僕はいくつかある屋台の中からあまり人が並んでいないたこ焼きを買う事にした。境内の端にあるベンチに座るとみやはベビーカステラを口に放りこんだ。おいしそうに食べるみやの横顔。たこ焼き食べてもいいよって言ったら「マジで? ありがとー、甘いの食べたらしょっぱいのだよね」って言いながらベビーカステラをくれた。

「みやって何か食べてる時、幸せそうな顔するね」

「まーね、集中できるから」

 そう言いながらまたベビーカステラを一つ口にいれる。

「何それ? 動物みたいじゃん」

「今バカにした?」

「少し」

 みやに無理矢理ベビーカステラをこれでも食らえと口に入れられる。甘い砂糖の匂いが広がる。

「うちはいいの。これでも色々悩みとかあるから」

 あっという間にベビーカステラを食べきったみやが珍しくため息をついた。

「なんかあったの?」

「聞いちゃう? それ」

「あ、言いたくなかったらいいよ」

 僕は多分弱虫だ。これから何を聞くのか、聞いてしまったらそれがどういう事であれ残ってしまうのが少し嫌だった。こういう言い方は良くないと認識したうえで言ってしまう。

「別に聞かれて困るような話じゃないから。例えばよくあるこんな話。ある人は自分の好きな人と両思いなんだけど自分はそれを知らない。知っているのは周囲の人だけ。相手はその人の気持ちを知っているけどある理由があって今は伝えられないって話」

「……それって中目黒たち?」

「どうだろうね?」

 はぐらかすようにみや続ける。

「理由があるせいで断られた相手の気持ちはどうなるの? それすら知らずに。どんな理由があっても伝えた方がいいよとか人は言うけど本人は絶対に言えないみたいな。そんな事を考えてると自分がどんどん嫌な人になってる気がするんだよね」

 みやが苦しそうに笑う。自分のほっぺたをペシペシ叩きながら「ごめん、うちらしくないね。……帰ろっか」と立ち上がる。僕は気の利いた言葉でも言いたかったけど何も言葉にならなかった。歩き始めるみやを後ろから追う。寂しいそうな背中を見ながら。

「みや、ちょっと待って」

 振り返るみやにちょっとそのままと言って携帯を取り出す。ライトアップされた桜と風に散る花びらがキラキラしていた。人はまだ多いけど別にかまわない。みやが真ん中に写るように僕はシャッターを切る。気の利いた言葉の代わりにもならないけどこれが今できる最善だと思うから。

「ちょっと。恥ずかしいじゃん」

「それじゃ二人で撮る?」

「そう言うのは彼女とやってください。もう行くよ」

 みやはふてくされたようにすたすたと歩いて行ってしまう。それでも少し笑っていたように見えた。

 

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