三話
砂浜でだべる二人。
「借金ってさ、怖いよね」
『怖すぎだよね』
「すぎる?」
『すぎる。あれは怖いですよー』
「あまりの恐怖に体が震える」
『マナーモードじゅんくん』
「ついに僕は携帯となった」
『大きすぎて持ち運びには不便だね』
「すぎる?」
『うん、すぎる』
「……すぎるかあー」
すぎたのだ。
「あ、急に思い出しのすけ」
『何を思い出しのすけ?』
「あれは去年の冬。真夜中のカラオケボックスで一人立ち目指してたら、ピエロがクリスマスプレゼントに内科医をくれたんだ」
『こちらさやか。急激な方向転換が行われた。状況がつかめない』
「掴めないなら、握りつぶせ!」
『掴めないものは、握れないんだよ』
「そうなんだ……」
『うん……』
「ままならないね」
『ぱぱならないしね』
「そんな時でもぉ?」
『二人揃えばぁ?』
「なんかやれるきがしないでもない!」
『わかるぅ~』
「わかられた……」
『わかってしまった……』
「すごすぎる……」
『これが……ゾーン……!』
さやかはゾーンに入った!
「入った?」
『どこに?』
「ゾーンに」
『入場無料だったから……』
「そっか」
『つい……』
「……」
『ほんの出来心で……』
「君は出来心かも知れないけど、僕は超興奮したよ」
『性的興奮?』
「えっ?」
『えっ?』
「……」
『……』
「いや、普通に」
『鳥肌てきなやつ?』
「鳥肌てきなやつ」
『そっか』
「再現していい?」
『私がゾーンに入ったと知ったことにより、超興奮した当時のじゅんくんを?』
「さやかさんがゾーンに入ったと知ったことにより、超興奮した当時の僕を」
『賛成多数で可決されました』
可決されたので、じゅんは当時のじゅんを再現する。
「うおー、すげー。ゾーンだー」
『……』
「こんな感じ」
『……』
「どうだったかな?」
『ぐすっ……ごめん感動しちゃって』
「泣かないで。泣かせるつもりはなかったんだ。君の涙はみたくない」
じゅんはさやかの涙を拭う。
『すごく……いい、お芝居だった』
「知ってる」
『知っていたのか』
「最初からな」
『貴様……!』
「この紋所が目に入らぬか」
『黄門様……!』
「ほら、はやくあいつのとこいってやれって。……あーあ、柄にもねえことしちまったぜ。……幸せに、なれよな」
『苦い思い出が一つ増えたsummer……!』
「発音いいね」
『一応帰国子女目指してたからね』
「あそこ倍率高くね?」
『高いよねー』
「高すぎて逆に低いまである」
『そんな裏技があったとは』
「フッ、まあ裏の世界でしか知られてないからな」
『あ、あなたは一体……』
「名乗るほどのものじゃないさ」
そう言って背を向けるじゅん。
ぽとりとポケットの中身が落下。
『こ、これは……印籠に、雲水に三つ葉葵の紋所……? ……黄門様ー!』
じゅんくんは水戸黄門でした。嘘です。