四話
相変わらず砂浜でだべる二人。
「この前捨てられてた子猫を拾ったんだけども」
『優しい』
じゅんは優しいのだ。
「その子猫が実は神様であった」
『あれま』
「お礼に一つ願い事を叶えてあげましょう……って」
『太っ腹な神様だぁ』
「だから僕は、楽しく生きたいって言ったのさ」
『結局それが一番だよね』
「ベストテンの中のトップだね」
『たしかに』
さやかが頷きを返す。
「でも全部夢だった……」
『ああ……』
「悲しい……」
『落ち込まないで……』
「わかった!」
『立ち直りの早さフレッツ光かよ』
「明るい未来が待ってるのさ」
『よくぞ言った』
「僕が未来を変えるんだ!」
『明るい未来を?』
「明るい未来を」
『変えちゃうの?』
「変えちゃう」
『……』
「……」
『変えちゃえ!』
「やっほーい!」
変えちゃうのかーい。
じゅんは背後に広がる森を見る。
「そう言えばさっき、珍しい妖精を見つけたよ」
『妖精の時点で珍しい可能性がある』
「可能性は無限大」
『割りきっていこう。それで妖精はどこ?』
「消えちゃった……」
『そっか……』
「信じてくれる……?」
『五分五分かな……』
「昔の話をするね?」
『限りなく唐突に近い唐突だね』
それはもはや唐突ではなかろうか。
「あれは僕が妖精だった頃の話」
『以前妖精やってたの?』
「昔の話さ」
『うわあ、ハードボイルドー』
「俺の皮膚、紫色なんだ」
『うわあ、ハードボイルドー』
「ハードボイルドって許容範囲広いね」
『懐の大きさはさやかさんが保証する』
「さやかさんがかあ」
『さやかさんがだねえ』
さやかさんがなのだ。
「……」
『……』
「……ふぁーあ」
『眠い?』
「眠いを通り越して逆に眠い」
『それは果たして逆なのかな?』
「本人が逆と言うたら逆なんやで」
『出身どこ?』
「日の出ずる国、日本」
『えっ! 私も!』
「マジ? タメじゃん!」
二人は意気投合した。
『こんな偶然があるなんて……』
「この世は不思議だね」
『一生かけてもあれだよね』
「あれだねえ」
あれなようだ。
砂浜で眠っていたじゅんの脳内に、突如として女性の声が響く。
『私の声が……聞こえますか?』
「こ、この声はまさか!」
『私です』
「さやかさんか」
『嬉しい?』
「そりゃもう、とても嬉しいよね」
『とても嬉しがってみて?』
「やったー! うひょひょひょひょーい!」
じゅんは飛び跳ねる。
その勢いたるや、もうなんかものすごい感じだった。
『ありがとう……』
「うん……」
『眠れ……』
「ぐう……」
『起きろ……』
「ゲッドアップ……」
『ひざまずけ……』
「ご主人様……」
『ご主人様になってしまった』
「ご主人様、わんわん!」
『それはちょっと……』
「ごめん……」
『いいよ……』
「ありがと……」
『雨降って地固まったみたいな心持ち』
「つまり、より強固な絆が結ばれたということ?」
『然り』
「やったぜ」
やったぜ。