サークル
カラスも家に帰るんだな。そりゃそうか、もう日が暮れる。綺麗な茜色に染まる空がなんとも言えない風情をだしていた。遠くの空には一番星がフライング気味に自己主張している。あと何分間かしたら僕らは地上から約百メートル高い所まで行く。そして必ず帰ってくる。一番星って言うけどどれでもいいんじゃない? ああカレーが食べたい。なんとなく家に居る安心感がたまらない。ああ、観覧車なんて嫌いだ。
「遠くの町までよく見えるよ、ほらあれうちらの学校じゃない? ちっさいねぇ。ちょっと見てってば、動物園のゴリラもちっさ。あれぐらいなら負ける気しないね! ねぇどしたん? 皆コミュ障かい?」
一人テンションを上げるりのに誰も返事をしなかった。僕はりのに相談した事を今心の底から後悔していた。
最後のスタジオ練習が終わった後、僕はりのに皆で集まって話がしたいからそれを皆に伝えて欲しいとお願いした。リーダーのりのの方が僕より良いと思ったから。真っ先に僕の意思を伝えた上で。りのも僕と同じ気持ちだとも伝えてくれたので少し泣きそうになった。普段、何を考えているかわからないけど頼りになるリーダーだと思う。高くつくけどいい? なんて冗談も可愛いく思うほどだった。そしてその後すぐに集合場所と日時が送られてきた。そこで気づくべきだった。それはいつものファミレスではなく駅前のロータリーだったから。
6人乗りの観覧車は静かに回っていた。男二人と女三人に分かれて座る観覧車はイメージと違い広く感じた。けど僕にとってはそんなこと関係なかった。高所恐怖症の僕にとっては。
「……なんで、観覧車なん?」
みやがつぶやくとりのはその質問待ってたと嬉しそうな顔をする。
「いつものファミレスでも良いんだけど、だらだら過ぎそうだったから時間制限のあるこっちのほうがいいかなーと思って。ちなみにだいたい十五分。まとまらなかったらもう一回りしてもいいかなと思う。ほら早く話さないと時間切れになるよ?」
りのが悪そうな顔をしている。自分の役目はここまでみたいな。僕にとって二週目は地獄でしかないので手短に僕のほうから話す事にした。
「この間スタジオで録音したやつ何度も聞いたんだけどすごいひどかった。皆も聴いたでしょ? ドラムもベースも。もちろん自分のギターも。りのもみやも合わせようとしてくれてたのにさ。むしろその前のスタジオ練習で録音した曲の方が良かったもんね。あの時の曲を聴いてくれた人も気を使うくらいひどかった。何年かしたら皆バラバラになるかもしれ。でも自分は、皆とライブやりたいなって思ってる。皆はどう?」
「うちはアンタと一緒。今さらメンバー代えるのいやだし」
みや、ありがとう。りのはなんか遠くの方を見ている。まあ、いいや。あとは中目黒と花ちゃんだけだ。横に座る中目黒に視線を送る。窓の外の景色をできるだけ見ないようにして。
「……俺は、花がいいならそれでいい」
「……私も、中目黒がいいなら」
二人そろってそれはないよ。
「それって一緒に続けるって事?」
「「だからどっちでもいいって」」
声をそろえて言わなくてもいいじゃん。仲良しかって。
「二人の間に何があったか深くは聞かないから仲直りしない? また前みたいに皆で」
中目黒はうつむいていた。
「花ちゃんも、ね」
真ん中に座っていたみやが花ちゃんの肩をぽんと優しく叩く。
「……花、今さらだけどごめん。俺、態度にだしてたのすごい最低だった」
「私も、なんかイライラしてた。また、一緒に練習してくれる?」
「……うん」
みやが握手しなよ、仲直りのって煽ってるのがなんか微笑ましい。この感じ久しぶり。二人とも恥ずかしそうにしっかり握手をしていた。とりあえず一安心。
「そういえばさ、りのはどっちなん?」
中目黒が思い出したように口を開く。そういえば途中からりのはうつむいたまま話していない。皆の視線が合う。この感じ。皆がうなずくこの感じ。
「このドア開くかな」
「落としちゃう?」
「落ちても気づかないんじゃね」
「寝てるみたいだし」
りのが慌てて口を開く。
「ちょっと待って聞いてたちゃんと聞いてたよ。私はほらリーダーだから公平な目を持って判断しないとだから、ってひどくない?」
寝てた奴が何言ってんだよって中目黒が笑うと皆つられて笑った。
なんだかんだでりのの言う通りにだいたい一週回るぐらいでなんとかなった。それが計算通りなのかどうかはわからないけど。僕はただこの時間が長く続く事を願う。観覧車はごめんだけど。ライブの日まで、残り時間もないけど大丈夫だって思うから。