デッドマンウォーキング
当たり前だと思っていた事がそうでなくなる時のなんとも言えない感じ。諦めに近い納得を吸い込んで吐き出したのは多分願いなんだと思う。バラバラになったパズルならまた組み上げられるだろうし。きっと。そんな事を考えながらいつもより重く感じるギターを肩にかけ、一人歩く帰り道。
スタジオで録音した曲をリピートで聴きながら駅へ向かう途中に、思いのほか雨が強く降ってきたので大通りにある本屋さんに寄ることにした。靴の先が濡れるのと同じくらいギターが濡れるのいやなんだよな。夕立ぐらいならすぐにやむかもしれない、そんな事を考えながら。店内に入るとエアコンの乾いた匂いがした。通路が狭いのに割と立ち読みをしている人がいる。どの人も真面目な顔をして本を探しているって当たり前か。笑いながら店内をうろうろしている人がいたらそれはそれで。背中のギターに注意しながらぐるり店内を物色していると自分が大好きなバンドが表紙の雑誌が目に止まる。バンドの結成秘話なんて書かれたらもう買うしかないじゃん。雨が止むまでの時間つぶしのはずがあっという間に終わらせてしまった事を後悔して店を出ようとしたとき、入った時には気づかなかったが通りに面した入り口の横の方に休憩スペースがあったので休ませてもらう事にした。本も買ったし。四人掛けの丸テーブルが二つ。窓際に観葉植物が置いてあって、その反対側の壁には店員の手書きのポップがたくさん貼ってあった。某雑貨さんみたいに見ているだけでもわくわくするようなそれが。
(書を捨てよ、町へ出よう)
筆で書いたようなその言葉は一番見える所に貼られていた。そしてその紙の隅のほうに店長のはんこが押してあった。僕にはわからないけど多分深い意味があるんだろう。奥のテーブルには先客がいたので僕は手前のテーブルの上に雑誌置いてそこの椅子に座った。特集ページを開いて見ると今のバンドメンバーになるまでに何度かメンバーの入れ替えがあった事や解散寸前の時の話しなんかが書いてあった。よく方向性の違いなんて言う人がいるけど、その通りだと思う。プロを目指した今のメンバーと、趣味と決めていたメンバーの意識はかみ合うはずがない。今でもたまに会って釣りに行ったりしているって書いてあったのに少し笑ってしまった。なにより気になったのは今のバンド名になる前に色恋沙汰でバンドか壊れた話で、締めの言葉はやっぱり(バンド内恋愛は辞めた方がいい笑)だった。
見るんじゃなかった。
僕はそっと雑誌を閉じて、通りに面した窓のほうを見た。雨はまだ降っている。どんどん不安が大きくなる。このまま中目黒と花ちゃんの関係が悪くなったら一緒にいられなくなるのかなと思うとため息がでる。部長もみやも、何を考えているんだろう。テーブルに頬杖をついたままぼんやり外を眺めながらスタジオで中目黒に言った言葉を思い出していた。僕はみんなと一緒にバンドができればそれでいいやって思う。先の事は別に今考えても仕方がないから。みんなはどうなんだろう? これが解散の危機ってやつなのかな? そもそも僕のそれが間違いなんじゃないかとさえ思う。よく言う不協和音。イヤホンから流れてくる曲も改めて聴くと確かにひどいもんだった。まるで別録りしているみたいにドラムもベースもバラバラ。僕のギターも音が潰れている。その中で必死にボーカルとみやのコードストロークがそれに合わせようとしているのがわかる。もうみんなと合わせられるのは当日のリハーサルだけだと思うと頭が痛くなった。
ふと、見られているような感覚がして周りを見渡すと奥のテーブルの女子高生達がこっちを見ていた。