五話
砂浜でだべる二人。
こいつらそれしかしていない。
「例えば僕がキュウリだとする」
『うん』
「それはさすがに嫌なのでウサギだとする」
『さすがにね』
「ウサギは可愛いので幸せだとする」
『四足歩行は大変そう』
さやかの呟き。
これを解決するのは容易ではない。
「……」
『……』
「二足歩行のウサギだとする」
『わあ画期的』
解決した。
「ついでに言葉も話せるとする」
『優秀なうさぎさんだあ』
「関数計算てきなものもできちゃうとする」
『人間越えしてる可能性が出てきた』
「超越者ゆえの孤独に苛まれるとする」
『私がいるから心配しないでいいとする』
「……キュンときたとする」
『……恥ずかしいとする』
向かい合うじゅんとさやか。
「さやかさん」
『なに』
「ありがとう」
『こちらこそ』
「一緒だったのが君でよかった、しゃひゃきゃさん」
『かつてないほど噛みたおしたとする』
「誠に遺憾」
『どんまいじゅんくん』
どんまいじゅんくん。
砂を蹴りながらさやかが呟く。
『幸せな暮らしがしたい』
「幸せな暮らしとは?」
『定義を聞いているととらえてもいい?』
「おうけい」
『答えるのもやぶさかではない』
「うおおおおお!」
『すごい喜ばれた』
「すごい喜んでるなう」
『しかし今は時期尚早だ。やはり駄目だな』
「そ、そんなあ……」
『そう悲しむな、じゅんよ。そなたにこれをやろう』
「こ、これは……?」
『素敵な靴下だ』
「わあ素敵」
『この横の線とかとてもクールじゃない?』
「同意しかない」
『私が編んだ』
「え?」
『私が編んだんだ』
「……本当に?」
『んだんだ』
「……」
『……』
「胸の鼓動が高鳴る。これが……恋!」
『同意しかない』
じゅんは靴下に足を通した。
「履いた」
『似合う。ごりごりのイケメン』
「ありがたいお言葉頂戴つかまつりまくり」
『すごいペースで頂戴してる……!』
「はあ……はあ……! まだまだぁ……! まだまだ頂戴するぞぉ……!」
『この頂戴するペースは、ギネスも夢じゃない!』
「ギネスは夢」
『夢かあ』
「さすがにね」
『さすがにかあ』
さすがにだった。
「無人島でどうやって編んだんだよ!」というツッコミは受け付けません。
頑張って編みました。